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 「サンジは、鳥みたいだね、」
 「…鳥?」
 猫みたいだって、よく言われるけど、鳥?
 「うん。黄金色で。たかいたかいところ、風に乗ってるんだ。それで、たまに。降りてくるんだ、」
 うーん、自由ってことかなぁ?
 「あなたに、ちっとも相応しくない所に。」
 「え、そうなの?」
 相応しくない所なの?
 ぎゅう、ってジョーンの眉根が寄せられた。
 どうしてだろう。
 「―――うん、そんな気がするんだ」
 「ふぅん…」
 相応しくないところって、どんなところだろう?
 
 「けど、オレ。この世界が好きだよ?」
 「あなたのまわりはいっつもきれいであったかい」
 やさしい事は、稀で。いつも、厳しいけれど。
 オレはこの世界が、とても好き。
 「そうなのかな…」
 「ぼくや、みんなのまわりは、」
 「うん」
 「ねえ、サンジ?」
 「…なぁに、ジョーン?」
 「湖でスケートしたことある?」
 「あるよ。オレ、コロラドの山奥に住んでるし」
 「突然、氷が薄くなるでしょう。ほんの何センチか手前は大丈夫なのに。割れて、落ちちゃうでしょう」
 「ああ、湖とか、川では、そうだね」
 「……いつもそう。いちばん、大事な人が。とつぜんいなくなる」
 ああ、そうか。
 ジョーンの世界は、そういうルールの下、成り立ってしまっているんだね。
 
 「…うん」
 「だから。ほんの少しの間でも。あなたに会えてうれしいんだ。だってさ、サンジはサ、」
 オレは…?
 ジョーンが。にこって、笑った。
 「"ぼく"がすきでしょう?」
 「うん。とても、好き」
 アナタの名前が、本当は何であっても。
 オレは、アナタが、好き。
 
 「でもきっと。オトナのぼくはね、"ぼく"のままだったら氷の下に落っこちちゃうんだよ、たぶん」
 ああ、そういうこと。
 今のジョーンが、そのままオトナになったのでは。
 きっと彼は、彼が生きてきた世界では。生き延びれなかったっていうこと。
 「…厳しいね、アナタの世界は」
 素直であること。やさしくあること。
 そういうことが、命取りになる世界。
 辛いね。
 
 「あなたがたまーに、降りてきてくれれば。ぼくはそれでいいから」
 「それは、もちろん。いつだって、降りていくよ」
 アナタのために。
 アナタに会うために。
 アナタに会うためになら、オレはきっと傷付いてでも。
 心を込めて、言葉を口にした。
 「アナタに、会うために」
 
 するするって、額が、頬に寄せられた。
 「凄い約束、させちゃったね?」
 やっぱり、オオカミみたいだ。
 「構わない」
 「すきの上は"あいしてる"?」
 だって、オレ、アナタが幸せであってほしいから。
 「…うん。そうだね」
 微笑んだ。
 「そう。あのね、ぼくはあなたをあいしてるけど、あなたはぼくをあいしちゃだめだよ?」
 「…どうして?」
 ひくん、って心臓が、痛くなった。
 「どうしても。」
 「…手遅れ、かも」
 「だめ。」
 どうして、だろう。胸がどんどん、痛くなる。
 「…だって、オレ。もう、アナタを愛し始めてる」
 「だめだってば、」
 
 胸がズキズキと痛むのに。
 ジョーンはにかって、笑った。
 涙が、零れそうだ。
 「だって。"ぼく"には言わないでヨ。オトナのぼくが可哀相じゃない」
 
 そんなの、酷い。
 だってもう、こんなに。アナタを想っているのに。
 「でも、だいすきでいてね。」
 チュ、って小さな音と共に、頤に口付けられた。
 
 「…うん」
 泣いてしまいそうで。ジョーンの胸の中、顔を埋めた。
 
 「ありがとう。あいしてます、」
 とても真摯な声が、耳に響いた。
 背中と頭を、包み込むように、腕が回されて。
 きゅうううう、って切なくなるくらいに、抱きしめられた。
 「…うん」
 唇を、噛んだ。
 
 「ねえ、サンジ。顔、あげて?」
 ゆっくりと、顔を上げた。
 「きょうもキレイなあなたにキスしていい?」
 にこお、って、笑った。
 く、と喉が鳴って。
 勝手に涙がほとりと流れていったけれど。
 
 ジョーンの表情が優しかったから。うん、って頷いて、笑った。
 「じゃあ、たくさんする」
 「オレ、キレイじゃないよ?」
 多分、オレは、キレイじゃないよ?
 
 「そんなことない。」
 ぺろり、と涙を舐め取られた。
 「あなたは、ぼくにとって。」
 「…うん?」
 「ぼくのだいすきなものぜんぶ集めたより大事で、キレイ。」
 涙が転がり落ちていった跡を、柔らかく吸われた。
 
 「…ジョーン」
 「なあに?」
 「オレは、ずっと、永遠に。アナタを想うよ。今の、アナタを」
 
 「それは、封印。」
 唇、口付けられた。
 「いまのキスで、閉じ込めちゃったからね?」
 「覚えていて。アナタが、オレのこの気持ち、持って行って」
 「うん。じゃあ、ぼくが持っていくね?」
 心から嬉しそうに。
 ジョーンが微笑んだ。
 総てを受け入れたみたいに。
 
 「オレの今の気持ちは、ずっと。アナタと共に在るから」
 「うん、」
 柔らかく、唇が。もう一度、押し当てられた。
 やさしい、口付けだった。
 
 
 
 
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