Sunday, August 4 at late aftetnoon
太陽が沈み始める前に、レジデンスに到着した。
リトル・ベアと師匠が住んでいる家の前に、車を停める。
ドアをノックする前に、兄弟子がドアを開けていた。
……ジャックおじさんといい、リトル・ベアといい。
本当に、メディスン・マンとして、すごい人たちだ。
エンジンを切って、ゾロを見遣る。
「ゾロ、下りられる?着いたよ」
ゾロの腕に触れた。
熱、上がってはいないけれど、下がってもいない。
……身体、だるいだろうな。
これから馬に乗って……ああ、オレがゾロを前に乗せて走ればいいのか。
うん、オオケイ。
なんとかなる。
リトル・ベアが車に近寄って来ていた。
フロント・ガラス越し、苦笑しているのが見えた。
ゾロはどうにか車を下りて、立っていた。
オレも車を降りる。
「……ロミオとジュリエットよりは、ボニー・アンド・クライドの方が似合うな」
笑ってるリトル・ベア。
「よぉ、クマちゃん。アンタにしては面白い事を言う」
ゾロがそう言っていた。
「珍しい。狼が褒めた」
笑って、ゾロが歩き出すのを待っている。
「アタマが半分死んでいるせいだ、」
ゾロがそう言ってから、ふ、と息を吐いて。
それからゆっくりと歩き出した。
「リトル・ベア」
「シンギン・キャット、…よく頑張ったな」
「…知って?」
「想像だが、間違ってないだろう」
くしゃり、と頭を撫でられた。
「オマエも頑張ったな、狼」
リトル・ベアがまた笑って、ドアを開けていた。ゾロのために。
フン、ってゾロが言って。それから、少しだけ口の端を吊り上げた。
涼しい家の中に通される。
見慣れたリヴィング。
「あれ?師匠は?」
「山へ祈りにいった」
リトル・ベアが目許で笑っていた。
…師匠、会いたかったのに。
「ソイツはなにより、」
そう言って、ゾロは木の椅子に座っていた。
がた、と音がしていた。
リトル・ベアが、キッチンに行っていた。
ああ、熱中症用のハーブ・ティ、淹れに行ったんだ。
ゾロの横に座る。
す、とゾロの視線が合わされた。
手を伸ばして、ゾロの頬に触れた。
熱を持った皮膚。
軽い火傷。
そして熱。
家から持ってきた氷は、もうほとんど溶けきっていた。
「…大丈夫、じゃないよね…?」
ゆっくりと笑みを刻んでいたゾロの目を覗きこむ。
「辛い?…眩暈とか、する?」
「いや」
「ホントに?」
「シツコク痛ェだけだな、」
…ああ、傷口。
「悪い、水くれ」
そうゾロが言って。ポケットから、痛み止めの薬を取り出していた。
「うん、とってくる」
ゾロの額に口付けを落としてから、キッチンに行った。
「リトル・ベア、水を戴いてもいいですか?」
「ああ、氷もどうぞ」
「ありがとう」
グラスに氷水を作って、ゾロの元に戻った。
手渡す。
「何か胃に入ってる?」
「ブレックファスト、」
「じゃあちょっと待って。なにか先に口に…あ、こら!」
言ってる側で、ゾロがさっさと薬を飲んでいた。
「…胃に悪いんだよ、それ」
す、って頭、抱きこまれた。
そのまま、じっと動かない。
ゾロの広い背中を、そうっと撫で下ろす。
繰り返し。
早く痛みが治まるように、と祈りながら。
リトル・ベアがやってくる気配。
テーブルの上に、ことん、とカップが置かれる音。
ふわ、と香る、ミントが混じったハーブの匂い。
「そのままの姿勢でいいから、それを飲みなさい」
柔らかな、声。
「落ち着いたら、傷を診よう」
ゾロが、声に出さないで笑っていた。
上下する胸板に、ほっと安堵する。
「いらねぇよ、クマチャン診断は」
そう言ったゾロに、リトル・ベアが笑った。
「診断するまでもない。症状は明確だ。ただ、消毒して薬を塗らなきゃいかんだろうが」
二人揃って、砂埃に塗れて。
くっくと笑いながら、リトル・ベアが言っていた。
「あ、バカサンジ」
「…ええ?オレぇ!?」
抱き寄せられたまま言われて、思わず上げようとした顔を、埋めたままでいた。
「オマエ、ヒトのこと砂塗れにしやがって」
……あ、急ブレーキ。
思い当たった。
「…ゴメン、ゾロ」
柔らかな声、ちょっとむっとしてた。
「後でキレイにするから、許して」
「ケッコウです」
「…なぁんで!?」
がば、と顔を上げた。
したら、また抱き込まれて、ゾロの頬、髪に当てられた。
「オトナの事情により」
リトル・ベアが笑いを噛み殺しているのが聴こえた。
……あ、ゾロ。
