ふつり、と。触れた肌の熱が僅かに高まったのが伝わる。
舌先で、熱を確かめ。水で冷えていた名残を肌が何も残していないほど柔らかに高まるのを感じ。
つ、と押し撫でた。
「ふ…ンんっ」
ひく、と手を這わせていた滑らかに続く肋骨のオワリから腰までの線が強張り。
じわり、と薄い肉を微かに穿っていく。
「ゾォロ、」
甘えた声に、名を綴られ。
く、ときつく肌を吸い上げる。
「ん…っ」

―――あァ、そろそろヤバイかもしれない。あとほんの少しで、戻るに戻れなくなる。
手をデニムと肌の境目に差し入れながら、そう自覚する。
このままだと、おれの方が保たねェな、理性。
腕の中で、じわりと熱を上げ、震えるほどに柔らかい身体。
指先で押し撫でていた胸元を歯で掬い上げ、やんわりと口内で味わう。
「…ぁ…んン、」
勝手に、ボタンフライを外そうとする自分の指先に半ば気をとられかけ。サンジの身体の線をなぞらせる。

引き上げていたコットンの感触を指先が伝え。
かり、と食んでから身体を浮かせ。肌を滑らせ、引き下ろす。
「…っ」
半ば身体を重ね、ぼう、と目を開けたサンジを間近で見つめた。
とろ、と見上げてくる蒼が潤み。
ゆっくりと、目元から頬までを掌に添わせた。
「…ぞ…ろぉ…?」

問い掛けるように半ば開かれた唇に舌先で触れる。
そのカタチを辿り。
濡れた音を立てて「喰った」。
熱く濡れたあまさ、差し出され、味わう。
肩に、縋るように回された腕を感じ。深くなるばかりの口付けにわらった。

おれは、オマエに限度が無い。
何度目か、また自覚する。
ふ、と苦しげな息が洩らされるほど熱く濡れた内を弄り、く、と上向かせる。
くぅ、とサンジの喉がちいさく音を鳴らし。
ざわり、と抑えていた飢えが足元に蹲る。

潤み、揺れる蒼がその熱まで伝えるかと。
サンジが一心に見上げてきていた。
浮かせた唇をまたかるく押し当て。
濡れた感触が伝わり、薄くわらった。
する、と触れ合わせ。滑らせ。名前を刻む。
とろり、と蒼が溶け。微笑み返してくる。
「―――サンジ、」
音に乗せ。

唇を食まれた。
髪に差し入れていた手を、耳もとに滑らせ。
耳朶を愛撫する。
甘く濡れた吐息が、零され。
僅かに上向いた頤に唇を落とした。
そして身体を浮かせ、起き上がる前に。触れずにいた下肢へ手を滑らせる。
デニムの荒い布越し、息付いていた中心。
こくん、とサンジの喉が上下していた。息を飲む仕種。

く、と。
触れた指先に僅かに力を込め。
さらり、と布地を撫でてから身体を起こした。
「あ…、」
唇を指先で辿る。
ヤダ、と眼が訴える。
おれがモタナイだろ、そんなカオするなよサンジ。
上から覗き込む。
上気した頬、朱を刷いた目元。
濡れて色づいた唇。
フウン?―――美味そうじゃねェかよ。
喰いたいのは、山々だけどな。

さらり、と輪郭にそってまた手を滑らせる。
そして、まだ草地に落とされたままのサンジの身体を引き寄せた。
そうしたなら。
懸命、としか表わしようが無いほどの仕種で抱きつかれた。
とんとん、と上下に掌を軽くその背に添わせながら、抱きしめ返した。
腕の中の身体はどこまでも力を預けてくる。

とん、ともう一度その背を柔らかく掌で確かめ。
返礼のように、サンジが頬擦りをしてきた。
―――ネコだ、また思った。
くう、と撓る背を。きつく抱きしめた。

「じゃあ、おれは読書に戻る」
耳もと、柔らかな肉を噛んで言葉にした。
「…オレ、このまま溶けてなくなっちゃうかも」
倒れこんだ身体を、引き上げた。足の上に。



はぁ、と甘ったるい息を吐き出す。
トクトクと走り出している心臓。
あちらこちらで、ぴりぴりと電気が走ってったみたいに、皮膚がぞわぞわとしている。
けれどそれ以上、快楽が登ってくる事は無く。
ぽん、と快楽は中途半端に放り出されたままだ。

