「ベイビィ、落ち着いた?」
マミィの声。
オレの涙を拭っていく指先。
「お風呂に入りなさい。温まれば、また少し、落ち着けるわ」
ね、ベイビィ。
囁きと共に落とされた口付け。
「リディを休暇から呼び戻したわ。あなたのダイスキなゴチソウ、作ってもらうから」
そんなこと、しなくていい。
オレは、イラナイ。
「ベイビィ、このままでいるのはダメよ」
掌、何時の間にか包帯が巻かれてた。
「…お、…の」
くう、と動かした指先の動きに、マミィが頷いた。
「お風呂に行って帰ってきたら、返してあげる。預かっておくから、行きなさい」
ずくずく、と掌の傷が熱を発していた。
生きてる。
どうしようもなく。
独り、じゃない。
「……行く」
ゆっくりと身体を引き起こされた。
「ベイビィ、重たくなったわね」
いつのまにか、私より背が伸びたのね、サンジ。
時間、年月。
何時の間に流れていたんだろう。
ゾロ。
もう会えない…。
会えない、よねぇ…。
お風呂場に連れて行かれた。
ノロノロと服を脱いで行くのを、マミィが見ていた。
「……サンジ、」
マミィの声。
「アナタ…恋人がいるの」
溜め息と共に囁かれた言葉。
手首、昼間、ゾロがふざけてつけた赤い吸い痕。
鎖骨のトコ、見なくてもわかる。
「…愛してるんだ」
殆んど音にならなかった言葉。
昼、笑いあってた。ゾロと。
たった数時間前のことなのに、いまはこんなにゾロから遠い。
「愛してるんだ、オレが」
涙がまた零れ始めた。
マミィがきゅう、と抱擁をくれた。
「……ベイビィ」
困り果てたようなマミィの声。
「Mommy, My heart is breaking apart」
オレの心が壊れてくんだ。
「…ベイビィ」
マミィの声、泣いてる。
「側にいるわ、ベイビィ」
「…うん」
頷いて、マミィがキスをくれた。
頑張って、微笑んでみた。
マミィ、でも。
オレはゾロに側にいて欲しい。
オレはゾロの側に、いたい。
「風呂、入るね…」
血塗れの服を全部脱いで、シャワーブースに入った。
熱いお湯。
タップを全開にして、流す。
ぴりぴりと全身が痛い。
だけど、心の方が痛い。
「…ッ」
声が、喉で潰れた。
哀しくて、悲しくて。
心が死にそうに痛い。
「うあああああああッ」
声を絞り出した。
「うああああああああッ」
繰り返し。
悲しみ。
引き裂かれそうなのに、どうしてオレはここにいるんだろう。
どうして、バラバラになってしまえないんだろう。
力任せ、壁を叩いた。
何度も、何度も。
力を使い果たすまで。
オレには何もできない。
ゾロを助けることも。
死んでしまうことも。
助けてよ。
助けてよ、ゾロ。
アナタがいないなんて、耐えられない。
タイルに膝を着いた。
座り込む。
水に混じる赤。
掌から血が出ていた。
「…っく」
アナタに出会う前、オレはどうやって生きてたんだろう?
思い出せない。
こんなにもアナタのことだけで、いっぱいになってしまった。
それなのに、アナタが側にいないなんて。
アナタの近くに、いてはいけないなんて。
こんなにも、オレはアナタのなのに。
オレはアナタのものなのに。
水が止められていた、いつのまにか。
マミィがタオルでオレを包んでくれていた。
「…タスケテ」
どうしていいのか、わからない。
マミィが強く抱きしめてくれた。
けれど。
……ゾロ、オレは。
アナタじゃないと、ダメなんだよ…?
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