オレのこと、またカラカッテルンダ。
「………髪、洗ってあげようと思っただけなのに」
ゾロの背中に、小さく爪を立てた。
ぎゅうう、と抱きしめられた。
それから、ふわ、と緩められた腕。
ゾロがテーブルの上のカップを取ったところで、派手にクラクションが鳴らされる音。
聞き覚えのある音楽が、外から大音響で響いてきた。
"By the way, I tried to say I'll be there, waiting for…、"
ばああん、と。ママ・リディが叫びそうな音を立てて、ドアが開いていた。
あんぐり、と思わず口を開いたら、横ではゾロが、う、って顔をしていた。
「おじいちゃまああ!!アルトゥロウ・ダーリン!!」
「ハアイ、クマちゃん!!」
「ハロウ、」
「……騒々しいな、相変わらず」
飛び込んできた、オンナノヒト三人。
リトル・ベア、特大の溜め息を吐いていた。
最初に入ってきたのは、赤毛のヒト。
次のひとは、人工的に赤いようなピンクのような髪。
最後のヒトは……オレのと似た金の髪のヒト。
全員揃って黒のドレスを着ていた。
魔女どもだ、ってゾロがいやそうに呟いていた。
外の大音響が消えて、変わりにパタン、と車のドアが閉まる音。
まだ他に誰かいるのかな、と思ってたら。
「ダーリン、リッキィ!はやくいらっしゃい!」
「…それ、オレの名前じゃないな、ヴィーダ」
聞き覚えのある声。
…リカルド!
「フフ、ダーリン・リカァルド、イジワルいわないのよ」
「本当のコトだろ、ジーン?」
笑ってる、リカルドの声。
「怒った顔するともっとハンサムなのにねぇ」
「カワイイオンナがオトコ怒らすなよ、ティティ」
ゾロがそうっと席を立って、キッチンの方に消えようとしていた。
…なんで逃げようとするんだろ?
「あ!!!!!」
「あらあ?!」
「ダーリン!!!」
「"ダーリン"???」
心底げんなり、って顔をしたゾロを見上げた。
「知り合いなの???」
「ジョーン、ダーリン!あなたここに来たかったの?」
ジョーン…あ、じゃあ仕事関係じゃないヒトだ。
ゾロが盛大に溜め息を吐いていた。
「リッキィ、アルトゥロってジュリエットなの?!」
すごい勢いで、ヴィーダって呼ばれたヒトが笑ってた。
…すっごい迫力。
「リッキィは存在しません、よって解答ナシです」
リカルド、落ち着いてるねぇ…。
「ヴィーダ、あんたなぁ、」
「馬鹿を言うな。放り出すぞ、ヴィーダ」
ゾロとリトル・ベアが。
同じタイミングでぼそ、と呟いていた。
「アルトゥロ・ダーリン。幼馴染になんてこというの」
…リトル・ベアの知り合いでもあるんだ?
「言っていいことと悪いことがあるだろうが」
「ジョーン、ベイビイ。ジュリエットには会えたのかしら?」
…ジュリエット???
すい、ってジーンって呼ばれたヒトが、ゾロの前に立って見上げていた。
ものすごく、近い距離で。
とりあえず、事態を見守る。
リカルドが後ろで、ゲラゲラと笑っていた。
「あぁ、お陰さまで」
応えながら、ゾロがカノジョの頬にキスを落としてた。
ティティってヒトは、リカルドの腕にぶら下がって、とても嬉しそうにしていた。
ひょい、とリカルドがカノジョを抱き上げて、床に降ろしていた。
…リカルドの、カノジョなのかなあ?
溜め息を吐いたのは、リトル・ベア。
「サンジ、おまえ、逃げろどこでもいいから」
ゾロの台詞、とても真剣な声。
次に、びし、と当てられた三人からの視線に、びくり、と跳ね上がった。
…すっごい強い眼差し。
「「「サンジ???」」」
……なんか。
ピューマに睨まれた時に似てる…。
「………ええと?」
「ジョーン、ハニィ。オトコノコよね?このこ」
ゾロに抱かれたままのジーンが、オレを見下ろしてきた。
ティティがパタパタと走り寄ってきて、オレをきゅう、って首を傾げて覗き込んできた。
ヴィーダは、リトルベアの隣から、オレをじいっと見てて。
リカルドが、やあ、ってオレに手を挙げて挨拶をくれた。
オンナノコたち、三人。
にぃって笑って。
「「「ハロウ、ジュリエット。」」」
オレを見て、そう言った。
…嗅いだことのある匂い。
ゾロのシャツに含まれてたソレ。
ぐ、と強くなって、気付いたら、キスされてた。
頭から、耳から、顔中、どこもかしこも。
「………みぃあああああ!!!」
ナニ?なんで?
「仔ネコちゃあん!!!!」
ドウナッテルノ???
「うにゃあああああ!!!!」
next
back
|