狩り、とやらに。
朝食後、サンジは出かけた。
木立から出てきた馬に野生児らしく鞍ナシで。

いまは、10時前といったところだ、朝の。
ぽかりと時間が空く。
オプション。
釣り、ないし読書。
おれはフロリダで隠居したクソオヤジと一緒かよ??
や、アレはもっと別のところか?

あぁ、クソオヤジ、アレもこの事態をすっかり聞いているに違いない。
…ペルか、敵方にヤラレル前に。あのイカレオヤジからのアサシンに気をつけよう。ヤツはおれが躓いたなら上から
岩を尖った方を下にして落としてくるような男だ。

サンジの気配が遠のき、完全に消えていった。上等だ。今度はおれが置いていかれる番か。
あァ、上等だよ……クソウ。…寝ちまえ。おもしろくねぇ。
ペインキラーがいまになって効いてきやがった。
遅ェんだよ、だから。



口笛を吹いて、サイアを呼び寄せた。
駆けてきたサイアの背中に、通り過ぎ様のっかって。
ゾロに、「行ってくるね!」って声をかけて、森の奥に向かった。
滝壷の周りには、パワースポットなだけあって、沢山の動物たちがいるんだけど。そこは同時に聖地なので。
魚までならともかく、血を撒き散らすことになるハンティングは、気が引ける。
魚に血が無いってわけじゃないだけど。オレが狩りをすると、よく自分がヒトだってこと、忘れるしねえ。

森の奥、分け入って。
だいぶん離れたところで、サイアから飛び降りた。
腰の後ろに鞘ごと挟んでおいた銀のナイフ。
刃を剥き出して、口に咥えた。
サイアの足跡が遠のいてしまえば。
辺りはシンと静まって。
違う音程で、生き物たちが音を奏でていた。

風にゆれる木々と、動物が動いて立てる葉が揺れる音には随分と差があって。
耳を欹てて、エモノがいる方向をさぐる。
昼前のこの時間。
活動しているだろう…兎とか。
大鼠の類は、ゾロはきっと食べないだろうなぁ…。

息を潜めて、思考を止めて。
空気を嗅ぐ。
音を聴く。
ピン、とクリアになった意識。
音を選別して、…いた。
がさがさ、と低木が揺れる音。
そうっと足を踏み出して、眼で見える位置まで移動。

茶色い毛皮。
長い耳。
健康そうな個体だ。
どうやら…一匹だけ、だね。

口に咥えていたナイフを手に取った。
兎、逃がしたら追いかけるのは至難の業だ。
気配を抑えて、そうっと近づく。
捕まえやすい位置に来た時に、腕を伸ばして捕まえる。
ナイフ、滑らせて息を止めて。

…一人で狩りをすると。成功した時に喜び合えないのがツマンナイなあ。
狼たちが食べる時は、序列にしたがってエモノを口にする。
だから、だいたいオレが食べる時とかは、食べやすくなってる頃なんだけど。
ううん……やっぱりシチューだよねえ。
焼いてもウマイよねえ。
あ、でも。野生のエモノはちょっと臭みがあるかな?
…じゃあ香草入りシチューにしようっと。

帰り道は、エモノをぶら下げて歩いて帰る。
丸々太った兎。
美味しそうだよねえ!
これだったら、ゾロ、元気になるかな?

とてとて歩いて、滝の水音が聴こえるくらいの場所。
ゾロのところに戻る前に、エモノの下処理をしておく。
肉を、香草を敷いた皮に包んで。
食べきれない部分は、感謝をして森に残す。
ティピを張ったところから離れた場所。
ここならコヨーテが来ても、問題無いしね。

ゾロなんて言うかな?
おいしそうなエモノ。
ホールで見せてあげたかったけど。
一度それをマミィにやったら卒倒されたし。
まあ、次に狩りに行く前に、ゾロに訊いておこう。
それとも、一緒に狩りにくるかな?
腕、治ったら。それもいいかもねえ!

帰り道の途中で、香草を何種類かついでに摘んでおいた。
帰ってきて、ティピの前。
…あれ?ゾロ、いないや。
…昼寝かな?
じゃあ先にナベに突っ込んでおこう。

ナベに水を張って、香草を入れた。
塩、肉に擂り込んで、香草で巻いて。
ナベの中にボトボトと突っ込んだ。
使い終わった皮に、灰を擂り込んでおく。
いくつかの工程を経たら、ファーとして使えるしね。

手を洗ってから、ティピの中を覗いた。
…にゃ?ゾロ、いないぞう?
どこかな?

目を閉じて、意識を探る。
気配、滝の側。
少し離れたところに、ゾロ、いた。
にゃっはっは!ゾロ、喜んでくれるかなあ?
ゾロがいる方向に走っていく。

木立の中、ゾロ、発見。
ゾロ、座ってる。
なんか、ムツカシイ顔してるネ?
なんだろ?
「ゾォロっ!!!ただいまあ!!!」

うぁっと。
なんか気配ピリピリしてるよう?
オナカスイタノカナ???
走って行って、スタン、っとゾロの前で止まった。
ううん、なんか厳しい顔してるんだけど。
あう、でもねでもね?
「美味しそうな兎、捕まえたよう」

く、とゾロが顔を上げた。
んみゃ?なんかキゲンワルイネ?
「アァ、」
うにゃにゃ?なんでキゲンワルイノカナ???
ぺたり、とタバコを吸っているゾロの前で座り込んだ。
そのまま近づく。
「ゾォロ?」

トン、とゾロの腕に頬を摺り寄せる。
すぅ、って薄く煙を吐き出す音。
「ゾロ、兎も嫌いだったっけ?」
んんん、狩り、上手くいったのになあ?
こてん、とゾロの膝の上。
上体を乗っけて、ゾロを見上げた。

「フウン、ヨカッタナ」
ううん、ちっとも良くなさそうな口調だねえ?
「ゾロ、どうしたの?」
なんかあったのかな?
「オマエ、重い」
「重い???」
んんん?なんだか本格的に機嫌が悪いねえ?

むぎゅう、とゾロのお腹に顔を埋めてみた。
ゾロ、いったいどうしちゃったの??
…寂しかったのかな?
ううん、でもオレみたいなコドモじゃないし。
「"ぐえ。"」
息ができねえから降りろ、って。
ゾロがむぅ、ってしてた。

ひょい、って頭を上げる。
「なんでゾロ、機嫌悪いの???」
じぃ、っとミドリの眼を覗き込む。
ありゃりゃ。ますますピリピリさん?
ううん、ゾロってば。そんな顔も、かっこいいねえ、って見惚れてる場合じゃないのかな?

両手をかけて、オレを下ろそうとしてたから。
自分から退いた。
「ベツニ?退屈しただけだよ」
…ううん、白々しい声だねえ!
身体を起こして、ぺたりと地面に座り込んだ。
「オマエ、遅すぎ。待たせンなバカネコ」
「あう。ゴメンナサイ」
す、って立ち上がりかけてたゾロの足を捕まえた。
「でもね?ゾロに早く良くなってほしくて。良さそうなゴチソウを食べさせてあげたかったんだ」
「勝手にラパンだろうと鹿だろうと捕ってろ。ええ、オマチシマストモ」
うあ。にゃんか……拗ねてるのかにゃ?
いい、ってゾロが牙を剥いてた。
うううううんん…ジョーンみたいだ、ソレ。




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