Thursday, August 8
眠りに半ば引き戻されながら。横になっている地面を通しても響いてくるような滝音を意識のそこで拾う。
一定のリズム、時おり音階を変えながら続く。
そして。
身体を通して直に響き、じわりと感覚に潜り込んで来るのは。
熱量と密やかな寝息と、緩やかに上下する背。
抱きとめていた腕をまた引き寄せる。
ゆっくりと、意識が表層に上がって来た。目を開けるまでに時間がかかるのはいつものことだ。
なにか小さく吐息に音を混ぜて、サンジがハナサキを少しばかり擦り付けてくる、胸元。
その感覚を追いながら、ゆっくりと目を開ける。
ヒカリを抱き込んでいるのと、大差ない。不意に思った。
薄暗いティピの中、サンジの周りだけが茫と淡く明るい。
く、と。
抱き寄せてみた。
「うにゃ、」
―――うにゃ???
驚いていたなら寝息が止まり。
けれどまた。すう、と眠りに戻っていた。
「―――ネコだ、」
何度目かの、心からの発言だ。
胸元、シャツの襟辺りを握りこんでいた手をやんわりと緩めさせ、間近に引き寄せてみる。
手首の辺りを持ち。
表と裏を眺める。
「―――ヒトの手だよな…」
寝惚けた頭の仕出かすことだ、我ながらバカバカしいけどな。
ふにゃりとまたサンジが、緊張感皆無な寝顔のまま。わらった。
掌に唇で触れ。
手の甲にも同じように繰り返す。
握っていた手首に。くっと伸ばされた手の感覚が伝わり。またそれが弛緩した。
クスグッタイ割には、起きようとしないんだな、オマエ。
また、掛けられていた足を降ろさせた。
「何回言えばその癖、止めるんだろうな、オマエは」
手首に口付けた。
「んー…、」
かすかな声が、胸の辺りから届いた。
どうやら眼が覚め始めたらしい。
手を放してやり、そのまま髪に唇を落とした。
けれど、また。
ひょい、と。足をおれに掛けやがった。
「……、」
あのなァ、サンジ……
肩をやんわりと掴み身体を浮かせようとしたなら。ぼお、と目を開いただけのネコが額をぐいぐいシャツの襟元に
押し当ててきた。
するすると柔らかに滑る髪に指を潜り込ませ、頭を後ろに引く。
「バカネコ、いい加減起きろ」
呟きに乗せ。軽く目元に触れる。
「…ヤダ」
きゅう、と全身でしがみついてきた。
そのまま唇を頬へと滑らせる。
さらり、と指の間を髪が流れた。
「ゾロのうでのなか、きもちがいいの」
消え入りそうな声が、ゆっくりと音を紡いでいた。
カオを上向かせ、間近で覗き込む。
「フゥン…?」
おれはてっきり「抱き枕」にされたかと思ったな、と続け。掛けられていた足をさらり、と掌で撫で上げた。
とろり、とした眼差しが見上げてきてた。それがふわりと笑い。小さく息を零していた。
「…だいて、」
ふわふわとした口調のままで言っていた。
抱きしめてみた。
「ゾォロ、オハヨウ」
同じ口調で言葉が乗せられる。
唇を啄ばんだ。
背中のラインを手で確かめる。
項、肩へと流れる線。
上げられる腕の描く端麗な線と。
背骨の終わりへと流れる線。
頤のラインを唇で薄く辿り。
く、と上向いたのにちいさくわらった。
掛けられていた足で身体を引き寄せられて、「足癖が悪い、」と耳もとに声を落とした。
は、とサンジが小さく息を吐き出し。
「いいの、」
どこか笑いを潜めた、甘ったれた声が言っていた。
柔らかな感触に薄く歯を立てる。
「…んん、」
す、と手をコットンの下に滑り込ませる。掌に直にふわりとひろがる温かさに勝手に口角が上がった。
そのまま、首元にカオを埋める。
甘い肌を舌先で味わい。滑らかな手触りを愉しんだ。
身体にどこまでもやわらかく添うかと思うサンジから。
「ふぅ、」と微かに震えた吐息が漏らされていた。
僅かに迷う。
このまま、口付けてしまえばとりとめもなく深くなっていくだろうな、と。
けれど、裏腹に引き降ろさせた襟元からのぞく肩口に口付け。
く、と浮き上がった肩甲骨を指先が確かめる。
「―――オハヨウ、」
喉元に唇を押し当てながら言った。
「…んん…」
クスクス、と笑いが触れ合った部分を通して伝わってくる。
「まだまどろんでるみたい、」
ふわりとした声。
「そりゃあな、」
声を落とす。
「ただ"だいて"いるからだろ、」
「…ゾロは…したい?」
「Watch your tang, baby」
ベイビイ、口に気をつけろ。
笑いを落とし込む。
「キスして閉じ込めて」
くすくすとわらったままでサンジが言葉に乗せ。
「ヤナコッタ」
きつく抱きしめてから、起き上がった。
ころ、と寝返りを打って毛皮に額を擦り付けていたサンジを引き上げる。
くすくすとわらったままでいるサンジの髪を両手で引っ掻き回し。
「ホラ、ネコ。起きろって」
わらった。
「そのうち喰ってやるから」
「…ンー……こういうガマンは辛いねぇ…」
ザンネンそうなサンジの声に。またわらいが零れた。
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