「足、離していただけませんか、サンジさん」
だって。白々しい口調。
「だってさ?オレだけ力いっぱいゾロをむぎゅっとできないのは辛いんだもん」
手は離すけどさ?
「ちょっと前まではね、ゾロが元気になっちゃうと早く帰っちゃうのが辛いと思ったんだけど」
手を離して、ドウモって言われた。
「だから、ゾロに抱かれなくてもガマンしようとかって思ってたんだけど」
ぽりぽり、と頭を掻く。
「でもオレやっぱり、ゾロに抱かれたいし」
ううん、オレってば…浅ましいってヤツ???
「ゾロでいっぱいに満たしてもらいたいし」
「で?なんでオマエそこでへたってるンだよ」
ゾロが相変わらず、む、ってしてる声で言ってた。
でも、…ぴりぴりじゃないね?
立ち上がって、ゾロにむぎゅう、と抱きついた。腰の方。
「ゾォロ、オレ、なんか、うずうずしてる」
右肩に頤を乗っける。
「アナタでいっぱいに満たされたいよう」
ううん、オレってばアマッタレ???
でもそれが本音なんだし。
「オマエ、兎クサイぞ」
「うん?気をつけたんだけどね?」
片方の腕、嗅いでみる。
……よくわかんないや。サイアのニオイっぽい気もするし。
ひょいとその腕を捕まえられた。
すぃ、ってゾロの顔、喉元に近づいていって。
「喰い破りたくなるようなこと言うんじゃねェよ、バカサンジ」
むぅ。
「…オレって、ちょっとヘン?」
かり、っと薄く喉を掬われて、こくん、と息を呑んだ。
「いや、」
フツウのヒトはこんな気分にならないのかにゃあ、と思ってたら。
ゾロがぺろって、歯で掬ってった跡を舌先で辿っていった。
「イカレネコだろ、」
「うー…」
よっくよく考えたんだけど。
オレやっぱりゾロがスキだから。
いっぱいゾロに抱かれたいし。
だから、ガマンするのは…ちょっとツライ。
「千年早い、おれを待たせるなんざ。」
「ミレニアム…って、一生追いつけないってこと???」
「待たせるな、ってことだよ、バカだなオマエ?!」
「あ、にゃるほど。待たせちゃってごめんね」
ゾロが。
あーあ、バカだ、やっぱりバカだった、って言いながら。
腕をするん、って解いて、歩き出していた。
それから、す、って振り向いて。
「待つのも待たされるのも、置いていくのはまァいいが、置いていかれるのは性にあわない、むしろ大いにおれは嫌いだ、」
そう言って、またスタスタと歩いていってた。
………にゃんか。
ゾロってば、性格変わったのかな?
それともこっちが近いのかなぁ?
ゾロの本来の姿にこっちのが近いとしたら。
それはもしかしたら喜ばしいことなのかなあ?
でも、オレは。
笑ってくれてるゾロのがスキだけど。
ううん、でもこっちのゾロも……。
「妙なこと考えてるなよ?バカネコ!おれはいま精神錯乱だ」
そうゾロの声が届いた。
すったすったゾロがどんどん歩いていく。
といや、っと走って、岩を飛び越えて、ゾロの隣に並ぶ。
こて、っと頭にゾロの大きな手が当てられた。
「オレ、ゾロがダイスキ」
「ふぅん、」
「スキだよ」
すいすい、って髪撫でられた。
それで、ってカンジだねえ、コレは。
「多分おれは、」
「うん?」
「砂漠でオマエの姿の亡霊が出てきやがったらついていくかもな」
とんだおおバカだよな、って。ゾロが笑っていた。
「…ゾロ、オレさ」
すり、とゾロの腕に頬を摺り寄せる。
あぁ、ってゾロの声に、苛立ちが薄まってるのを感じ取る。
「アナタの承知なしで死んだりしないから。亡霊に会ったら、ソレ、オレじゃないよ」
にゃは、って笑いかける。
「アナタが安心できる場所に、オレは置いていかれるからさ」
ゾロの群れの中にも、オレの居場所が無いなら。
ゾロがオレを置いていっても、安心できる場所に。
オレは置いていかれて、それでゾロが来るのを待ってるからさ。
「あぁ」
ゾロがうっすらと苦笑していた。
「あんまり帰ってこないと、早く帰ってきてよう、って念飛ばすかもしれないけど」
生霊飛ばすよりは電話した方が早いし。
「My soul will always be at your side, but you'll have to come back to love me」
オレの魂は、いつでもゾロの側にある、だけどオレを愛してくれるためには帰ってこなきゃダメなんだからね。
すう、とゾロの視線が、オレの方に戻された。
「Is that a deal or a pledge?」
綺麗に和らいだ翠が、すぅ、って細められていた。
それで、ソイツは約束か誓約か、どっちだよ?
「Make that a deal」
約束してよ。
いつでもオレのところに、帰ってきてくれるって。
「そうしたら、どんな時でも。笑っていってらっしゃいって、見送る努力するから」
泣いていても、凹んでいても。どんなに、別れるのが辛くても。
帰ってきてくれるのを信じて、見送るから。
「Is that too much to ask for?」
とん、って顔を引き寄せられた。ゾロの肩のあたり。
引き寄せられるままに、頬を肩に寄せる。
そのディールじゃ割りに合わない?って訊いたら。
「出来る限るのことはしよう、」
静かにゾロが言っていた。
「ウン」
やっぱり。欲しいものがあるなら、努力はしないとね。
タダで獲られるなんて、虫のいい話は聴いたためしがないし。
「ただし、」
「うにゃ?」
「ドア口でシケタツラ曝したら、知らねェぞ」
に、ってゾロが笑った。
…がんばるもん!!
「オマエ、泣いたらブッ細工だからなぁ、」
「うにゃ!!」
ぶっ細工って…うー…気をつけよう。
『スキなヒトの前ではいつでも最高の自分であることを頑張るように』って。
セトの教えにもあったしね。
「あ、でもな?」
すい、と真面目な表情で、ゾロが耳元に唇を寄せてきた。
ハイ、ナンデショウ???
「おれが泣かせる分にはヨシとしよう」
中々ソソルから、って。キスの後にゾロが続けていた。
…オレ、…ゾロ以外の前で、ほとんど泣いたことがないのに。
というか…ゾロに出会ってからなんだぞう、こんなに泣くようになったの。
もっと小さい頃はともかく…。
「ゾォロ」
うん、でも。今はキスしてくれたのが嬉しかった。
「I love you」
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