Saturday, August 3 at Night
早めのサパーを食べ終わって、それからシャワー。
いくら夏でも、夜はやっぱり冷える。
ましてやここは、冬になればスキーヤーやボーダーが集う、ロッキーズの中腹。
着替え。
ううん、どうしようかな?
山越えだから、あまりひっかかる服とはは避けたいし。
重い服もジャマ。
でも、闇に紛れるよう、黒い方がいいね?

一端はTシャツと半ズボンに着替えて、ダディとマミィとママ・リディにオヤスミナサイの挨拶をした。
それから部屋に戻ってきて、クロゼットを開ける。
黒のデニム、白い半袖のTシャツ。
ベルトはイラナイ。
靴下。
ウォーキング・ブーツ。
スェード、暖かいけど。
枝に引っ掛けたら破けるかなぁ?
…でも、まぁいいや。
この黒のシャツジャケットにしよう。
破けても、ジャックおじさんのとこに置いていけばいいんだし。

着替えて、サイフをジャケットの胸ポケットに仕舞った。
ボタンダウン、落としたらハナシにならない。
ああ、帽子…は引っ掛けるかな?
でも、髪が反射するんだよなぁ…。
…お。キャップ。
オークランド・レイダーズ。
いいや、これで。
髪を隠すように詰め込んで被った。

ライティング・デスクに書置き。
パソコンの上に、メッセージを残した。
『森に行ってくるね。心配しないで。』
最後にサイン、キス・キス。

オオケイ、他のものは置いていこう。
余計な荷物はイラナイ。

ヴェランダへ続く窓を開けた。
外、風がキモチイイ。
月が輝いていた。
ううん、…雲、ないし。
こっち側、見えないはずだし。
いいや、いっちゃえ。

手摺を越えて、そのままジャンプ。
とす、と音がしたけど、ダイジョウブ、2階から着地したくらいじゃ、聞こえないハズ。
周り見回す。
気配ナシ。
オッケイ。

裏庭の芝を通り抜ける。
走って、ローズガーデンに到達。
塀のところ、1箇所だけ鉄のゲート。
ロックされてるから、よじ登って。
裏、ここからはもう森だ。
こっちにヒト配置してるかな、って思ったけど。
表の一般道から通ってくるには、ちょっと厳しいルートだから、誰もいない。

懐かしい木々。
大きな木は、僅かな月明かりしかもらしてくれない。
それでも、目が慣れる。
冷たい空気に、意識が冴える。

久し振り、山の中。
ゆっくりと走り出す。
頭上、梟。
ホー、と小さく鳴いた。
倒れた木、越えて。

通いなれた闇を渡る。
ざざざ、と風で枝が揺れる。
匂い、なにも異常はない。
暫く走ると、水の流れる音。
小川。
オオケイ、正しいルートにいるね、オレ。

斜め向こう、ブッシュの下。
ネズミが走っていった音。
聴きながら、耳を澄ましながら、登る。

意識が、視ることに集中しだす。
迷ってた事、考えてた事、全部仕舞われて。

闇の中、森の中。
嬉しいね。
気持ちイイね。
小川の湧き出ているところで、一休憩。
まだまだ先は長い。
もうしばらくしたら、今度は斜めに走らないと。
小川の水を飲んで、少し休んで。

家から大分離れたから、ここでコール。
ノドを開いて。
細く、長く、高く、深く。
闇に染み渡るように吼える。
シンとしていた中でも、どこかざわめいていた森が、ほんとうに静まり返った。
もう一度、群れをコール。
ココにいるよ、とティンバーと群れに合図。
意外と近い距離から、応えが帰ってきた。
「ンアオオオオオオオオ………ン」
ティンバー、スカーフェイス、スノゥ。
位置を知らせてくる。

オオケィ。
あとは走るだけだ。
もう一口、湧き水でノドを潤してから、走り出す。
走りなれた山。
筋肉、やっぱり少し辛いって言ってる。
ン、ショウガナイ。
少しペースを落として。
木々を抜け、少し開けた土地を抜け。
また木の中。
レンジャーも滅多に入ってこない場所。
ひたすら走る。
越える。

1マイルほど走ったところで、微かな足音。
群れ。
足は止めずに、呼ぶ。
「ティンバー!」
「アゥッ」
短い答え。

トトッ、トトッ、と走る足音。
並行して走る、灰と黒のキョウダイ。
先を走っているギブリ。
斜め後ろ、シルヴィ。
僅かな血の匂い。
そうか、ハントを終えた後だ。
木の間、僅かな月明かりに照らされて。
群れのほとんどが一緒にいるのを見た。

枯葉が腐葉土になっている場所。
深いところは全部教えてくれる。
走りやすいところ、教えてもらいながら走る。
笑う。
キモチガイイ。
通い慣れた山道。
獣道でもない、オレ専用の道。
ジャックおじさんの所へと続いている。

浅い河を渡った。
舗装道路を避けて、ショートカット。
月が移動していた。
残りの距離を測る。
スロウダウン、一気に走り抜くことは、さすがにできないから。
ほんの僅か、木々の間、開けた場所で、休憩。
荒い息を整えながら、ティンバーや仲間と挨拶。
圧し掛かって、圧し掛かられて、情報交換。

ケガしてるの、気付かれた。
スノゥが、クスリの匂いを嫌がって、クシャミをしていた。
指、舐めてもらって、景気付け。
早く善くなれって、励まされた。

息、整って。でも身体が冷えるまえに、また走り出す。
いつもより、すこしゆっくりのペース。
群れは、いまはもうオナカが一杯だから、オレに"付き合って"くれる余裕がある。
はしゃぎながら、木々の間を通り抜ける。
うん、オレ、山にいるの。
やっぱりスキだなあ。




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