Wednesday, August 14
厚手のコットンのリネンを引っ張り出した。
サンジは、といえば。うつ伏せ気味に横になったままだった。
少しばかり足を折って、腕は自然と伸ばしたまま。
髪が、僅かに頬に張り付いていた。
身奇麗になってから眠りたい気もしたが、この空間の外は大気が冷えてきているのだとわかる。
音を立てないようにリネンを広げ、側に戻りサンジごと包まりなおし。
足元より下に押しやっていたラグを引き上げ。
少しだけ、サンジの指先が動いたのだと、間近の距離で知る。
けれど、そのほかはぴくりともしない身体を引き寄せた。
頬に残った髪を手で押しやり。アタマを抱き込んだ。
静かな寝息だ、聞こえる。
ほんの僅か、閉ざされた瞼の下、薄い皮膚が沈んだ色を乗せていた。
唇で触れてから、髪を指先で梳く。
鼓動を間近で伝えあい、いまは。半分まどろみかける意識が残される。
―――エサ。
正確には、連中の言う所の「シーヴァ」。
取り出すときに、同じようなガラス瓶が中であたって音を立てていた。
―――まぁ、相当「喰わせて」もらったから、文句もいえないが。
サンジは、意識が飛んだというより、いまの状況はいうなれば電池切れ、に近いのか?
感覚がオーヴァフローするに連れて、一段づつ快楽が深まっていったかとも思う。
いまも耳の底に残る、震える声さえ。溜められた雫がこぼれて溢れおちるように、快意だけを伝えてきていた。
語尾、どころか。
サンジの内から伝えてくるものはすべて。
「―――喰いきったよな、」
潜めた声を、耳もとに落とし込み。
抱きしめた。
ほんの僅か。ごく微かに空気が動いたかと思えるほどの揺らぎがサンジのアタマを抱き込んでいた腕と、額を
預けさせている胸元から肩口にかけて。
空気を介して伝えられる。
眼が覚める頃には、滝の水も陽射しを吸い込んでいる頃だろう。
汗とその他のものにも濡れた身体は、水で清めるのが一番だろう、抱き合って眠れる程度にはなってはいても。
そんなことを思った。
うっすらと、外の暗がりが紫がかってきた。
それがこの中にいても幕からのヒカリの具合が違うので感じ取れる。
抱きしめた背を撫で下ろす。
すべてを預けられている、やわらかな重みを感じ。
離れている箇所が無いかと思えるほどに抱き寄せる、一層。
ふわり、と。
いつだったか、サンジからする、と「ガキ」が喜んでいた香りが嗅覚をやんわりと起こしていった。
抱き込んでいたアタマを見下ろす。
僅かに引き上げて、首元にハナサキを埋める。ああ、やっぱりな。
なんとなく、わらいたくなった。
そのまま、目を閉じた。
―――バカサンジ、またヒトのこと抱きこんでるンじゃねェぞ。
オヤスミ、ごちそうさまでした、だな。
目が覚めたなら、速攻で。
滝まで行って泳ぐとするか?
その後は、また。
長閑とでも寝そべってでもいればいいか、ほかにすることも無ェし。
すう、と繰り返される穏かな寝息に。
意識をゆっくりとあわせていった。
……ん?
と思ったら、ぽかん、と放り出されるみたいにして目が覚めた。
…目が覚めたってことは、寝てたってことだよねえ?
何時の間に寝たんだろ…?
