どうして大人同士のオトコは、手を繋いだらいけないんだろう?
オンナノコたちは、手を繋いだり、腕を組んだり。胴に手を回したりして道を歩いても平気なのに。
オトナのルールって、とても理不尽だ。
けれど。
平等を謳うのは、それが叶っていないからだ、とジャックおじさんは言った。

平等であることを望むのと。平等であるということは、別なのだ、と。
陸地を歩いているとき、空気を求めないのは。わざわざ求める必要もないほどに、もうすでに持っているから。
水に潜った時に、空気を求めるのは。そこには必要なだけの空気がないから。
世の中は、不公平なんだよ、シンギン・キャット。
しかし。世の中は不公平であっても、いつもなんらかのバランスを保とうとしているんだよ。
そのバランスが崩れた時。
世界はそれを元に戻そうとする。元に戻らない時は、それに慣れるんだ。
いいかい、シンギン・キャット。
大切なのは、いつも自分の中で、バランスを保つことだ。
それさえしていれば、迷うことなど、なにもない。

オレは今。
触れ合いたいと思っている。
言葉には出来ない気持ちを、欠片でもいいから。
どうにかして、ジョーンに伝えたいと思っている。
けれど、今は、そうしてはいけない時なのだ、とオレは知っている。
だから。
ウチに帰ったら、一杯ハグをしよう。
沢山のキスをして。
身体のパーツを齧って。
そうして、引っ付いて眠ろう。
そうしたら、ジョーンは。安心、できるかなぁ。
オレがカレをとてもスキだってことは、きっと一生オレが抱えていく気持ちだってことを。



スーパーマーケットの中は、とても広くて、物に溢れている。
こんなに沢山の食料が、こんなにバリエーション豊かにあるなんて。
そして、オレはこれらのものを、なんだって買えるぐらいにお金を持っている。
それはとても幸せなこと。
オレは、この中で欲しいものは、そんなにないけれど。
ダイスキなジョーンが、色々な物の中から、何かを選んだ時。
それをあげられるのは、もっと幸せなこと。

サングラスの下、ジョーンが目を輝かしていた。
オレは小さい頃、こういうところには来なかったから。
大分大きくなってから、初めて足を踏み入れた時、とても圧倒されてしまったことを覚えている。
一つ一つの商品を見ていく時間なんか無いのに。オトナはどうやって、選んでいくんだろうって、迷ってた。
けれど、ジョーンは、広いって、感嘆の声を上げているけど。
戸惑うことは、ないみたいだ。
新しいことに出会った時。きっとジョーンは戸惑うことは少ないのだろう。
強いな、と思った。

「サンジ!!」
「…なぁに?」
にこお、って笑ったジョーン。
「たのしいね?」
スキな笑顔。ジョーンの笑顔。
特別だ。
「うん。カート、押してくれる?」
「うわ、すごいやおっきいねえ」
ひゃははは、って笑って。
かわいいな、って思った。

「まずは、グローサリーからね?」
「了解、隊長」
今週分の買物を、済ましておきたかった。
大きな冷蔵庫。それらを全部仕舞っておける。
それも、幸せ。
カートを引き受けてくれたジョーン、あっという間に向こうの端まで行ってしまった。
困ったなぁ、帰ってきてくれないと、荷物を乗せられないよ。
すごい勢いで、手招きされた。
…どうしよう、ここらにある野菜を、欲しかったんだけど…。
まぁ、いいか。後で戻ってくればいいんだし。
軽く走って、ジョーンのところに行った。

「何かあった?」
「サカナがいる!」
「…ああ!食べたい?」
水槽を指差して、ジョーンが言った。
「泳いでるよ?!すごいねえ」
「鮮度管理の証明だって、どっかで教わった」
確か、新聞だったかな?
「ふうん?」
「食べたい?」
「あとで!」
うわ。
あっというまに、次のレーンに行ってしまった。
どうしよう、追いかけていったほうがいいかなぁ?
ジョーン、足長いなぁ。
すごい早いよ。どこに行ったんだろう?

