しばらく。
キスして。またわらって。そういえばいま何時なんだろう、って思った。
時計。どこにあるんだっけな?わかんないや。だから、サンジの顔の横に、とん、って枕に顔埋めて。
何時かな?って聞いた。
「カーテン開けて?」
「いやだ。サンジがあけて?」
「んん〜…わかった」
フフン。
笑って、サンジが一生懸命腕伸ばして、ぼくの側の窓。
カーテンの端っこを掴もうとしてて。
やっぱり思ったとおりだな。ぼくの上、被さってるみたいになった。
「〜やっぱりちょっと、届かない…ッ」
包帯。いっつもぼくばっかりくすぐったいから。サンジもきっとくすぐったいと思うんだよね?
目だけで見たら、ぎりぎり。サンジの指がカーテンに届かなくって指先まで一生懸命になってた。
うーん、っていっぱいいっぱいに伸ばされてた。
それで、ぼくの顔のトコは。ちょうど胃のあるところくらい?
コレはくすぐったいよね?サンジはカーテンに一生懸命だし。
フフン。
しずかーに。息、吸い込んだ。
いま、腕まわしたらバレちゃうから。ブランケットからそうっと抜き出すだけにして。
おなかのところ。
顔くっつけて、ぷううって息を思いっきり吹いた。
「うわぁッ!!!!!!」
自分でもスッゴイ速さだな、って思った。
サンジのひっくり返った声がした。
「じょ、じょーん…!!!」
飛び上がってるから腕で背中押さえ込んで。
けらけらわらった。
「うわぁ、びっくりしたよッ!!!」
ほんとうに驚いた声だ。
くっつけたままのおでこの辺りから。サンジの心臓がドキドキしてるのがわかった。
くったりしちゃってる。あははは、びっくりしたんだ?
「びっくりした?」
「すっごいびっくりしたよ!」
ぐるぐる、ってまた額をくっつけた。
「絶対、今3センチは跳んだ!」
「跳んでたネエ!」
「もーびっくりしすぎて…」
「なあに?」
背中、離してあげた。
「…ああ、だめだ。一日のエネルギー、全部使っちゃったよ」
「じゃあ、ずっとこうしてる?」
くたあ、ってサンジがまた枕に顔うめちゃった。
ぼくがカーテン開けてあげた。すぐ腕、届くよ?
「や、今日は…お掃除しないと…」
それから、ちらっと窓のほう見て。あ、でももう。11時過ぎてるくらいだね、って呟いてた。
「太陽でわかるの?」
「うん」
サンジの方に向き直った。
だいたい、だけどね、ってサンジがにっこりした。
「へえ?すごいね」
身体の向きを変えて。半分起き上がった。
んー、なんか。手持ち無沙汰な気がする。なんだろう?
サンジが。隣で、読み方さえ知ってれば、だいたいみんな解るよ、って言ってた。
放っておくと、なんとなく。
手が。サンジのほうか、サイドのテーブルに行きかけるんだけど?
どっちにしようかな、って思ったんだけど。テーブルの上、なんにもないし。
右手、伸ばして。
つるん、としたほっぺた、触った。
サンジの顔が、枕から浮き上がって。ぼくの方に向いた。
そのまま、頤のほうまで。そっと撫でた。
キレイな線を、ぼくの手。覚えておけるかな。あったかくて、涙が出そうなくらいさらさらの滑る感触とか。
まっさおの目が。なぁに、って訊いてるみたいだった。
唇にも触れた。ああ、やっぱり、すこしだけ冷たいね?
指先。ぺろりって熱い感触がした。サンジの舌。
こういうところはネコみたいだね?
耳もと。なんの飾りもないけど。
ぱくん、てすると。
なんだか、丁度良いんだよな。不思議だね。
くすくす、ってサンジのわらってるのが。くっつけた肌の所から。ひろがっていく。
首のトコ。好きだな、とくとくって脈拍が伝わるから。
喉骨のところにも、チュ、ってしたら。こくん、って動いておもしろかった。
くすぐったいってちょっと上がった頤のしたのところ。そのままキスした。
クスクスまた揺れて。ぼくも笑い顔になった。
「ねぇ、ジョーン」
「んー?」
耳の下のとこ。キスした。
「おなか、ダイジョウブ?空いてない??」
「おなかー?」
するする、ってそのまま滑った。首の付け根のトコまで。
「そぉ…朝ごはん、食べ損ねちゃったね…んん」
最後のほう、笑い声にまぎれちゃったね。
喉の一番したのことろ、ちいさな三角。
そっと吸うみたいにした。うん、おなか。すいたかな?
