Sunday, July 28 at Dawn
目を開けた。
天井、薄暗い闇。
たぷん、と揺らぐ意識。
身体が重い。
頭が重い。
動けない。
どうしてだろう…?

麻痺してる。
あたま、
からだ、
こころ、

霧が満ちてる、視界。
くぐもった声が僅かに染みとおってきた。

「エドワード、サンジが…」
「…シャーロット、大丈夫だ。今は薬を…」
「………弁護士に紹介して…」

…マミィ、ダディ。
……オレに薬を打ったの…。

「…ロット、しー…そろそろ切れる時間だ」
「……エドワード」

遠く、向こう側から、僅かに熱。
ぼやけた視界の先、一対の金が揺れる。

チガウ、チガウ、チガウ、
オレがほしいのは…、
オレが側にいてほしいのは…、

「…眠りなさい、サンジ。まだ考えてはダメだ」

ふわ、と意識が浮いた。
舞い上がると同時に落ちる。
心地よい闇の中。

オレがほしいのは………。



Monday, July 29 at Night
泥沼から浮き上がった。
感覚が戻る。
風が鳴いていた。
ここは森の中。

雪が降っていた。
巣穴。
横に寝そべる黒と灰の入り混じった毛皮。

ごそり、と動いていた。
明るい灰色の……リィ。
よろり、と揺らめく足取り。

どこに行くの…?
リィ、外は雪だよ。

レッドが頭を擡げた。
きゅーん、と悲しげに鼻を鳴らした。
リィは何も言わない。
荒い息ばかりが巣穴に篭る。
リィの周り、取り巻く闇。

…リィ?

冬、2回目の雪が降った森。
銀色の月が、雪のカーテンの向こうで煌く。
ティンバーや、他の仔たちが頭を擡げていた。
クゥゥ、と悲しい声がする。

ゆっくりとした足取りで、リィが巣穴を出て行く。
岩の小さな洞窟の外は、闇と銀の世界。
…リィ。

ゆっくりとリィの後を追う。
狭い巣穴の入り口を抜けて。
踊る雪。
風がパウダースノゥを巻き上げていった。
リィの足跡がプリントされていく。

…リィ?

一度振向いた、やさしい狼。
僅かに声を立てて唸り。
付いてくるな、と叱り付けてきた。
傍ら。
レッドが雪に腰を下ろした。

暗い森に分け入って行く年老いた狼。
駆け出したい、追いつきたい。
でも、それはしてはいけないと言った。

ウァオオオオオオオ…………ン
ウゥアオオオオオ………ォン

哀しい遠吠え。
レッドの声。
リィは死ににいった。
みんなそれを知っている。
リィの毛皮はすぐ闇に融けた。

月が闇に沈んだ。
レッドが短く鳴いて、オレの毛皮を引いた。
巣穴に引き戻される。
押し込まれる、レッドに。

巣穴の中、全員が起きていた。
ティンバーが、寝ていた草の寝床を空けてくれた。
リィがいた場所、もう帰ってこない。
身体を寄せ合った。
レッドはまた外に出て、長く長く吠えていた。
テインバーの毛皮が押し当てられた。
抱き寄せる温もり。

悲しみを分かち合う。
リィの死を悼む。
みんな悲しいから。
みんな寂しいから。
引っ付き合って夜を越した。
熱、温もり、重み。
…重み。

今は、………独りだ。
不意に森に一人で残されていた。

誰も、いない。
重み、温もり。
…馴染んだ匂いがしない。

…どこだろう、ここは…?
オレは………?

すぅと意識が沈んだ。
風の音すら聴こえない静寂。
闇、温かい闇。
包み込む…。




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