あ、いたいた。冷凍食品の前だ。
「サンジ!」
2レーンほど、冷凍食品で埋まってるんだもんあぁ。しかも、両サイド。オレもびっくりしたよ。
「なぁに?」
「宇宙食みたいだ!」
「ああ!そうだねぇ!!でもね?もっと宇宙食みたいになっちゃったのが、あるよ?」
にかあ、って笑ったジョーンに、1個手前のレーンを指差した。
「ほんとう?」
「真空パックになってるの」
「すごい!」
うわ、もう移動してるよ。早いなぁ。

「ねえ、サンジ。死体も真空パックできたらラクだよねえ」
…死体?
「手間かからないね」
「…手間?」
無邪気に言ったジョーンを見上げる。
「ん?」
にこにこしているジョーン。
一体、どんな経験をしたんだろう?
「それって、保存をする目的?それとも、埋葬のこと?」
「片付けるのに決まってるでしょ?」
…すごいことを、平然と言われた気がする。どういう意味だったのだろう?
埋葬は、亡くなってしまった人を送る儀式で。亡くしてしまった人を惜しむ人を、慰める儀式だ。
…確かに、都会で誰か亡くなったのなら、大変だろうけど。
荒野で誰かが亡くなったのなら、本来なら鳥葬とか、獣葬が自然なのに。
ヒトは態々、埋葬することを選んだ。あるいは火葬とか。
…なんで、手間がかかるっていうのだろう?手間をかけることに、意義があるのに。
エースさんと、関係あることなのかな?
でも、ジョーンはもう、商品を見るのに夢中だ。
…大切でないヒトの死の時のことを、言っているんだろうか?
…ジョーンって、どんな場所で育ったのかなぁ?
後を追いかけていった。

「ねえ、サンジ?」
「うん?」
「冷凍したラムの脚でね、旦那さんを殺しちゃったおばさんの話しってる?」
「知らない」
ジョーンは、とてもキラキラした目で、食品を見ている。
「ふうん?それでね、ポリスが来るんだ。怪しいからって」
「…ふーん?それで?」
「でもね?おばさんはポリスにおいしいラムシチューをご馳走するの」
「うわぁお!それってもしかして…?」
「イエス!!殺されちゃった旦那さんとラムなんだよ」
ジョーンがにぃって笑った。
イタズラな小悪魔みたいだ。
「それのまねをね?アホウがしたんだ」
そんな顔も、できるんだね。
「ええ!?それでどうなったの?」
「解体してる途中でね、具合が悪くなったのさ!!」
「…?だって、冷凍のラムなんでしょ?」
「男はさー?バラスのに慣れてないでしょう?動物を」
「ああ、フツウはそうだねぇ」

「それで、具合が悪くなって。ポリスが来た時には、凍らせた死体と生の死体2つの間でゲロってたんだってさ」
「…ええーと、それって…?」
ナマの羊1体で、殴りつけて殺したってコト???でも、重いしなぁ?
「すごく、バカだよねえ?そんなヤツ使い物になるハズがないのにさ」
…そんなヤツ、使い物になる…?
「弁護士もつける価値が無いくらいだ」
「ジョーン?ヤツって、なぁに?」
「ん?その男だよ、バッカだよねえ?」
「…ジョーン。どうしてそんなこと言うの?」
ケラケラ笑っているジョーンが信じられなかった。
ヒトを殺せる必要があって、いったい何になるんだろう?
「なんで?」
きょとん、って顔した。本当に、解らないみたいだ。
…この話題は、こんなスーパーマーケットみたいなところで、交わされていいものじゃない。
だけど。

「どうして、人を殺して平気な人間が、必要なの?」
ああ、ほんとうに。
殺すなんて、必要最低限でしか、必要のないことなのに。
食物を得るために殺すことだって、避けられないけれど、哀しいのに。平気になんて、なれない。
ジョーンが、すい、とマジメな顔になった。
「ビジネスだから。でも、それより前に」
ビジネス…?
「ヒトのモノを採るんだから、自分がやられる覚悟は持っていないといけないでしょう?」
ヒトの物を、とる…?
じいっと、見詰められて。すぐにまた、別のレーンに行ってしまった。
…どういうことなんだろう?訳がわからないよ?
自分の命を支えるために、家畜を殺すから。
だから、自分が何かの命を支えるために、殺される覚悟はしてなければいけないけれど。
…そういうニュアンスとは、違ったみたいだ。
ビジネス?そんなビジネス、あるのかなぁ?