「…オレじゃ、オナカは膨れないでショ?」
うん、すいたみたい。だって、そのよこの細い骨のとこ。美味しそうだモン。
「すいたかも。」
がじ、って軽く齧った。
「昨日焼いたチェリーパイ、ブランチに、食べよう。あ、でも」
「なあに?」
顔をあげた。
「ちゃんとソーセージとサニー・サイド・アップ、食べたい?」
にこお、って。サンジが。ふわんふわんの目元で。
両手で顔を挟むみたいにして。おでこをくっつけた。どうしてもそうしたかった。
「パイがいいよ、」
「だけでいいの?」
「うん、なんだかね?」
「なぁに?」
「もう、おなかがいっぱいな気もするんだ」
わらった。
「…そうなんだ」
「ゴチソウサマでした。」
「うわぁ、何言ってるの」
だってほんとうのことじゃないか、っていったら。サンジが笑い止まなくなっちゃった。
だから。
またキスしたんだ。
なんだか沢山のキスを貰った。
ふわふわしていた。優しい気持ち、砂糖菓子みたいな。
なんでだろう。
ひとしきり、ハグして、キスして、ベッドの中。
あれだ、なんとなく気分は、とても仲のいい犬と猫。
グルーミング、してるような感じ。
けれど。
砂漠の寒い夜用に、布団は暖かくなる素材のものを使っているから。
太陽が真上に来る頃、とても中でゴロゴロし続けるのは辛くなって。
「起きよう?」
そう声をかけた。
ジョーンがはい、って答えて。
にっこり笑顔に笑い返しながら、冷たくて気持ちがいいフローリングに足を下ろした。
んん〜、って伸びをして。それから、キッチンに向かった。
冷蔵庫開けて、先ずはオレンジジュースを取り出した。グラス二つ分に注いで。
後ろをヒタヒタとくっ付いて歩いてきていたジョーンに、片方を渡した。
「ドウゾ」
「ドウモアリガトウ」
二人で並んで、一気に飲み干した。
冷たいジュースが、寝起きの身体に、気持ちよく染み込んでいった。
グラスを受け取って、シンクに置いたら。大きな腕が回されて。
「シャワー、行ってきていい?」
耳元で訊かれた。
「いいよ。包帯、外してあげるから」
「アリガトウ。」
その場でTシャツを脱いだジョーンから、包帯を外して。
「はい、いってらっしゃい」
「いってきます。」
鼻先にキスをして。御風呂場に送り出した。
…そのまえに、ハグされたけど。
ジョーンが消えていって。それでもクスクス笑いは収まらなかった。
とても幸せな気分。
冷蔵庫にしまっておいたチェリーパイ。
暖かいのにアイスクリーム乗せようかなぁ?
それとも、冷たいままのに、少し溶かしたアイスクリームを乗せようか。
やっぱり外はもう暑いから。このまま冷たいほうが美味しいよね?
うーん、これだけでブランチか。ちょっといろいろ足りないなぁ。
…いいか。晩御飯にちゃんと食べれば。
あ、でも。夕方、サンドウィッチでも摘もうかな、掃除の後。
うん、そうしよう。それでいこう。それじゃあ、飲み物の支度しよう。
アイス・ラ・テを作っている間に、ジョーンがシャワーから出てきた。
デニムに、ダークブルーのシャツを軽く羽織って。髪からはまだ、ポタポタと雫が零れていて。
「もう薬はいらないよね?」
近寄って、ひらりと捲られたシャツの中を覗いた。
「うん、もうダイジョウブだね」
「フフン。」
うっすらと打ち身の痕が残っているだけだった。
「でも、髪もう少し拭かないと」
「へーき。」
「ダメ。ほら、タオル貸して?」
にかって笑ったジョーンに、手を差し出した。タオルを渡されて。アタマを下げてもらった。
ワサワサと髪を拭いた。ジョーンがくすくすと笑っていた。
「よし。じゃあ、いいよ。ブランチにしよう」
生乾きの髪に、口付けて。タオルをソファの脇に置いて。
座って、とソファを指し示した。はーい、って元気良く答えて笑ったジョーン。
アイスクリームのバケツとスプーンを手渡した。
「パイに添えてね」
「了解。」
切り分けたテーブルの上のパイを示した。
ジョーンがアイスクリームを掘り出している間に、アイス・ラ・テをテーブルに置いて。
ナッツが入ったボウルも、一緒に出した。
テーブルがセットされて。アイスクリームのバケツを冷凍庫に戻して。
食べる前に、お祈りを捧げてから、いただきます、を合図に食べ出した。
「サンジ、」
「んん?」
「天才!おいしいよ!」
「あは!ありがとう。1個じゃ足りないでしょ?一杯食べてね」
「任せて。」
