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 「―――――いてェよ、バカサンジ」
 「…うぇえええ…ッ」
 すごくすごく優しい声。
 きっと顔、顰めてるんだろうけど。
 
 胸元、もう一度顔を埋めた。
 泣いてる場合じゃないけど。
 止まんない、もうちょっと待って。
 
 ぐうう、と抱きしめられて、嗚咽を噛み殺した。
 息、なんどか深いのを繰り返して、無理矢理涙を止める。
 「会えて、…よかったよ」
 「…うんッ」
 ぽそ、っと零された呟き。
 だけど、その言葉に、沢山の感情が込められてるの、解ったから。
 
 手の甲で、涙を拭った。
 髪にキスを貰った。
 一つ息を呑んで、ゾロを見上げる。
 グリーンアイズ、オレの愛するゾロの。
 見上げて、笑った。
 額と頬にもキスを貰った。
 震える手を伸ばして、ゾロの顔を包んだ。
 まだ、言葉にすることができないけど。
 
 ゾロの唇に口付けた。
 そうっと押し当てる。
 くう、とココロのどっかにぽっかりと空いてた穴。
 水が満ちるみたいに、埋まっていった。
 
 ぎゅう、と抱きしめられて、傷に触らないように抱き返した。
 一つ、息をついて、漸く言葉を綴る。
 「…愛してるよ、ゾロ」
 掠れまくった、声。
 ささやきに近いソレ。
 もう一度、繰り返す。
 
 
 唇に軽く触れるだけのキスが返ってきた。
 笑う。
 また涙の雫が零れたけど、嗚咽は零れない。
 「―――サンジ、」
 「…ハイ」
 覗き込む、ゾロの目を。
 「オマエ、痩せたな…?」
 「ゾロも」
 「オレは死にかけだからいいんだよ」
 そう言って、ゾロがに、って笑った。
 
 それから、すう、っと眉根が寄せられた。
 ドウシテ?
 「どうした、ソレ」
 ゾロの目線、左手と胸元を捕らえていった。
 「…ああ、これ」
 十字架をぐ、と引っ張った。
 ブツ、と音がして、チェーンが切れた。
 「バカサンジ。ソレじゃねェよ」
 
 「………アナタの側に居ない自分が辛くて、…ドクタに貰った銃弾のカケラ、握り締めてた」
 十字架を千切った方の手首を取られた。
 「心臓が痛くて、取り出そうとした」
 ムダな足掻きだって知ってたんだけど。
 
 手首、手の甲。
 開かされた掌、口付けられた。
 だけど。
 見えるのは、赤いフレア。
 ゾロが、怒ってる。
 「―――二度とするな」
 
 「…胸の方、いつやったか覚えて無いけど。掌、こっちは…こうしないと、オレ、沈みそうだったんだ」
 暗闇に。
 絶望に。
 「アナタに会っちゃいけない、って言われて……アナタのいない世界から、逃げ出そうとしたんだ」
 ごめんね、ゾロ。
 もう二度と、しないから。
 
 腕を引かれた。
 抱き込まれた。
 オレ、ゾロを怒らせた。
 今、ゾロを哀しませてる。
 「ごめんなさい、ゾロ」
 首元に、顔を埋めた。
 
 「―――違う、サンジ。オマエは謝るな」
 「だって…オレ、アナタを哀しませてる」
 低い声に、きゅう、ってムネが痛くなる。
 「もう、しないから。二度と」
 ぎゅううう、と力いっぱい抱きしめられた。
 くうう、と静かに涙が盛り上がって、零れていく。
 
 言うな、と。耳元に落とされる呟き。
 唇を噛んで、涙を堪える。
 「ゾロ、………オレ、アナタじゃないと、ダメなんだ」
 
 「オマエが生きていればそれでいい、と思っていた。―――見ちまえば、ダメだな」
 く、とゾロの掌。オレの頭を抑えた。
 止まらない涙を、シャツに吸い込ませる。
 「…愛して、欲しい、ゾロに。…ゾロだけに」
 
 
 
 
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