大分日が暮れかけた時間に、砂漠の小さな家に辿り着いた。
色んな歌を歌いながら帰ってきた。
笑いながら、競争するみたいに、家に荷物を運び込んで。
今度は、アナタの服を入れる箱が必要だね、なんて笑った。
荷物をあらかた仕舞ってから、最初のハグ。
お帰り、ってキスを交わして。
それから、二人で手を洗ってから、晩御飯の支度を始めた。
最初にチェリーパイに入れるチェリーを煮て。それをジョーンにバトンタッチしてもらって、
その間にパイ生地を作った。
オーブンに放り込んだところで、オツカレサマ、のキス。
美味しく出来るといいねって笑って、ハグ。

オーブンで焼いている間に、ピーラーで人参とジャガイモの皮を、ジョーンに剥いてもらった。
初めてやるんだ、って、笑ってた。
その間に、鱈とスキャンピーの下ごしらえをして。
オーブンからチェリーパイが出てきたところで、ジョーンにはお風呂に行ってもらった。
その間に、ジャガイモと鱈とスキャンピーを油で揚げて。人参とキャベツとグリンピースを湯がいて。
ズッキーニとブロッコリを、ガーリックで炒めた。
仕度が終わった頃に、ジョーンが出てきて。
青紫から、薄い青緑くらいに変わった痣に、また薬を塗った。
早く良くなってね、とキスをして。
もう痛くないよ、ってハグを貰った。

小さなテーブルいっぱいに、食べ物を置いて。二人でソファに並んで座って食べた。
どれもこれも、食べるたびに美味しいってジョーンが言って。
ジョーンがそう言ってくれると、フツウに作ったゴハンが、もっと美味しくなるよ、って笑った。
二人で食べるご飯。美味しくて、とても幸せ。
食べ終わった後、ゆっくりとハーブティーを飲んで。
それから、二人で一緒に後片付けをした。とても幸せな気分だった。

それから、冷凍庫を占領していたアイスクリームを取り出して。
さぁ、今度はジョーンがシェフだからね、って笑った。
任せてよ、ってジョーンがまた笑って。
キス&ハグ。



「ねえ、サンジ?」
「うん?なぁに?」
「まだ飲み物大丈夫?」
「うん。ダイジョウブだよ?」
「じゃあ!うんとおいしいシェ―ク作ってあげるね」
ダイジョウブ、って言うから。
ふわんふわんな笑い顔くれてるサンジに、じゃあエスプレッソをいれよう、って言った。
トニイのみたいな機械じゃないけど、サンジのキッチンには専用のポットがあった。銀色の。
黒い取っ手のついた小さいヤツ。

おっきいグラスも出してもらって。
エスプレッソをいれるのはサンジに頼んだ。ラジャ、って言って。にこお、としてくれた。
ありがとう、と思って。
頭をぽんって捕まえて。おでこのとこにキスした。
降りてる前髪のトコ、ぜんぶ手で押し上げて。
真ん中のとこ。

にゃはは、って。ネコのコみたいな笑い方だなあ。
きっとわらったらこんなかな?ネコ。
アイスクリームの、おっきなスプーンを持ったままだったけど、ぎゅう、ってした。
それから、ヴァニラアイスをちょっとすくって。
にゃあ、ってもっとネコみたいに言ってるサンジの前にもっていった。

「味見して。おいしい?」
はい、どおぞ。
ぱくん、ってアイスが消えて。ぺろん、ってスプーンの残りを舐め取った。
「オイシイ」
「よかった。」
ちゅ、ってその上からキスした。冷たいなあ!
「ジョーンも食べてみる?」
「あとで。」
「にゃは。いいよう」
だってぼくはいまから大事なミッションがあるんだから。
にしゃ、ってサンジが笑ってた。

ここからが、大事なんだ。
「ああ!忘れ物した!!」
うわ、しまったー。
「ええ?なにを???」
「あのねえ、スポンジケーキ。」
「スポンジケーキ?」
「それかね?ビスコッティ。ある?」
「あったかなぁ…?」
カリカリの硬いビスケット。サンジが、戸棚に身体突っ込んじゃった。
あるかなあ?ぼくもうしろから覗いた。