満面の笑みで笑うジョーンの様子に。こっちまで嬉しくなってくる。
頷いた顔は、でも真剣で。なんだかジョーンが可愛くて。
こつん、って肩にアタマを寄せた。一瞬。
ゴハンを食べ終わって、お皿洗いが終了。
洗濯物を集めて、まずはそれを洗濯機に放り込んだ。
「ねぇ、ジョーン。御風呂洗うのと、ここを箒で掃くの。どっちやりたい?」
「どっちが難しいの?」
「どっちも難しくないよ。でも、強いて言えば、御風呂かな」
だって水は、貴重だし。
「ふうん?」
じゃあ、御風呂って言ったジョーンに、お願いしますのキスをして。
彼の姿が御風呂場に消えていった後、廊下のほうから箒で掃きはじめた。
「あ、ジョーン。お水、出しっぱなしにしちゃだめだからね!ここは砂漠だから」
はーい、って答えがドアの向こうから返ってきて。
なんだかまたクスクス笑いながら、部屋全体を掃いていった。
やっぱり砂漠の真ん中にある家だから。どこからともなく砂は入ってきていて。
結構な量が集まるものだ。それを開け放したエントラスから掃き出す。
さぁて。これから雑巾がけだ。
ジョーンは大きな声で、歌を歌っている。
Mr.Sandman, Bring me a dreamって。元気な水音まで、聴こえた。
室内においてあったバケツに、水を汲んで。ジョーンが歌うのにあわせて、モップで拭いていった。
あ、しまった。本当は家具を先に、拭いてしまわなきゃいけないだった。
…まぁ、いいか。
モップがけを終わらしてから、濡れた雑巾で家具を拭いていった。
一通り水拭きしてから、テーブルの上は、一応アルコールで除菌。
サーンジーって、大きな声で呼ばれて。バスルームを覗いた。
「どしたの、ジョーン???」
「できた!」
「なにが?」
「掃除!!」
そう叫んだジョーンは。シャツは脱いで、ズボンの裾を捲っていたけれど。
デニム地には、水がかかった跡が残っていて。しかも、身体には、シャボンが所々くっついていた。
「お疲れ様。なんだったら、もう一度入る?」
ククッと笑いがこみ上げてきて。ジョーンの鼻先に、キスをした。
「いっしょならね?」
ジョーンも得意げに、笑っていた。からかいも、見て取れる表情。
「いいよー、一緒でも。先に洗濯物干してこないといけないけど」
笑いかけた。狭いから、多分。ちょっと苦しいかもしんないけど。
そしたらジョーンは大きな声で笑って。
「いいよ、お水大事だもん」
そう言った。
「あ、じゃあこの後。キャニオンの奥、コロラド川まで行ってみる?」
「泳げる?」
「泳げるよ…アナタ、馬に乗れる?」
「乗れるよ」
「よし!決定!!!サンドウィッチ作って、泳ぎに行こう!!!」
「やった!」
「ねぇ、洗濯干せる???」
「もちろん、」
「おっけい。任せた!その間に、サンドウィッチ、作っちゃう」
「おいしいやつね!」
そうと決まれば、急げ急げ。
台所に取って返して、冷蔵庫をひっくり返す。先ずは野菜を下ごしらえして。
シャツを羽織って外まで走っていったジョーンを目の端で見送った。
この気温だから、ダメになる食材はNGだし。ベーコンを焼いて。マッカレルもスキかな?
グリルでスモーク・マッカレルを焼きだす。野菜を水切りしている間に、パンを切って。
バターと、粒マスタードをたっぷり。レタスやキュウリやパプリカなどと、マッカレルを挟んで。
ベーコンとレタスとトマトで、もう1セット。
レッドチェダーとピックルスのサンドウィッチで、3種類目。
林檎も持っていこう。
ポットに水を詰めて。ランチボックスに、それらを積めて。リュックサックに仕舞いこんだ。
そうだ、着替えのパンツが必要だね。
ニコニコ笑顔で帰ってきたジョーンに、ありがとうのキスを頬にして。
あとは、バスタオル、2枚持っていこう。それらを全部仕舞って。
「ジョーン。この荷物を車に積んでおいて」
「いいよ。」
行ってもらってる間に、リトル・ベアに電話。
コールに出るのを待つ間に、走っちゃダメ、ってジョーンに言った。
馬を貸してくれる手配を整えてから、思い出して、日焼け止めを取りに行った。
車に荷物を積んだジョーンに、ベタベタとクリームを塗って。
自分にも急いで塗りこんでから。
「出発!!」
号令をかけて、車を発信させた。
楽しい午後に、なりそうだった。
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