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 熱い身体を抱きしめた。
 …熱、炎天下。
 フと気付く。
 …………ゾ、ロ…もしかして…?
 ば、と顔を上げた。
 
 少し日に焼けた皮膚。
 熱を持った身体。
 泣いてる場合じゃない。
 さら、と髪を撫で上げてきたゾロの手を取った。
 熱い。
 「…ゾロ、いつここについたの?」
 …ああ、問いただしてる場合じゃない。
 ゾロの手を引いて、車に戻る。
 
 片眉を跳ね上げたゾロを、助手席に押し込んだ。
 とりあえず、直射日光の下から隠す。
 「大事に扱え、重病人だ」
 そんなことをさらりと言ってた。
 …ゾロ。
 …早く言ってよそういうことは。
 今度は、オレがアナタを殺すところだったじゃないか。
 
 「…エースと、レッドが。"急げ急げ"って騒いでたわけがわかった」
 ダッシュボードの中から、水の入ったペットボトルを取り出した。
 ゾロがくくっと笑って。
 「あぁ、散々迎えがきたさ」
 そう言っていた。
 
 広い助手席のシート、少し倒させた。
 「賑やかだった」
 そう言ってるゾロの足を跨いで、覆い被さるようにしてゾロを見下ろす。
 「重病人なのに、歩いてくるなんて。………信じられない」
 す、と笑いを含んだ目。
 ああ、くそう、泣きそうだ、また。
 
 「アシが付くだろう、」
 「わかってる。だけど、…………ああ、もう!!!」
 さら、と頬を撫でられた。
 ちゅ、と口付けを額に落としてから、ペットボトルの水を口に含んだ。
 「実物の方が勝ちだな」
 呟いたゾロの唇を捕らえて、合わせる。
 何か言い足しそうにしていた言葉、飲み込ませる。
 水、少しずつ流し込んで。
 ……最初にゾロを轢いた夜、やっぱり熱を出していたゾロにしたように。
 口移しで、水を飲ませる。
 
 唇、笑みの形を刻んでいた。
 水を飲み干したゾロが、ちらっと舌の裏を舐め上げていった。
 とろり、と舌を合わせて、それから口付けを解いた。
 
 「……アナタも、もうしないでよ、それ」
 「ン?なぜ、」
 こつん、と額を合わせた。
 に、と笑ってたゾロの眼を覗き込んだ。
 
 「……オレ、トチ狂ってた自分を、殺しにいきたくなる」
 やっぱりバカだ、オレ。
 「ああ、やっぱり!!!トチ狂ってた場合じゃなかったんだよ、オレ!!」
 すい、と表情が戻されてた、ゾロの。
 「…無理でもなんでも。アナタを攫いにいけばよかった」
 
 「―――おい、」
 手に持ってたペットボトル、ドリンク・ホルダに置いた。
 「なに、ゾロ?オレ、いま自分に怒ってるから」
 自己嫌悪。
 「おれは攫われる趣味はねェぞ。カンベンしろ」
 ぐしゃ、って髪を掻き混ぜられた。
 俯く。
 「……イヤでも。ずっとしがみ付いてればよかった」
 
 「―――オマエが無事だっただけ、運が良いんだ。それ以上望むな。それにな、」
 「…なに?」
 すう、とゾロの目許に、また笑みが過ぎっていた。
 「…ゾロ?」
 「あの子守りは怖ェからな……?オマエ、"トチ狂って"正解だよ」
 同情票のおかげでおれが助かった、そう言って。
 ゾロがくっくっ、と笑い出していた。
 
 それから、くう、とまた抱き寄せられて。
 ゾロの上、腰を下ろさせられる。
 シートに乗せた膝で体重をコントロールをして、抱き寄せられるままにしていると。
 「あいしてるよ」
 落とされた声が、囁いた。
 「……うん、ゾロ……」
 首元、唇を落とす。
 熱い肌。
 …次に移動しなきゃ。
 
 「ゾロ、暫く隠れられる?」
 ひとつ息を吐いて、このままでいたい気持ちをはぐらかす。
 甘い匂い、ゾロのにおいに混じってたのが気になるけど。
 それは黙っておこう。
 「あぁ、ココにいたら、そうだな―――あと……2−3時間で怖ェのが来るぞ」
 「オオケィ。じゃあ、家から氷持ってくる。薬はある?」
 「魔女特製、」
 「あのドクタのだね。なら強力だ、きっと。ちょっと待ってて」
 
 頬に口付けを落として、車から飛び降りた。
 ドアを閉めると、ゾロ、す、と目を閉じてた。
 ポケット、探って。
 鍵、取り出す。
 家の中、いつもだったら砂だらけなのに…ああ、リカルド、来てくれてたんだ。
 テーブルの上のメッセージ。
 「帰ったら連絡を乞う、R」
 
 それはそのままに、冷蔵庫から2リットルのペットボトルを取り出した。
 冷凍庫から、氷。
 ビニールに移して。
 キッチンのキャビネットから、タオルを2枚取り出した。
 手早く氷を包んで、ペットボトルを持って。
 思い当たって、塩の袋も持って家を出る。
 
 鍵、元通りに閉めて。
 車に乗り込んだ。
 エンジンをかけて、クーラーを弱にする。
 「ゾロ、眠る前に、水だけ飲んで」
 ペットボトルに塩を少し加えた。
 よくシェイクしてから、手を伸ばしたゾロに渡す。
 「ミネラル欠乏してるから、ちょっとショッパイけど。ガマンして呑んで」
 「アリガトウ、」
 
 車、ゆっくりと走り出させる。
 初めてのヒトが、この家に来るなら。
 ペルさんみたいなヒトが、この家に来るなら。
 ピーチ・スプリングスを抜けないルートで来るかな?
 アクセル、踏み込んだ。
 タイム・レース。
 まず目指すのは、リトル・ベアのところ。
 困った時には、師匠と兄弟子に頼るのが一番。
 
 ペルさん、ゴメンネ。
 ゾロはオレのものです……暫くは。
 
 賑やかだったエースとレッドは。
 すっかり気配を無くしていた。
 オツカレサマでした、ありがとう。
 おかげで、ゾロと無事に再会できました。
 
 あとは、オレが逃げ切るだけ。
 ふふん、今のオレはムテキだ。
 勝ってみせるもんね。
 
 
 
 
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