Sunday, July 28
声がしていた。忍耐強く何かを告げようとしているような。
す、と何かが意識を過る。
けれどまたすぐに、四隅から溶けでもしたかのように流れ出す、
思考しようとする意思さえ。
ヒカリが見えたと思った、けれどそれは発光して目を射抜き
ぱしり、と。すべてが暗転する。
あいつに伝えなければいけないのに、と。
―――それだけが残る。
霞んで熔けていくなかに。
羽音かと思った。
あるいは、どこかで低く唸り続ける音と、わずかな振動。
「――――ダイジョウブだよ、私も……よう」
何かが動く。
気配、いくつかの。
中で、一際。冴えたモノ、近づき。
とん、と。
額、指が落ちてきた。
「移動しますよ」
聞こえた。
……ペルだ、―――移動…?
す、と。
暗がり、取り残される。光量が絞られる、見えない視界のなかでも。
「―――し。私も特別に……るよ」
魔女だ。
低く笑う声。
振動、これは。クルマ、か?
―――ちがう、音が違う
無理矢理に瞼を押し開く。
朧な視界。
酷く驚いたカオをした魔女が見えちまった。
「―――およし、」
そう言った、魔女が。
「起きたって、退屈なだけさね」
腕、僅かな痛覚。
羽音、―――ジェットエンジンの音だ、
「……飛んで、―――か、」
遠い、自分の声が。
「あぁ、そうだよ。」
目が。細められる。
測ってやがるな、効き目の速度を。
魔女が箒ナシで飛ぶのか、と。そうどうにか言った自分の声が聞こえた。
拳が見えた、ぎらりと嵌められた何かが光った。
殺してやろうかクソガキ。
笑い声がした。
水。
気泡が上がっていく、海面に向かって。
蒼の中。
水の天井、光の輪が幾つも浮いていた。
空の蒼を透明なままに映し出し。
奇麗だな、と。
あぁ、キレイだ、と。
肺から最後の空気が押し出される、上る。
気泡。
哀しくも無い、嬉しくも無い、ただ。
キレイなものを見た、とそれだけ。
沈む意識。
天井の蒼。
仰ぎ見る。
仰ぎ見る、最後の思考の欠片。
これは―――おれの見たモノじゃない……
低い、笑い声がする。
耳に馴染んだソレ。
記憶の底に押し込んでいたソレ。
あぁ、と。どこかで理解した。
このした、翼の下、この蒼の中の何処かで。
あんたはいなくなっちまったんだっけ、と。
おれ、やっぱりあんたに会いたいよ、けど。わかってる、まだ早いよな。
「アタリマエ、オニイサンは頼まれちまってるからねェ、」
くくく、と笑う声が近い。意識の酷く側にある。
ぱつり、と気泡が弾ける。
蒼が揺らぐ。
羽音。
「もうすぐ着くよ」
節ばった手、頬に当てられる。
「カリフォルニアへようこそ」
誰かの声がした。
魔女かも、エースかもしれなかった。
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