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 州道70Wから国道191へ。
 そこから国道160を経由して、89Nを走り抜けた。
 その頃には、もう太陽は登りきって、昼を過ぎた頃だった。
 そこから州道40Wに乗って、セリグマンで66に移った。
 
 太陽が高く上って、見慣れた風景。
 だだっ広い砂漠を駆け抜けるアスファルトを駆け抜けて、ピーチ・スプリングスへ。
 アメリカ合衆国とレジデンスの境目にあるトールゲートで、そうっと窓を開けた。
 ヘンリー酋長が、おや、オカエリって顔をしてた。
 「ナイショで戻ってきてるんだ、よろしくお願いします」
 そう言ったら、わかった、って頷かれた。
 
 挨拶もそこそこに車を飛ばし始めたオレに。
 「気をつけなさい」
 そう大声が届いた。
 窓から手を出して、挨拶。
 
 街中を抜けるまでは、スピードを制限して。
 アスファルトの道から外れて、通い慣れた砂漠の道を走り出した頃には、めいっぱいにアクセルを踏み込んだ。
 75年型の、チェロキー・チーフ。
 ジャックおじさん、思いっきりメンテナンスをしてるみたいで、オレのラングラーよりよっぽど調子が良かった。
 
 頭上、太陽の中に、鷲。
 車の前を、負けないスピードで走ってるレッドのイメージ。
 ハヤクハヤク。
 そう語りかけてくる………エース。
 ゾロ、あそこにいる。
 確信した。
 
 砂でタイヤが僅かに滑る。
 スリップしないようにだけ、気を付けて。
 見慣れたディレクション・サイン。
 赤く焼けた岩。
 ドロドロドロ、とエンジン音に負けない、車が砂を走る音。
 部族が馬で駆け抜けてるみたいな。
 
 見えてくる、永遠に続くかと思われた砂漠の先の小さな点。
 太陽が斜めに入ってきてる。
 近づいてくる小さな家。
 スピードは緩めない。
 
 車のタイヤの跡がない。
 でも、ゾロは絶対にいる。
 「ほら、急がないと。ロミオがバテちゃうよ?」
 からかうような声。
 エース、の。
 
 「だったらゾロの側に居て」
 「今は無理。オレ、呑まれちまうから」
 レッドが更にスピードを上げた。
 鷲の鳴き声、届く。
 
 近づいてくる、家の輪郭。
 明確になる、細部。
 ゾロ、居た。
 
 太陽の下、家から少し離れた場所。
 キラキラの、何も遮るもののない光の中に、立っていた。
 ゾロ、オレの。
 嬉しくて、涙が出そうだ。
 
 思い切り飛ばして、ゾロが立っている10メートルほど前で思い切りブレーキを踏んだ。
 ザザザザザザザザザザ、と砂埃が舞い上がって。
 ゾロを通り過ぎて車がストップした。
 サイドブレーキ、思い切り引いて。
 
 飛び出した。
 太陽の中。
 「ゾロッ!!!」
 叫ぶ。
 駆け寄る。
 顔を顰めているけど、ちゃんと生きている。
 「ゾォォォロッ!!!」
 途中で視界が歪んだ。
 けれど、足は止まらない。
 
 片腕、差し出された中に飛び込んだ。
 熱、体、ゾロの匂い。
 抱きしめる。
 「イテッ」
 悲鳴に我に帰った。
 腕を緩めて、ゾロの左の方だけ、腕をウェストに回した。
 そのまま、胸に顔を埋める。
 
 涙、嗚咽。
 とまんない。
 言いたいこと、いっぱいあるのに。
 
 ぐ、とアタマを引かれて、顔を上げた。
 じい、と間近で顔、覗き込まれてる。
 「ふえ…ッ」
 バカみたいに壊れた涙腺。
 流れっぱなしのタップみたいなの。
 無理矢理放置して、目を見開いた。
 間近で煌くゾロのグリーンアイズ。
 
 ふい、とそれが目許で笑った。
 ゾロの右手、頬に当てられた。
 「エライな、今度は轢かなかったか」
 「……うぁあああああん!!!」
 ぎゅう、とゾロを抱きしめた。
 ゾロ、ゾロ。
 会いたかったんだよう……!!!
 
 
 
 
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