買物を終えて、デンヴァーのメインストリートに面した古い建物のエントランスに車が泊まった。
ブラウン・パレス・ホテル。
年季の入った高い建物。
敷かれたレッドカーペット。
デンヴァーに来た時、何度かここの前を通ったっけ。
ベルボーイに扉を開けられた。
「ありがとう」
笑いかけて、買物の荷物を持ってもらった。
ゾロがキィをベツの係りの人に預けていた。
専用の駐車場に入れてくれるのだろう。
開けられたドアを通り抜けると、建物の高さ分だけ吹き抜けになったロビィが目に飛び込んできた。
シンプルなファサードに対して、中はクラシックにエレガントだ。
少し離れたところから、生のハープ演奏がちらりと聞こえてきた。
入って少し奥まったところ、ソファに案内される。
予約の時間をゾロは言ってなかったのかな?買物するって言ってたし。
けれど、そんなに待たされることもなく。
パンフレットかなにかで見覚えのある男性が、歩いてくるのが見えた。
ゾロが耳元で、タバコ吸いたい、って小声で言っていたけど。
「来たよ、総支配人」
笑って目線で示した。
「あぁ、うぜぇ」
「どの部屋を予約したの?」
「トップフロア、」
「…プレジデンシャル?じゃあ来ちゃうよ。仕方ない」
笑ってゾロの肩にコツンと頭を当てた。
「止せ、って言っておいたんだけどな、クソ」
「それがお仕事だもん。挨拶には来るでしょ?」
「あぁ、優秀な子守りが懐かしいぜこういうときばかりは」
きっちりとボウ・タイに黒のスーツを着た男性が、側まで歩いてきた。
「ようこそ、ブラウン・パレス・ホテルへ、ミスタ・チェリール」
大きすぎないけれど、はっきりした声が、ゾロに語りかけた。
そしてオレには目礼。
こんにちは、ミスタ。
笑顔で応える。
ゾロが、すう、ととても人当たりの良さそうな笑みを浮べていて、こっそりと笑った。
「失礼だが、私はシェリールですよ」
にっこりと笑った。けど、目が笑ってないよう?
「大変失礼いたしました、ミスタ・シェリール。私が総支配人のロブ・ジェンキンスです」
さらり、と謝れるところは、うん、さすがだね、ミスタ・ジェンキンス。
「構わないよ、よろしく。ミスタ・ジェンキンス」
「ありがとうございます」
さらりと笑顔で、部屋まで案内する、って言ってた。
数名の制服姿のボーイが、荷物を持つために現れた。
すい、と立ったゾロに促されて、ソファから立ち上がって。
「こちらへ」
柔らかな物腰のミスタ・ジェンキンスに案内されて、年代を感じさせる、けれどもスムーズに動くエレベータに乗って、トップフロアの部屋まで辿り着いた。
ちらりとゾロが振向いて、うんざり、って顔をしたのが可笑しくて。
こら、って小さな声で言って、トンとゾロの肩に触れた。
ドアを開けられて、このホテルと同じ様に年代を感じさせるアンティーク家具が揃った部屋に、導かれた。
「何かございましたら、遠慮無くコンシェルジェまでご連絡くださいませ」
「あぁ、ありがとう」
テキパキと荷物を運び込んでくれたボーイの一人に、
「ありがとう」
そう笑って、チップを渡した。
「ありがとうございます」
頭を下げてからドアに向かっていく彼らを見送る。
「ごゆっくり、おくつろぎください」
そう言ったミスタ・ジェンキンスが、頭を下げてから、最後にドアを閉めて出て行った。
うん、対応いいね。
笑ってゾロを見た。
「ステキな部屋だねえ」
ゆったりとしたソファの一つに腰をかけた。
内装をぐるりと見回す。
クラシックでエレガント。
うん、ステキだ。
ゾロがタバコの火を点けて、すい、とオレを見た。
僅かに広がるタバコのアロマは、けれど。すぐに空調に吸い込まれていくみたいだ。
うん、メンテナンスもしっかりしてるみたいだ。
「クラシックな場所もたまにはいい、」
「アナタに似合うよ」
笑う。
そう、ゾロは。この部屋でもしっくりと馴染んで見えるね。
ゾロがく、と片眉を跳ね上げた。
「オマエの方が馴染んでるだろう」
「うん?そうかな。家とテイストが似てるからかもしれない」
に、と笑ったゾロに、ぽんぽん、とソファのアームレストを叩いて示した。
「これとかね」
「そのソファ、陽が当たってるから丁度ネコが昼寝していそうだしな」
「…こんな風に?」
コテン、と横になって、みぃあう、と鳴いてみせた。
くすくすと笑いが込み上げる。
「かわいらしくて多いによろしい」
からかい混じりにそう言って、オレの喉をさらりと撫で上げてから、バーカウンタの方へと行っていた。
「この後、車で行くの?」
うん、このソファ気持ちイイ。このまま横になってたら、本当に寝ちゃえるかも。
うっとりとしながら、ゾロがカウンタから振向くのを見ていた。
「あぁ、そう」
「ふぅん」
ディナー、どこに行くのかな?