木に凭れて読書を再開したゾロ。
投げ出した足にオレは頭を乗っけて、蟠った甘ったるい感覚を持て余していた。
白じんだ脳内で。ぼんやりと青空を見上げる。
時折さらんとゾロの指先がオレの髪を掬っていく。
純粋にキモチイイその感覚に、目覚めた快楽を宥める。
溜め息に似た吐息を零して、すり、とゾロの脚に頬を摺り寄せる。

ゾロの指先は、なんだかオレの存在を確かめているかのように髪を撫でていく。
とろん、と蕩けた甘ったるい身体。
こんな風に熱が暴走することを、ゾロに愛されるようになって始めて知った。
きっとこれから先、ゾロ以外にこういう風に思える相手はいないんだろう。
それ以上に、オレはゾロだけがいいから、他を探す気にもならないんだけどね。

さらさらさら、とまた耳元で。オレの髪が落とされていく音。
…夏の初めにゾロに出会った時より、いくぶんか伸びた髪。
なんども掻き上げて耳の後ろに撫で付けていたから。毛先が少しカールしだしているソレ。
ゾロにそうやって梳いてもらうのはスキだ。

ふわん、と温かくなって、ふわふわと甘い感情がどこまでも満ちていく。
なのに。
その裏側にあるもの。
漠然とした切なさ。
こうして愛されている向こう側で、ゾロの群れがしかけているハントは続行されているんだろうことを、考えることなく思い当たる。
幸せは、幸せだけでやってこない。
そんなことも、ゾロに出会って、初めて知った。

蕩けて溶けて、空気にだって混じって無くなってしまえそうに幸せなのに。
きゅう、って胸が小さな棘の存在を訴える。
オレはゾロに愛されてる。
だからこそ、ゾロに身体も愛されたいと願う。
けれど、その先にあるもの。
ゾロとの一時的な別れ。
夏休みの終わり。
現実は待ってくれなくて。
ゾロの身体が回復したら、オレはゾロを時の流れに返してあげなければいけない。
そしてオレも、フォート・コリンズのあの家に帰らなければいけない。

こうしてお預けを食らわされて。
身体は確かに、知った深い快楽を求めて、熱い渇望を訴えるのだけれど。
そうして抱かれてしまったら…その先にあるのは別れだと知っているから。
今はこうして、ゾロに引っ付いて。
ネコのように纏わりついているだけで、満足しなければならない。

青空、一生青いままのような顔をしていても。
日が落ちれば、暗闇がやってくる。
そしてその後に、黄金の光が。
移ろい流れていく、川の水のように。時間は。

するり、とゾロの脚に頬擦り。
確かな質感と熱が嬉しい。
ふわふわと笑みが零れていくのに、どこかで不意に泣きたくなる。
泣かないけど。

いきなりゾロの腕がぐ、と伸びて。
身体を引き上げられた。
くてり、と身体の力は抜けたまま。
眼は閉じたまま、ゾロに微笑む。
ゾロが上半身を折って、ふいに目許、ふわ、とキスを落とされた。
そしてまた本に眼を戻していた。

腕を伸ばし、ゾロの腹辺りに顔を埋める。
目を閉じて、ニオイを覚えこんで。
体温をいとおしむ。響く鼓動に聞き惚れる。
ゾロの掌、頬から耳あたりまで、なんども滑らされていく感触。
幸せで眠くなる。
切なくて、泣きたくなる。
はむ、とゾロのお腹を柔らかく食んだ。
固い腹筋、Tシャツの味。
小さく笑って、眼を閉じたまま顔を埋めた。
溜め息、ゾロにわからないように零して。

頭の中でリフレインするのは、
最後に聴いた、ティンバーたちの別れの歌。
…独りであること。一人であること。
オレは、そう在る事に慣れなきゃいけないんだろうなぁ……。

それでも、虫がざわめくこの場所で。
ゾロの膝の上、木陰の下。
オレが選んで、求めたもの。
オレは、手に入れたんだから。
あとは、もう……覚悟するだけ、なんだろうねえ。

幸せで、切なくて。
オレは独りで、だけど一人ではなくて。
繋がっている、愛されている、切り離された場所で。
歯車が元に戻される瞬間の痛み、今から思い悩んだって仕方がないんだけれど。
オレは笑って、ゾロを送り出せてあげられるかなぁ…?




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