レーンの端から、ジョーンの頭が飛び出た。
笑顔、だ。
…訊いた方が、いいのかなぁ。そのビジネスのこと?
呼ばれたほうに行った。
「ねえ、チェリーがいっぱいある!」
チェリー。
どうして、そんな風に、切り替えられてしまうの?
ああ。だけど。
「買っていい?」
知らない方がいいこともあるって、ジャックおじさんが言っていた。
オレは今、知ったらいけない気がする。
山盛りの、アメリカンチェリー。ニコニコ顔の、ジョーン。
「ポーチからさ。種飛ばして競争しようよ」
「いいよ」
オレは。
知らなきゃいけないのかもしれないけれど。
アナタが抱えている現実から、目を反らすよ。
今はまだ、受け止められないから。

「ねえ、サンジ……」
「はい、ジョーン?」
チェリーを袋に詰めながら、ジョーンが言った。
「ごめんなさい。もう言わないから」
「…?」
「わらったりしないから。ごめんなさい」
…アナタは、とても頭のいいヒトだね。
目を閉じた。
「うん」
きっとずっと、強張った顔をしていたのだろう。
「許すから、その代わり」
ほっ、ととても安心したように、吐息を吐いたジョーンに。にこって、笑いかけた。
「・・・はい?」
「お野菜選ぶ間、カート押したまま側にいて」
すごい笑顔になった。
さっきの、にこぉっていうんじゃなくて。
「うん。もちろん」
全身で、嬉しいって、顔してる。

「お肉もね。そしたら。アイス、2種類選んでいいよ?」
「ヴァニラだけでいいのに、」
それとも、お菓子の方が、いいかなぁ?
「…ケーキ、焼いてあげようか?」
「ああ、じゃあチェリーパイだ!たくさん買わなきゃね?」
「チェリーパイだね?うん、じゃあ、もう一袋いるね。作るの、手伝ってくれる?」
うわ、すっごい喜んでる。
「Yes, ma'am」
「コラ!オレはレディじゃないよ!」
あはは、って笑った。
「そうだね、レディよりキレイだもんね」
「そんなことはないよ?レディには、レディの美しさがあるんだから」
ウィンクしたジョーンの腕を突付いた。

「んー?でも見飽きたな、」
「見飽きるものなの?」
ぽそって呟いたジョーンに、こら、って顔をして。
「見飽きるよ、ツマンネエ。」
「ダメだよ、いろんな美しさを愉しむ目を養わなきゃ」
苦笑した。
「ぼくねえ、いま忘れてるけど。」
「うん?」
「ぼくのあたまのどこかでね、男のひとがね、」
チェリーを詰め終わって、上を縛ったジョーンが、それをカートに入れた。
「中身が一緒じゃおもしろくねえんだよ、って言ってるよ?」
「…内面ってこと?」
「しらない、」
ガラガラとカートを押しながら、早足で歩く。
「…随分と、すごいヒトだねぇ、そのオトコノヒト」
「ぼくなんじゃないかな。」
あっさりと、言ってのけた。

「ネエ、サンジ」
なんだか、幸せな人生を送っていなかったような感じがする。大人のジョーン。
そういえば、最初。とても怒ってたっけなぁ。
「なぁに、ジョーン?」
「それでもまだ、プレッジはいきてる?」
前を向いたまま、ジョーンが言った。
「もちろんだよ、ジョーン。だって、オレは誓約したんだから」
偉大なる霊という神に、誓ったんだから。
「いやになったら、いつでも言ってね。」
「いやになんか、ならないよ」
あなたが悲しいのは、嫌だから。ジョーンはそう言ったけれど。

