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 第10章
 
 
 
 Tuesday, August 6
 「とーうちゃくッ!!」
 ほぼ同じくらいのタイミングで、滝壷の縁まで走りついた。
 ファルもサイアも、何度かくるくると回って、全力疾走していた力を抜き始める。
 荒い息。
 お疲れ様。
 
 ゾロに笑いかける。
 とんとん、とファルの首を叩いていた。
 「アソコ、見える?」
 滝から僅かに離れた、岩陰。
 「師匠がティピを張っておいてくれたの」
 水しぶきも水音も、届きすぎない場所。
 ゾロが頷いていた。
 「暫くは、あそこが家だよ」
 
 ゾロがくるりと周りを見回してから、ファルの背から下りた。
 オレもサイアの首を撫でてから、下りる。
 「オレ、サイアとファルをケアしてから行くから。先に休んでてね」
 鞍から荷物を先に下ろす。
 サイアとファルは、まだ僅かに荒い息を落ち着けるように、何度か足踏みをしている。
 「手伝おう、」
 「…うん」
 でも、その前に。
 ひょい、と荷物を片腕に持ったゾロの服を引っ張った。
 「ゾォロ」
 手を伸ばして、頬に触れた。
 
 …オオケイ、熱はナシ。
 すい、と頬にキスが降ってきた。
 …んん。ホッペタダケ?
 …いいや。後でいっぱいしてもらえばいいんだし。
 
 荷物を置きに行こうとしていたゾロに声をかける。
 「眠くなったら先に寝ててね」
 ゾロが何か言ってた。
 水音に消える声量で。
 
 ファルとサイアの鞍をまず外し始めた。
 ゾロはさっさと先に行ってるらしい。
 「…サイア、ファル。お疲れ様。ありがとうね」
 笑いかける。
 軽い嘶き。
 …うん。
 「暫くは、ここでゆっくりしていこうね」
 
 サイアとファルの身体を、乾いた布で拭いてから、ブラシをかけた。
 彼らは何度もここを訪れているから、土地感がある。
 どこでエサを食べればいいのか、どこで寝たら安全か。
 必要な事はちゃんと理解している賢い子たちだから、しばらく羽を伸ばしておいで、と送り出した。
 用がある時には、口笛で呼ぶ。それで彼らはやってきてくれる。
 森の中に入っていくのを見守ってから、彼らから外した馬具を拭く。
 それらは、ティピの中に運び込んでおく。
 
 さぁ、これで終了。やることはやった。
 後はもう寝るだけ…だけど。
 「…んー…汗かいたしなァ…」
 ゾロが横になってる姿を見る。
 薄い布地を被って眠っているみたいだ。
 「…やっぱりさっぱりしてる方がいいよねえ」
 よっし。水浴びしちゃえ。
 
 ゾロが運んでおいてくれた荷物の中から、タオルを一枚取り出す。
 先に靴を脱いで、それからそのタオルを持ってティピを出た。
 あまり風はないから、タオルが飛んでしまうことはない。それを川辺に放り出しておいて。
 服を着たまま、滝壷に飛び込んだ。
 深い冷たい水の中。
 滝の真下は、水圧がすごいから行くのは危険だけど、その周りはとても泳ぐのがキモチイイ。
 
 冷たい水、熱った身体を瞬時に冷やしてくれる。
 水の中で、服を脱いだ。
 洗濯代わり。ふははん。
 といっても、水の中に放置しておいたら、川を伝って流れていってしまうけど。
 適当に水の中で洗ってから、川辺の石の上に投げ出す。
 時刻は昼前、これからもっと太陽が照り付けてくる。
 夕方には乾いちゃうだろうな。
 
 水の中、泳ぐ魚をアソビで追いかける。
 さっき荷物の中に、缶フードがいくつか入ってたのを確認したから、今日は狩りをする必要はナシ。
 自炊は明日からかな?
 
 水から上がって、包帯を外した。
 下着も脱いで、適当に身体を拭いて。水浸しの服を、全部岩の上に貼り付けておく。
 一度水辺に戻って、水を飲んでから、岩の上に転がって髪を乾かした。
 上昇するばかりの気温は、肌をチリチリと焼き始め。
 髪はあっというまに乾いていった。
 
 「…んあ」
 欠伸をしてから、起き上がる。
 さすがにここで素っ裸で寝るのは危険だしなあ。
 使ったタオルも干しておいて、ティピに戻る。
 荷物の中から下着とTシャツを出して、着て。
 新しいデニムを出しておいてから、他にリトル・ベアが入れておいてくれた品物の中から、蛇よけのハーヴを取り出す。
 それをティピの周りに適当に撒いておいて。
 
 戻ってくる、ゾロの隣。
 すっかりと寝ているみたいだ。
 寝る前にきちんと着替えたらしく、上にTシャツ、下はスウェット。
 この調子だと、包帯も替えてあるかな?…ああ、あった。古い包帯。
 ゾロの服、洗濯しておいてあげたいんだけど……さすがに、眠いや…。
 
 静かに眠っているゾロの髪に手を伸ばす。
 寝て治してるんだろう、…やっぱりアナタ、狼だよ。
 額に口付けをそうっと落とす。
 きっちりと閉じられた瞼の上にも。
 頬を撫でて、熱の感触を確かめる。
 …うん…大丈夫みたいだね…。
 
 「……っ、」
 欠伸を噛み殺す。
 …んん…ああ、ごめんね、まだ寝ててね、ゾロ。
 ぴくん、と眉を動かしたゾロに、心の中で謝ってから。ゾロが横たわっている年代モノのバッファローの毛皮の上に、
 オレも横になる。
 …引っ付くと暑いかなぁ…?
 
 ふぁ、と欠伸をひとつしてから、目を閉じた。
 すう、と眠気が登ってきて、意識を手放す。
 …おやすみ、ゾロ。
 
 
 
 
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