「あ、あったよ、ビスコッティ!」
「ある?」
「あるある」
「よかったーー、」
うれしくて、顔を近づけたら。ごちん、って。すっごい痛かった。
サンジのおでことぶつかった。だって突然振り向くんだもんな、サンジ。
「…うにゃあ」
「・・・うあ。痛かった?」
だってぼくが痛かったんだもんなあ。サンジ、おでこをさすってるし。
「…ちびっと」
ああ、でも。眼の端っこ。ちょっと涙うかんでるのかな?
ぱたぱたぱた、って。
両方の目の端と、ハナノアタマのとこと頤のとこ。キスした。
「ごめんね?」

それで。ビスコッティを袋ごともらって。
「ううん、オレもいきなり振向いたし」
「もう座ってていいから?」
「あ、ポット熱いから、気を付けてね?」
エスプレッソももうすぐできるし。
「うん、へいき」
「じゃあ、座ってる」
「はい。」
うなずいて。にっこりした。
ええと。じゃあ、ビスコッティはあったから。
ヴァニラアイスをたっぷり3スクープ分、グラスにいれて。
あ、ぼくはもうそんなに小さくないのに。頑張って、って言ってるよ。ソファから。
振り向いたら、にこにこしてた。
フン、すごい美味しいの作ってもっとにっこりさせよう、とか思った。

ちょっと砕いた氷が入ってる方が美味しいから。冷凍庫から氷をだして、がさがさシンクの横の棚から
アイスピック探してきて。できるかな?って思ったら。びっくりするくらい、勝手にアイスピックでぼくの手。
氷を砕けてた。きれーに。慌ててサンジが傍に来ちゃったけど。

「アイスピック使ったことあるもん」
さくんさくん、クラッシュアイスを作って。
「イキナリだったから、びっくりしたよ」
「心配性だね?」
戻らないで横にずっといるサンジをみてわらった。
「へいきなのに」
「だって、アナタが怪我するの、見たくないし」
「こういうの、ぼく得意みたいだね」
「包帯は、できないのにね?」
「そーいうこと言う?」
けらけらサンジが笑ってた。
「だぁって。アナタ、器用なのか違うのか、わかんないし」
「イッテロ、」
ぽろ、って。また。勝手に言葉が出てきた。

それから、クラッシュアイスをグラスにちょっとだけ入れて。
ビスコッティ、よかった。チョコレイトじゃなかった。シェ―クにはやっぱりプレーンだし。
アイスをたっぷり入れたグラスに1こづついれて。上から熱々のエスプレッソを1.5杯分。
「はい、できた。すぐにスプーンですくってたべて、溶かして?」
「美味しそうだね」
グラスをサンジに渡して。スプーンと一緒に。
ぼくの分も持って。ソファに戻った。
途中で、とってもうれしそうに一口食べて。サンジがにこお、ってした。
こっちで食べようって、ソファにぽんって座って。
「おいしィ」ってサンジが言うのを見てたら。
すごくうれしくなった。

「でしょう?」
「ウン。とっても!」
ビスコッティが溶けてきたらもっと美味しい、って。すぐ横に来て座ったサンジに言った。
「うわ、楽しみ」
「硬いうちもね、美味しいんだけど」
「じゃあ、食べなきゃ」
「うん、食べてたべて」
スプーンでビスコッティ折ろうとしてるし。なんだかかわいいなあ。見てるとたのしいや。
上手にスプーンに乗せる分だけ折って。ぱくん、って食べてた。
ぼくは手で持ってアイス乗せて食べちゃうけどな。それで溶けてきたらスプーンで一緒に
食べちゃうんだけど。

「あ、すっごい…サクサクしてて、美味しいねぇ」
「ウチではミルクシェ―クはこれだよ?」
「そうなんだ?オレのとこは、シェークはバナナとかイチゴとかだったなぁ」
からから、ってスプーンでシェ―クして。エスプレッソで溶けたヴァニラを食べた。
「ふうん?」
「牛乳と、ヴァニラアイス入れて。氷も少し。で、果物を入れるの」
サンジのグラスも取って、エスプレッソとヴァニラをいい具合に混ぜてから、また渡した。
「サンキュ」
「どういたしまして、」
ほっぺにキスした。
「…ほんのり苦くて甘くて美味しい」
「すき?よかったあ、」
にこお、ってしたサンジに安心した。
「ウン。スキ」
すごくうれしかった。

