肌に触れる空気が、霧の珠になるかと思うほど中を充たすソレは濡れている。体温と同じほど温められたかと思う。
サンジの首元、肌に薄く触れながら空気を取り込んだ。肺が充たされる、肌から立ち昇るどこかあまい香りごと。
酷く早い脈拍を直に唇の側に感じ、小さくわらった。
吐息を感じたのか、サンジが首を僅かに竦め。その仕種に、薄く歯で肌を掬った。
「んッ、」
迎え入れられたまま何度かその最奥まで熱を注ぎ込んだ。そしていまも埋めたままでいる自身を緩やかに引き出していく。
その間にも、触れる肌に薄く痕を残し。
ぺたり、と舌先で肌を押し上げる。色を乗せ、真新しい傷痕が目に付く胸元。
「ふ、ぅ、ゥッ」
震える指先、腕が。背におれの腕に縋る。
同じ声が、綴った言葉。
「アナタの、チョウダイ」
悦楽の縁に閉ざされていた瞼が茫とあけられ、潤みきった眼がまっすぐにそれでも見つめてきていた。
どうにか刻んだような笑みをうっすらと浮かべて。
真新しい、傷の下に生まれた皮膚を舌先で追いながら。その瞬間に自分の内に熱く沸いた飢えを思い出す。
腕を掴む指先に、力が込められるのを感じ。強くその痕を押しあげる。
オマエが掻き毟って作った傷、おれがつけさせてしまったも同然の。
その一つ一つに口付け、痕をたどり。まるで贖罪だ、と思い当たる。
サンジ、と声に出さずに呼びかける。
組み敷いた身体がひく、と揺れ。
心臓の上に口付けを落とし。上げた目線のさき、サンジがうっすらと目を開けていた。
早まったままの鼓動を感じながら、眼差しをあわせた。
そして、音に乗せられることなく、それでも名を呼ばれたのだろうと理解する。
そのまま滑らかに続く下腹までの線の半ばまで口付けていく。
その間にも、どこか困惑したような表情をサンジは浮かべていた。
どこか、恥らうような表情だった。あぁ、オマエ…自傷したことを気にしてでもいるのか。
背に縋っていた右腕を下ろさせる。
そして手首をやんわりと握り、上向けさせた。
空いた手で、サンジが濡れて重い色に変わった前髪を下ろしているのを眼に捕えた。
「サンジ、」
声に出して呼ぶ。
きゅう、と前髪を掴んだままの手が拳を握った。
隠さないでくれよ、と。告げる声は自分の物とは思えないほどあまい。
する、と手が抜かれ。それでも溶けた金は蒼を覆い。
身体を折り僅かに近づけ。
口許にもっていかれていた手指、噛み締められたほっそりしたソレに口付ける。
「なにしてるんだ、オマエ」
唇で触れたまま囁く。
「…かく、れてる…」
言葉を綴る、掠れた声がいまにも消えるかと。
ふと思いながら添えられたままの手指を食む。
「なにから…?」
関節の小さな骨。
「…ゾロ、…呆れてない?」
額をあわせて覗き込む。
その間に、金がさあ、と流れていった。
蒼が揺れている。
く、と額を押し当て。
身体を浮かせ。掴んだままだった右手首を口許まで引き上げ、開かせた掌に唇で触れる。
弾けた鉛で切り裂かれた、微かに引き攣れた痕。
ふ、と息がサンジから零れていた。
湧き出た渇きに任せて、身体を割り開かせ繋いだ先も。掌に口付け、そして舌を絡み合わせたままだった。
いつだったか交わした会話。「充たされる」感覚のハナシ。意識の底をちらりとかすめ、その時はすぐに霧散した。
はっきりと求められる、その漏らされた声を耳にし。揺れ、溶けるほど潤んだ蒼を眼にし。
サンジの喉奥から漏れる声も、吐息すら奪い。
僅かに足を開かせ、その奥までもと身体を繋ぎ。
一瞬、零れる感覚にサンジがうめいたのだろうと知っても尚。
撓る背中を抱き、一層引き寄せた。
背中で、滑りかける手が。く、と拳を握るのを感じ。薄く笑い、サンジの耳朶を強く吸い上げた。
「んゥっ、」
一旦引いた身体をまた押し込み。
びくり、と震える足を撫でる。
しばらく、抱いていなかった。だから、おれが加減など初めから出来る筈も無いのだから、「エサ」を使ってやるべきなのだろうが。
生憎と、おれは。
まず、「サンジ」を感じて、喰っちまわないとずっと飢えたままだろうとわかる。
懸命に、受け入れられていると感じる。
熱い内が締め付けてくるのに、意識せずとも口端が引きあがるのがわかった。
潤んで綻んでもなお、最初はどこか僅かに固さを残すソレ。あぁ、熔かしきっちまおう、そう思う。
口付けたままで、サンジの半身を引き起こし。背を抱く。汗を含み僅かに重くなった金を手で掻き撫で。突き上げ。
敷いた革の上で細い身体が跳ねた。
「あンっ、」
腕が、肩に首に回され。
しがみ付かれる。
わずかに唇の浮いた隙に、言葉にする。
ずっと口付けていてやるからオマエが動いてみろ、と。
さあ、と目元に一層朱が履かれる様をみつめた。
きゅう、と唇をあわされ。
拙い仕種で、ゆっくりと腰が合わされる。
熱った足が、く、と回され。
ぞくり、と背骨を伝うモノがある。
「ん、ぅ、」
ぎこちない動きにつれて、サンジの喉から声が漏れる。
サンジの頬を掌で包み込む。
もどかしそうに、きゅうと寄せられた眉根。眉に唇で触れる。
内を抉る。
「く、うぅッ」
声を洩らす唇を舐め。
舌先を滑り込ませる。
「うゥっ、」
四肢の全てで抱きつかれ。
熱く濡れた中を舌と、埋めた自身で味わう。
同じだけの強さで、サンジの内も熱を狭め。
低く声を洩らす。濡れたサンジの熱の中に。
「ん、んンっ」
ぐ、ぐ、と。懸命に身体をコントロールしようとしている。
ひらひらと濡れた中を動きまわらせていた舌に、き、と歯が立てられる。
あぁ、もどかしいか。オマエは…?おれはジュウブン、愉しんでるけどな?
わざとサンジの刻みかけるリズムを乱すように、引き抜き、中を味わいながらきつく押し上げる。
「ふ、うンっ」
背中に回した腕で身体を一層浮かせ。
位置を入れ替えてやる。
「くぅッ」
重みを身体で感じる。
背中に毛足の短いラグの感触があたる。
薄闇に浮いた細い身体が、埋めたままの熱を呑み込み直して行く。
―――眩暈がする。
視覚に、感覚に。
緩く中を掻き回すように押し上げ。
ぎゅう、としがみついてきた身体が震えるように跳ねるのを腕に押し止める。
「ま、って…ッ」
じわ、と綻び、また窄まろうとする内を味わい。
サンジの背骨を撫で下ろす。ゆっくりと。
「ふ、うッ」
肌の熱さを掌が覚えこみ。びく、と引き起こされる震えを合わされた箇所が伝える。
やんわりと背を撫で。く、と浮いた肩甲骨の窪みを撫で上げ。
「まだオワリじゃねェだろ、」
す、と指を背骨の終わりまで撫で下ろし。
拓かれた場所にやんわりと触れる。
びくり、とサンジの肩が揺れていた。
繋がったままの境界を押し撫で。喰い足りないってオマエもいっているだろう、と。告げた。
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