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 ゾロが、マズイ、と言いながら。塩の入った水を、ペットボトル1本分を飲み干してから、目を閉じたのを確認して。
 氷を頭に乗せておくように手渡してから、車を発進させた。
 
 砂に残る、タイヤの跡。
 風は穏やかで、だからそれが消えてしまうことはない。
 部屋にあったリカルドのメッセージ。
 そうだ、この車。
 リカルドに預けよう。
 頼んだら、コロラドまで行ってくれるかなあ?
 そうしたら………リカルドの車だって、思ってくれるかなあ?
 
 飛ばしすぎないスピードで、聳えるグランキャニオンに向かって車を走らせる。
 ゾロは静かに、目を閉じているみたいだ。
 熱、いま何度あるんだろう?
 薬の時間、間隔が空きすぎてしまえば、ものによっては身体に毒になる。
 
 彷徨う思考。
 ゾロが熱混じりの吐息を微かに漏らすのを聴きながら考える。
 
 ああ、オレは。
 多分、ゾロが率いている群れには、混じれないだろう。
 オレが都会で生活する…ニューヨーク・シティ。
 考えただけで、……ダメ。
 どうして他の人は平気なんだろうねえ?
 あまりにヒトだけの気配に、悪酔いしないのかなあ。
 
 オレは、いざとなったら。
 ゾロを守るために、ゾロを狙うヒトを狩ることを躊躇わない。
 ゾロと共に戦えるのなら、きっと笑って戦いに投じられる。
 家族や友人たちや、多分ゾロが思う以上に、オレは自分が好戦的だと思う。
 リィやレッドやティンバーと共に群れにいた時。オレは彼らと共に、戦ってきた。
 理由があるなら、ヒトだって殺せる。
 生き抜くためには、戦うのは当然のこと。
 
 だけど。
 それは最後の選択。
 オレがゾロにあげたいものは。
 他の誰もが、ゾロにあげられなかったもの。
 
 きっと、ゾロの群れには、ゾロと戦うヒトがいっぱいいるんだろうし。
 それはオレの役割じゃないから。
 だから、オレは。
 きっとヒトと離れて生活した方がいいんだろう。
 ゾロが"帰ってくる"場所で。
 
 具体的にどうすればいいのか、まだ考えていないけど。
 オレは……メガロポリスには住めないから。
 だから、郊外とか。
 隔離された場所を、どこかに用意するしかないと思う。
 生まれ育ったコロラドが、一番馴染みがあるけど。
 ゾロが遠いっていうなら、NYCに近いところ、どこか探せばいいんだし。
 
 オレは、ゾロと一緒にいたいけど。
 ずっと一緒にいるわけにはいかない。
 ゾロが住んでいる家が、ゾロの不在時に、オレにとっても安全ならば。
 そこで待ってるっていう選択もある。
 けれど、実際問題として、都市部だとオレは、気が狂うだろうから。
 ヒトの密度に、参ってしまうから。
 だから、多少ゾロにとって不便でも。
 その辺りは、きっちりと話し合わなきゃ。
 
 でも、その前に。
 ゾロの身体をしっかり治して。
 ゾロが戦いに行けるようにしてあげなきゃ。
 
 今、ゾロをペルさんのところに返してあげるわけにはいかない。
 それはオレのワガママ。
 ゾロの傷が治るまで、オレがゾロの側に居たい。
 愛してるって、オレの全部がゾロのものだって。もう一度ちゃんと、伝えられるまで。
 ゾロから離れたくない。
 
 隠れる場所。
 アリゾナ。
 ここはワラパイ族が管理するレジデンス。
 FBI。CIA。
 そういう「政府機関」のヒトだって、簡単には来れない場所、キャニオンの中にはある。
 
 リトル・ベアに頼んで、隠してもらおう。
 オレとゾロの居場所。
 お礼、それはあとで考えよう。
 とりあえず今は……逃げ切らなきゃ。
 
 
 
 
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