ああ、着替えなきゃいけないよねえ。
んー、と身体を伸ばしてから、上体を起こした。
「砂漠じゃ食えないものにしよう。―――あぁ、だけど。それほどドレスアップしなくていい」
ソファの横に置いてもらった荷物、紙袋のデザインで、行った店を思い出す。
ゾロはくい、と透明の液体を喉に滑らせていた。ジンかな?
「楽しみ」
笑って立ち上がる。
紙袋を一つ開けて、中をちらりと確認。
「ちょっと遅くなるかなぁ?」
「あぁ」
ゾロがにこりと笑った。
うん、デンヴァーの夜は、昼の気温の約半分くらいまで温度が下がるからなぁ。
まあ、砂漠の夜ほどには冷え込まないけど。
よし。じゃあ車で決めたこれにしようっと。
紙袋の中から、ヴィニルに包まれた服を取り出す。
さっきこれ、ソフトペーパにも包まれてたよねえ?
タグは…ああ、外されて、一緒に包まれてるや。
今日着るものを、一通りラッピングから外していたら。
ゾロがソファに戻る途中で、頬にちょん、とキスをしていった。
「…ねえ、すぐに出かけるの?」
ゾロに向き直って訊いた。
「シャワーを浴びたければ、それくらいの時間はある」
「んー」
ゾロに近寄っていった。
「シャワーより、キスがいいなぁ」
とん、と唇に口付けた。
「―――ふうん?」
つい、とソファに座っていたゾロがオレの腕を取った。
水のシャワーより、キスのシャワーの方が嬉しい。
そう囁いてみた。
グリーンアイズを覗き込む。
く、と引き寄せられて、膝の上に座らされた。
笑ってゾロの首に腕を回した。
する、と頤のあたりを、ゾロの唇が触れていった。
「Won't you kiss me?」
笑って言葉を舌に乗せてみた。
きゅ、と喉元にキスをされて、ふふ、と笑いを零した。
「Won't you kiss me on my lips?」
唇にキスして、って強請ってみる。
今日はいろんなところで、ゾロにキスしたいのガマンしてたから。
すごくキスしたくなってる。
込み上げるまま、クスクスと笑っていたら。
ゾロがふい、と目線を上げて。す、と笑みを刷いていた。
「ゾォロ?」
「"お前の接吻は 夏の乾いた小麦のような匂いがする"」
ゾロの目が、きらりと光を弾いた。
「"私はお前の見開いた目の虜、よしたといお前が私を愛さなくても"」
私はお前を愛するだろう、そうゾロがドラマティックな口調で続けた。
ロルカからの引用。
ふわ、と唇に口付けられた。
「…愛して」
笑って唇を押し当てた。
押し当てるキスを、いくつも交わしている合間に、ゾロがちいさな声で言った。
「"明るい真昼の下で、おもいのままに齧り尽くさせてくれ"」
する、と滑り込んできた舌先を、迎え入れた。
てろり、と舌先を合わせて、ゾロにしがみ付いた腕の力を増した。
ぱらぱら、とゾロの指先が、器用にオレのシャツのボタンを外していく。
「ん…」
熱い掌が肩の線を辿って、そうっと合わせた唇の位置を変える。
ニコチンのフレーヴァとジンの僅かに甘い味が混じってた。
少しずつ、口付けが深くなっていく。
頭がぽうっと白じんできて、ふつ、と体温が上がる。
「…んん」
口付けを、夢中になって味わう。
甘く宥めるように、絡まっていたゾロの舌先がする、と引かれた。
濡れて熱りだした唇の形を辿る。
「…っ」
ふる、と震えた瞬間、ちゅ、と濡れた音を立てて、きつく啄まれた。
ゆっくりと眼を見開くと、潤んだ視界の向こう側、ゾロのグリーン・アイズが光っていた。
しゅる、と音を立てて、肩からシャツを落とされる。
こくり、と息を飲む。
パシパシ、と腰のあたりに電気が停滞しているみたいだ。
ゾロが間近でぺろりと舌なめずりをした。
く、と後ろ髪を引かれて、上向いた首の根っこのところを、く、と食まれた。
「…ふ、っ」
きゅ、とゾロの背中に爪を立てる。
きり、と牙が皮膚に食い込んで、その後を舌先が擽っていく。
「…んん」
ひくん、と身体が僅かに跳ねた。
快楽が、ゆっくりと身体中に熱を帯びせていく。
そのまま、ゾロの唇が、すう、と鎖骨の間の窪みまで降りてくるのを、目を閉じて感じていた。
舌先がゆっくりと窪みのカーヴをなぞっていく。
