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 洗濯を終えたら、なぜかびしょぬれだった。
 ついでだから、お風呂の変わりに水浴びをして。そのまま着ていた服も洗って。
 すっかり気温が上がって、じりじりと照りつけてくる太陽の下、水から上がった。
 びしょびしょの頭を振って水気を飛ばし。
 それからティピに戻って、着替えて。
 岩に洗濯を全部伸ばして干してから、ゾロの側に行った。
 
 読書中のゾロ、木に凭れかかって半分寝そべり、黒猫さんの本を片手に持ってる。
 唇に咥えたタバコの先端から、白い煙が立ち昇っていた。
 「洗濯終わったよ」
 ゾロの側に腰を下ろす。
 
 木陰は随分と涼しく、過ごしやすい。
 ゾロの片手が伸ばされて。ふい、と肩に触れていく。
 そのままゾロの腕、力が入って。
 上半身、ゾロの胸の上に乗っかる。
 背中をトントンと撫でられる。
 目を閉じて、ゾロの胸に頬を摺り寄せた。
 ゾロの体温、あったかい。
 
 「ひんやりしてるな、オマエ」
 「…水浴びもしてきたんだ」
 落とされた柔らかい声にうっとりとなる。
 少し離れた滝からの水音、心地良く響いてる。
 「あぁ、見えてた」
 そうゾロの声が聴こえた。
 「オレ、水浴びもスキ…」
 
 とろん、と眠くなる。
 幸せに、まどろみたくなる。
 ぱら、とゾロがページを捲る音がする、頭上で。
 ふぅ、と重たくなりつつある息を吐き出した。
 すり、とゾロの脚に頬を摺り寄せる。
 …んん、ホントに寝ちゃうかも…。
 
 さら、とゆっくりと滑らされるゾロの掌の感触に、体の総ての力が抜けていく。
 ごろごろ、と猫なら確実に喉を鳴らしているだろうな、今のオレ…。
 「……ん…」
 くう、と意識が眠気に引き込まれた。
 遠くで鳥が羽ばたく音を聴きながら、早いシエスタ。
 どこまでも優しく触れてくるゾロの指先、背骨を辿っていく感触だけが、いつまでも甘やかに意識に残っていた。
 
 
 ふ、とゾロが動いた瞬間、ぷかん、と意識が浮いた。
 「…んな?」
 …あれ?オレ…寝てたんだ…?
 頭をひょいと擡げた。
 目の前、ゾロが読んでいる黒猫さんの本。
 半分以上、読まれていた。
 …オレ、そんなに長い間、眠ってたのかなあ…?
 ゾロの胸近くで、オレは凭れかかって寝ていたらしい。
 いつのまにか、引き上げられていたみたいだ。
 肩、ゾロの腕が置かれているのに気付く。
 もぞり、と動く。
 
 す、と目の前にあった本がずれて。ゾロが起きたか、ってにこりと笑って言っていた。
 「…ん。オハヨウ…」
 ころん、と横向きになって。すりすり、とゾロの胸板のところに頬を摺り寄せた。
 くしゃくしゃ、と髪を掻き混ぜられる。
 そしてゾロの掌が、オレの項を滑っていく感触が続いた。
 …んん、キモチガイイなあ…。
 
 うっとりと笑って、ゾロを見上げる。
 手を伸ばして、ゾロの頬に触れた。
 「…ゾロ、」
 「よく寝てたな」
 優しいゾロの口調。
 こくり、と僅かに頷いて返す。
 「気付いたら寝てた…」
 ゆっくりと微笑みを刻むゾロ。
 数回瞬きを繰り返す。
 「すごい…気持ちよかった」
 
 まだふわふわとした眠気の残りを、どこか引き摺っている。
 ゾロが片腕で、オレをく、と抱きしめてくれた。
 「…すごおい…安心して寝てたよオレ…」
 「…そうか、―――良かった」
 すり、と胸元にまた、頬擦りをする。
 少し深みを帯びたゾロの声……なにかに思い至ってるような。
 「ゾロが撫でててくれて…嬉しかった」
 「ネコは可愛がるモノだろ?」
 
 「…ミィアウ」
 に、と笑ったゾロに、短く鳴いてみせる。
 はむ、と唇にキスを貰った。
 少し唇を開いて、ゾロの唇を啄んだ。
 何度か繰り返して。
 目を閉じて、柔らかな感触を味わった。
 みゃあ……ゴロゴロゴロ。
 
 「…本、おもしろい…?」
 見上げて訊ねてみた。
 するり、とゾロの頬に指を滑らせる。
 「あぁ」
 滝壷の水よりキレイなミドリが、きらっと光を反射して煌いていた。
 …黒猫さん…なんの話なんだろうねえ?
 