「だって。アナタは消えてしまうわけじゃないから」
アナタは、ずっと、その魂の中の一部であり続けるのだから。
「おとなのぼくは、サンジのきらいなこと一杯言いそうな気がする、ごめんね。」
「うん」
オレはきっと。
傷付き、哀しむだろうけれど。
だけど。
それでも。
「オレは、きっと。ダイジョウブ。ジョーンがずっと一緒だって、知ってるから」
沢山泣いてしまっても。
「どんなアナタでも。ずっと想うよ」

「ねえ、サンジ。」
今、とてもキスをしたいのに。それができないなんて。
せめて、手で肩に触れた。
ねぇ、本当に。
後悔しないくらい、アナタをスキになったんだから。
きっと、大丈夫。
だから、笑った。
笑って、ジョーンを見上げた。

「はい?」
一瞬だけ、肩に置かれた手に、頬が寄せられた。
「3分でお買い物済ませよう?はやく家に帰ろうよ」
切ないね。
「うん、そうだね」
「ぼく、あなたにキスしたい。」
目を閉じて、手を離した。
「うん。オレも」
「じゃあ、競争」
でも、走ると危険だから。
「ジョーンは、アイスを取って来て?その間に、オレは野菜を積んじゃうから」
「うん、いちばん大きくて美味しいやつ、」
笑った。
「サンジの手に乗せて食べようっと」
「他にも、欲しいものがあったら、持ってきて。オレはカート引っ張って、ここか、お肉かお魚のところに居るから」
にぃって笑ったジョーン。わくわくするね。
「だたし、走っちゃだめだからね?それじゃ、よーい、どん」
「すぐに戻るから。そしたらカート持っておくからね」



走ったらだめだってサンジが言ったけど。これは走ってない。
うん、限りなく大幅のスキップだから。擦れ違ったおばさんも笑ってたし。
アイスのレーンは、ほんとうに冷凍庫一杯にいろいろあって。
ちょうど、フリーザーをあけてたストアのおじさんに、一番美味しいのはどれ?って聞いたら。教えてくれた。
それの一番おっきいのを2つ抱えたら、すごく手が冷たくなった。おじさんがまたわらった。
つめたいですねえ、って言ったら。これをつかいなってちっさなカゴをくれた。

ダッシュだ。戻らなくちゃ。サカナのところにいるかな。
サンジ。
それともお野菜かな、ぼくセロリは嫌いだからサンジ買ってないといいんだけど。
あ、いた!サカナのとこだ。
「サンジ!!」
サカナを買ってた。
「早いねぇ!」
どかん、ってカートにカゴ入れた。あ〜〜、セロリがあるよ。
にこにこってサンジがそう言ってわらったけど。
カートの中身を点検した。
アボガドは、うん。好き。チェリーは、だいすき。
ブロッコリー?ああ、うん。へいき。レタスは、うん。大丈夫。
キュウリは、まあねえ?いいや。キャベツは、湯がいたのでもおいしかったし。
ズッキーニはこんどはフライにしてもらおうかな。
パプリカ、いろんな色の。これはサラダ用かな?ポテト、うん。これオッケー。
バジル?でも、これはきっと何かに、混ぜるんだ。ピッツァに乗っけても美味しいし。

「サンジ、これはいらないよ」
「どれ?」
返事を聞く前にセロリを掴んで、ダッシュした。
うわあ、手に匂いがついちゃうよ。
ジーンズで手を擦りながらサンジのトコに戻った。
「こら!ジョーン!!せっかく美味しいのに!!!」
「だって嫌いだ。いくらサンジの頼みでもあれは嫌」
「…オレはスキなのに」
膨れちゃったほっぺたをどうしよう。ここじゃあキスできないし。
「ディップで食べると、すっごい美味しいんだよ!?お魚の臭み取りにも使うし。取って来て」
「い・や・だ」
「ジョーン」
あ、怒ってるかな?って思ったら。どうして嫌いなのか説明して、ってサンジが言った。
どうして、って・・・・・・。