「…ぞ、ろぉ…」
蕩けた声、口から零れていった。
ゾロの熱い手が、ゆっくりと項を撫で上げながら愛撫していく。
「…ぅ」
とろりと身体が溶け始める。
ずる、と腕から力が抜けて、身体が僅かずつ傾いでいく。
つ、と頤下までゾロの舌が喉を辿っていった。唇の端に、それを留めて。
きゅう、と抱き込まれて、目許に口付けられて、ふぅ、と息を吐いた。
体重を預けきる。
「ぞ、ろ…」
「Won't you kiss me, please?」
キスしてくれないのか、って、ゾロの言葉が届いた。
オレがさっき言った言葉。
きゅう、と力が抜ける腕を叱咤して、身体を起こし。
柔らかくゾロの唇を啄んだ。
抱き寄せられて、それを何度も繰り返していく。
「…今日いちにち、キスしたかった…」
吐息に混ぜて、そうっと囁く。
「大学にいる間も、買物してた間も…」
そうっとゾロの唇の狭間を舐め上げる。
く、とゾロが、オレの唇を甘く噛んでいった。
「試着している間…」
唇が離されるタイミングを狙って、言葉を綴る。
「何度もアナタを引き寄せて、こっそりキスしようとか、考えてた…」
薄く開いた瞼の向こうで、ゾロの眼が笑みを横切らせていた。
「すっごい…ガマンしたんだよ…?」
背中をすぅ、と撫で下ろされて、ひくん、と身体が跳ねた。
横をずれていったゾロの唇、つる、と耳朶を口に含んでいった。
「…あ、っ」
甘い声が漏れる、勝手に。
ぺろり、ぺろり、と柔らかく舌が耳朶に触れていく。
「ふ…う、」
腰が勝手に揺れて、ゾロの膝の上に、僅かに下半身を押し当てた。
熱くなっちゃってる、身体中。
する、とゾロの掌が、熱くなったオレの高ぶりを辿っていった。
「あ、ァ、ン」
ぎゅう、とゾロに回した腕に力をこめた。
きゅ、と耳朶を吸い上げられて、ふるふる、と身体が震える。
き、と噛むようにしてから、漸くゾロの唇が耳朶から離れていく。
「ン…」
ぴくん、と身体が跳ねた。
そうっと頬に口付けが落ちてきた。
ゾロの掌がオレの高ぶりを一瞬だけ握りこんだ。
「あ、ァ…ぞ、ろぉ…」
潤んだ視界を開くと、ゾロがとても満足そうな笑みを浮べていた。
…ねぇ、もっと欲しいよぉ…。
こくり、と息を飲んだ。
「―――サンジ、」
ゾロの囁き、とても甘い。
「…ぞ、ろぉ…っ」
強請るオレの声は、もう蕩けきっていて、恥ずかしいくらいだ。
ちゅ、と唇にキスが落とされた。
瞬いて、ゾロの眼をじいっと見詰める。
てろり、と舌先が合わされて。
ぐ、と抱きしめられた。
そして。優しい声が、告げた。
「頑張って、着替えろよ…?」
「…ヤダ」
きゅう、とゾロに抱きついた。
すう、と髪を撫でられた。
「着替えろ、って」
「…あぅ…ゾロが、欲しいのに…」
ぞくぞく、と快楽がまだ背中を駆け上っていってるのに。
…きゅう、と身体のどこかが鳴いた。
「あとから喰わせろ、」
…キュー…。
低い囁きが、腰にストンと落ちてきた。
「ン、ん…っ」
ふるふる、と身体が震えるのを止められずに、ゾロにしがみ付いた。
きり、と首筋をきつく吸い上げられて、ひくり、と息を飲んだ。
「お前にだけ飢えるから」
はぁ、と熱い吐息で快楽を逃がす。
「ぞ、ろ…」
…わかった。
「…ガマンする…」
こくり、と息を飲みこんだ。
「―――イイコだな、」
「ふ…っ」
さらりと喉元を撫でられて、また体温が上がった。
離れるの、ヤだけど。
ホントは、もっと触ってほしいけど。
…そうっと快楽を宥めて、ゾロの膝の上から降りた。
「シャワー…浴びるね…?」
そしたら、この熱も。少しは納まるかなぁ…?
「フン、一人でか―――?」
「…一緒に入ったら、ガマンできないもん」
に、と笑ったゾロの肩に、がぶり、と歯を立てた。
ゾロがくくって笑っていたけど。
笑い事じゃないよう…!
さらり、と背中を撫で下ろす手から逃れた。
「ガマンするから、そのかわり…」
「―――ン?」
笑いを残したままのゾロの目許、優しいそれをみたまま言った。
「…あとで、ガマンしないからね?」
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