 ちらりと見上げた先、…鳥だ…。
 山バト……うううん、ちょっと美味しそう…?
 「…そうだ、…ゾォロ?」
 返事の代わりに、きゅ、と抱かれた。
 「ランチと晩ご飯、どうしよう…?」
 残り物は食べてしまったしねえ……。
 まぁまだ缶フードがあるからいいんだけど…。
 
 「狩りに行く、とか言うなよ…?」
 「んー……今日はまだ、そんな気分じゃない…」
 「あぁ、離す気もねェよ」
 …どっちかっていうと、今はゾロの指が食べたいなあ…。
 「…ウン」
 
 眼を閉じて、ゾロが額にキスをくれるのを感じた。
 クスクスと笑う。
 「…ゾォロ…?」
 す、とまた目許、口付けられる。
 「…オレ…アナタの指が食べたい…」
 ふわふわと甘い吐息と共に、思ったことを言ってみた。
 
 「却下、ただいま使用中」
 少し弾むような、笑いを含んだ声。
 …からかわれてるのかな…?
 「Miau…」
 笑って鳴いたら、する、とゾロに喉元を撫で上げられた。
 すりすり、と頬をゾロの胸のところに擦りつける。
 遡るように輪郭を辿っていくゾロの指。
 「Miau」
 くすぐったくて、気持ちよくて、もっとして欲しくて。
 とろとろ、と意識が蕩ける。
 
 ふいに、す、と抱き寄せられて。
 そのままころん、と位置、入れ替えられた。
 「んなう?」
 こて、と地に頭が着いた。
 とても間近なところで、ゾロのグリーンの瞳が煌く。
 …日陰になったゾロの眼。
 それでもどこか澄んでキラキラしてる。
 …キレィだなぁ…。
 
 うっとりと見惚れていたら、少しだけ冷たい指先、するん、と腹部に触れながら、オレの着ていたTシャツを引き上げていった。
 とくん、と心臓が一つ跳ねる。
 す、と触れる、腰の上のあたりに草の感触。
 くすぐったくて、少し笑った。
 背中、ゾロのちょっぴりひんやりした片手が潜っていって。
 く、と僅かに浮かされる、オレの体。
 もう片方の手、直に肩の線を撫で下ろしていく。
 
 さわさわ、と触れる感触に、うっとりと眼を細めると。
 ゆっくりとゾロの視線が落ちていって。
 胸元、ぺろ、と。ゾロの舌、押し当てられた。
 「……っ」
 
 たったそれだけ。
 なのに眩暈がする。
 クラクラ、木漏れ日がゆれる枝の間から落ちてくるみたい。
 ぞ…ろぉ…、
 呟きは、声にならない。
 …おれ、とけちゃうかも…。
 
 うっすらとゾロの唇が肌の表面に触れていく。さわ、と。
 そして時折、熱い唇が押し当てられ。く、と食まれる。
 肺の奥から、深い息を吐き出した。
 肩から胸元、それからデニムが遮る腰のちょっと上まで。
 剥き出しになった肌の表面を、ゾロの熱くなってる掌の表面がなぞっていく。
 ふる、と体が奥から震えた。
 
 ゾロが、あまい、って呟いて。
 とても上機嫌に、に、って笑っていた。
 「…ぞ…ろぉ…」
 掠れた声が、喉から零れる。
 く、と一つ息を呑んでから、眼を瞬いた。
 
 ゾロの舌先が、きゅ、と胸の中心をすくい上げていった。
 はァ、と息を零す。
 キラキラの木漏れ日。
 キラキラと眩暈。
 やんわりと押し撫でては、薄く穿っていくゾロの牙。
 「…とけちゃうよ…」
 眼を閉じた。
 身体の芯がジン…と痺れた。
 
 く、と指先が、また押し撫でて。
 それから、その指先がする、と腰骨まで下りてきた。
 聴こえる、ゾロの柔らかく潜められた声。
 「あァ、見ておく」
 
 
 
 
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