「薬みたいな味がして嫌。匂いが嫌」
「…それが美味しいのに」
「食べたときに、きしきしするのも嫌」
「しゃくしゃく、でしょ?」
「きしきし。」
「…初めて聴いた。そんな理由」
「あと、防腐剤みたいな匂いもする」
「防腐剤!?うそだぁ!!」
ぷぷってサンジが笑い出した。
「ほんとうだよっ。ああ、あと!!」
思わず大きい声になっちゃった。
「…なぁに?」
「虫になった気がする!!だからいやだっ」
「…それはぜひとも、チャレンジして、比較してみなきゃ!オレ、そんな風に感じたことないもん」
「ねえ、サンジ。」
「オレが食べるから、取って来て?」
にこ、って笑ってるけど。
「プリーズ?」
「手に匂いがつく。どうしても、っていうなら一緒に行く」
「じゃあ、一緒に行こう」
「でも、ぼく取らないからね」
ああ、サカナ。ストアの別のおじさんから袋を受け取った。

「……ねえ、あなたからセロリの味がしたら、ぼくキスできない」
「あははははは!わかった!ホントにキライなんだねぇ!勿体無い」
「この袋の中、なあに?なんのサカナ」
にこにこしてるサンジに聞いた。
「スキャンピーと、鱈。フィッシュ&チップスは好き?」
「ふうん。じゃあぼく、生の鱈とキスする方がいいよ、サンジがセロリ食べるんだったら。スキャンピーでもいいや」
「あはははははははははは!!!」
なんでセロリが好きなんだろう。笑い事じゃないと思うんだけどなあ?
「ねえ、そんなに笑うことじゃないと思うよ」
おなか抱えてわらってる?サンジ。楽しそうなんだけど、ぼくは鱈とキスするっていってるのに。
「ゴメン…!でも…うわぁ!スゴイよ、それ!!うん。いかにキライか、理解した!!」
「フン。チェリーの味がしても、あなたにもうキスしない」
「あははははは!わかったわかった。じゃあ、今日はセロリなしね?」
「ずっと、ナシがいいよ」
よかったな、セロリはナシだ。ネエ、サンジ聞こえてる?

カートはいっぱいになったみたいで。サンジがレジの方に行っちゃった。
ピッて、カードが機械に読み取られて。たくさんになった袋を抱えてマーケットを出た。
サンジにアイスを持ってもらって、あとの袋はぜんぶぼくが持った。軽くって吃驚した。
袋でよく前が見えなかったんだけど。サンジが歌をうたってたから、そのあとをついていった。
「ネエ、サンジ。それ、なんの歌?」
「ウン?知らない?カントリー・ロード」
「うん、初めて聞いた」
「確かね…ジョン…デンヴァってヒトが、歌ってた」
「もっとうたって?」
「いいよ。簡単な歌だから、すぐにアナタも覚えるよ」
「でもそれは、おれのスタイルじゃないなあ、」
って。あれ???

「いいんじゃない、たまには?」
ううん、またオトナなのかな。
「サンジが歌うならね、いいけど」
あ。見えた。サンジのクルマだ。
「そっかな?ステキな歌だと思うけど」
「ねえ、ドア開けて?」
「うん」
「あ、袋から、魚の包み、渡して?クーラーボックスに入れるから」
サンジがドアを開けてくれて。両手の荷物をバックシートに放り出さないように急いでおいて。
「じゃないと、腐っちゃうからねぇ!」
サカナの袋を取り出して。渡した。

「ありがとう」
「うん、」
でも、両手が開いたし。だれもいないし。
「先に乗ってて?」
トランクの方へ行っちゃったサンジを追いかけた。まだちょっと明るいけど。いいよね?
後ろから。ぎゅううううって抱きついて。髪の毛に額をくっつけて。ぐるぐるってした。
それからもういちどぎゅうってして。ほっぺたにキスした。
はあ、安心した。
サンジは笑ってて。なんでこんなに気分がいいんだろう。
ナビシートに納まっても。気分がいいや。
さっきのうた、サンジにうたってあげようかなあ?
家に着く前に。




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