「――――オトコかよ??」
言えば。
けらけらけら、と笑い声が返って来た。
「ひどぉいダーリン。元、よモト!」
ティティが、両手を差し上げていた。
「いまじゃあ、リッパなレディです!」
―――まったく。
「これだけキレイな女滅多にいないでしょう?」
ヴィーダが軽く振り向いていた。
陽が落ちかけていた、ハイウェイの向こう側に。
「―――自分で言うかよ、」
「本当のことだもの、」
柔らかな声がした、ジーンだ。
黙っていれば、十二分に。極上の部類にいるのがタチが悪い。
「ねえ?認めなさいな、ダーリン」
くくく、と笑う。全員が全員、"ショウ・ガール"なわけだ。
「"寛大なレディに感謝。"」
「心がこもってないわねぇ!」
華やかな笑い声がした。ティティだ。

クルマはスピードを落とさずにハイウェイを走っている。
LAを過ぎ、走り始めて2時間ほどしてから、ビジン共が少しずつ正体をバラシはじめていた。
面白がりながら。
さっきの答えに辿り付いたのは日没前だ。
バラクーダがハイウェイ40に乗ったいまは、稜線が濃い青を覗かせている。

ずっとこのまま夜通しキャニオンまで運転するつもりなのかと問えば。
「在り得ないわ!」
横でティティが笑い転げていた。
「ダーリン、オンナは何に投資するかご存知?」
ヴィーダが目元でわらった。
「―――知るかよ、」
「勉強不足ねぇ」
「うるさい、」
ぱしり、とティティのアタマを軽く小突いた。
「美容よ?睡眠不足は天敵じゃない」

「あと2−3時間走ったらどこかに寄るわ。旅は優雅に楽しくいかなきゃね」
ひらひら、と大ぶりのリングの嵌まった手が軽く振られる。薄闇に手の白さが浮かび上がった。
「オーケイ、了解」
「ダーリン、」
一緒の御部屋に泊まる?とジーンが続け。に、と濡れたように光る唇を引き上げていた。
「―――や、ケッコウ」
「ハニイに怒られちゃうわよねェ」
ティティだ。
「ねえ?会いに逃亡中なんてね、」
―――話してもいないのに勝手にそういうことになっているらしい。『約束の場所で会うために恋の逃避行をしている男。』
―――なんてェシナリオだよ。
コイツラも新手の魔女か何かか?カンベンしろ。

「引き離されちゃったのかしら?相手のお父様か誰かに?」
くすくす、とティティが見上げてくる。
「―――なんでそう思う、」
「あぁ、ダーリン、スィーティ。ハンサムなんだから少しは鏡を見て頂戴」
ヴィーダが笑い始める。
「ダーリン、アナタ自分がロイヤーに見えると思う?」
さらりと伸ばされたジーンの腕がおれの肩に少しの間留まった。
「オトコを見る眼はあるのよ私タチ」
―――確定。

このビジン共も魔女に違いない。
おれはなんだよ?マクベスか?シャレにならねェぞ。
森の入り口ならぬハイウェイの入り口で。3人の魔女に会っちまったわけか。

「それでも会いたいのよね、」
ああ、と返事する。流れる暗がりを目に捕えながら。

多分、おれはオマエが「ある」ことに慣れすぎていたのかもしれない。
「不在」が現実味を帯びてこない、それはいまになっても同じことだ。
認めていないのか、ただ単に現実を撓めて見ているだけなのか。それでも。
オマエが離れていく気がしない、奇妙なまでの感覚。
消え去ったかと思ったやわらかなヒカリは。
まだ足元を仄かに照らし出している。

これが、愛している、ということなら。
オマエ以外におれは愛するモノがない。
けれど、おれは。
オマエが下した決断、選び取った先が何であっても
それを認めるだろう。
その後のことは、知らないがな。

陽が稜線の向こうに完全に沈んだ。
「ねえ、急いで砂漠まで行きましょうか?」
ヴィーダがちらりと笑みを目元に過らせた。
「いや、いい。アンタたちが不細工になったら怖ェから」
「ジョーン、ダーリン」
ふわりと魔女が笑った。
「誘惑が上手ね」
「お蔭様で」

けらけら、とわらったティティが肩に頤を乗せてきた。
「ど?近くでみてもカワイイでしょ」
確かにナ、とわらった。
「けどな、」
「うん、なあに?」
「好みじゃない、」
「ひっどおおい」

ハニイはじゃあどういう子?ティティが続ける。
「―――バカだな、救い様がないくらいの。」
ふ、と笑みが深くなる。バックミラー越しのそれ。
「バカネコだよ」
「かわいがっちゃってるんだわぁ、ゴチソウサマ」
「聞いた方が悪い、」
わらった。

「ねえジーン?」
「なあに、ダーリン」
フロントシートから声。
「どうみてもアザーサイドの男があそこまで言うってどう思う?」
「命短し、恋せよ乙女」
ってところかしらね、ヴィーダ、ダーリン。
低い女の声が流れていく。
「じゃあ、恋のために夜通しドライヴしちゃいましょうか」
「ステキね」

―――とんだロード・ムーヴィだな。
けれど零れたのは苦笑だった。




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