「じゃあ、ご褒美くれる?」
「うん?」
きゅ、って唇が引きあがるのがわかった。自分でも。
「何がほしいの?」
だって、おいしそうだし。
「たべさせて?」
「いいよ」
「いいの?」
「うん、いいよ」
わらった。
「内緒の約束だね」
「…あ」

なんでだろう?ほわん、ってサンジの頬とか、目許とか。赤くなってる?
どうしたの?って言いかけたら。人差し指に掬って。ハイ、って差し出してくれた。
あ、ソファに落ちちゃうね。
いただきます、って言う前に。ぱくん、って食べた。
「…どう?」
つめたー。
あ、でもおいしいかな。でもこんなつめたいとサンジの指もかわいそうだな。
ぺろん、って舐めてから、いただきます、っていった。

「…んん?もっと欲しい?」
「おいしいけど。冷たくない、サンジ?」
ちゅ、って指の先にキスした。だって、冷たくなってるし。
ん?ダイジョウブだよう、って笑ってる。
「じゃあ、アイス溶けちゃうまでたべていい?」
「…いいよ」
「ありがとう」
唇にキスした。
ふにゃあ、ってわらったのが。わかった。
ん?アイスの味かな?
あまいや。

ぱくん、って食べたり。
溶けてくるギリギリまで待ってから指ごと食べたり。
けらけらわらって。
いちばんおもしろかったのは。
ソファに寝そべって、サンジの手を顔の上にもってきて溶けて落ちてくるのをキャッチした時。
うまくいったら楽しいし。ちょっと外れたらサンジがキスしてくれたし。
おもしろかった。
オトナってこんなおもしろいことしてるんだ?ずるいなあ、って思ったけど。
楽しかったからいいや。

「おいしいね、」
「ウン」
座ってたサンジのおなかのあたりにぼくのアタマがあったんだけど。
手を伸ばして、うんと顔を近づけて。
キスした。
「ごちそうさまでした。」
そしたら。
すごくにぎやかにサンジがわらって。
「オレこそ、ゴチソウサマでした」
かるい、キスが。ちょん、って落ちてきた。
アタマに、サンジの身体の動いたのが伝わってきて。
なんだかくすぐったかったから、またわらった。

「なんでゴチソウサマなの?」
「だって、美味しかったもん、シェーク」
ぼくの方が食べさせてもらったのにね?
「ふうん?」
「ああ、でも。いろんなとこ、ベトベトになっちゃった」
クスクスわらってる。
「ほんとだ。べたべただね。」
「後片付け、任せていい?そしたら、オレ。風呂入ってくるから」

ぴょん、って起き上がった。
「もちろん。」
「お願いします」
ソレくらい、お手伝いできるから、へいき。
「お願いされました、」
お辞儀をした。
「後で歌のお届けにも参ります。」
「楽しみだな」
顔を上げたら。そう言って、にこおってわらったサンジに。頭にキスされた。
「じゃあ、入ってくるね」
「うん。」

ぼくはグラスを2つ持って。サンジはお風呂場の方へ行っちゃった。
すごい、たのしいデザートだったなあ。
シンクの水の中にグラスを漬けて。スプーンとかポットとか、持ってきて。
お手伝いにも慣れてきたから、1つ歌う間に片付いた。
きょうは、なに歌ってあげようかな。楽しいのがいいかな?ちょと考えて。
あの歌がいいかな、って思った。初めて覚えたスペイン語の歌。
あれ、楽しいし。アグアス・ヂ・マルソ、三月の雨。
これにしょうかな?

「サンジー、」
「はいー?」
「ボサノヴァはすきー?」
「ウン、スキー」
お風呂場のドアの前、シャワーの音がぴたって止まって。
楽しくなった。
「じゃあ歌ってあげるからー。カルロス・ジョビンのだよー?」
「わお!楽しみ」
また、わらい声が聞こえた。
すごく、たのしい。




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