少し頭を動かして。
ゾロの胸のトコに額をくっつけて寝ていたことに気付いた。
とくん、とくん、って心臓の音、聞こえた。
「…んにゃ」
ぱかん、と目が覚めたにしては、随分と長い欠伸が口から出て行った。
意識がクリアになってるかと思ったのに、それはどこかフィルタが掛かってるみたいに柔らかだった。
目を開ける。
…あ、そふとふぉーかす入ってる…。
頭の位置をずらす。
「…ぞぉろ?」
…ん、声までなんか…まだ蕩けてるみたいだ。
ふにゃん、と笑いが零れた。
ふふふ、おかしいの。なんだか…溶けたまんまだ、オレ。
くにゃんくにゃんなカンジのする腕を動かして、ゾロの胸に掌を置いた。
「…あったかぃねぇ…」
さらん、としてる肌が、気持ちよかった。
ぐう、と抱きしめられて、声をかけられる。
「起きたか、」
うん、ゾロの声も柔らかだ。
「ん…あのね?」
ぺっとり、とまた身体をくっつけて、考えを声にする。
「なんか…ゼリーみたいなの」
くすくす、と笑いながら言ってみる。
「やぁらかいの…」
「フウン?」
そうゾロの声がして、またむぎゅ、って抱き込まれた。
髪のトコ、吐息、感じる。
「あのね、ゾォロ」
にゃはは、どうしちゃったんだろうね、オレってば。
「すーんごい、しあわせなの」
ふにゃんふにゃんに、きっと今、オレ笑ってるね。
にゃんだろうね、おかしいの、オレってば。
はふん、と笑ったまま息を吐いた。
シアワセイッパイって、オナカイッパイに似てるよねえ。
…あ。でもムネイッパイの方が近いかな?
オナカはチョット空いてるかもしんない…。
はむ、と目の前のゾロの肌に軽く噛み付いてみた。
「みゃひゃひゃひゃひゃ」
うれしくって笑えが堪えきれない。
「―――なんだよ、」
すう、って指先、背骨に沿って辿り下りていった感覚に、はふん、ってもう一度息を吐く。
「…しゃーわせ」
噛んだ痕をぺろりと舐めてみた。
ちょっぴり塩辛いね。
ふにゃあ、ってまた笑いが勝手に零れた。
「ネコ。本当に起きたのか、オマエ?」
「うなん?」
甘いゾロの声、やさしいの。
「…たぶん、おきてる…」
みゃひゃひゃ、ってまた勝手に笑いが零れ落ちていった。
柔らかく、唇がプレスされる。目許と頬に、すい、すい、と。
それから、ゾロの手が滑って。脇腹から腰骨あたりを辿っていった。
「…んあンっ」
ひくん、って身体が蕩けたまま揺れた。
笑ったまま、込み上げた声を音にしたら。
ゾロがくっ、って笑ってた。
「…ゾォロ」
「美味しそうな声出してるんじゃねェぞ」
ゾロの声、ふわふわだあ。
「…勝手にね、出ていくの」
またふにゃふにゃ、と蕩けた身体、元の位置に戻る。
く、って腰から下、合わせられた。
「ぁぁン、」
ふにゃふにゃと蕩けたまま、笑う。
「すぐに滝まで連れて行くかと思っていたんだけどな、」
「…滝?…いかないの?」
滝…あ、水音、聞こえた。
こんな大きな音なのに、ずっと遠いや。
「どうするかな、」
す、と足、撫で上げられて、引き上げられた。
「…ふぁ、…にゃんか、ぺりぺりしてる…」
くすくすと笑いながら、蕩けた四肢は、されるがままだ。
肌の表面、僅かに強張ってたところ、柔らかくなっていく。
ゾロが喉の奥で笑ってるのが聞こえた。
「きもちいいね、」
こんなにふわふわになってるの。
「―――ん?」
「しあわせで、きもちいいね」
んん、目を開けても、ほの明るいティピの中、やわらかなオレンジのフィルタが掛かってた。
く、と膝裏から腿辺りまで、少し強めに指先で撫でられて。
「んあ、」
喉を伸ばして、笑って喘いだ。
空気、甘いね。
上がった頤の辺りを、す、っとゾロの唇が撫でていった。
喉元まで滑っていって、心地良い震えがどこか身体の奥深くから沸きあがってくるのを感じた。
「…っは…、」
どこか熾き火が残ってみたいなのが、煽られ始める。
肩口に今度はゾロの唇を感じて、ゆっくり味わうみたいに口付けられる。
く、ってもう少しだけ、足を押し上げられた。
ひくん、って腰が揺れたのを知覚した…蕩けた脳味噌のどこかで。
く、って僅かに中心部に血液が集まり始めるのを感じて、また少し笑った。
「溶けたままだな、」
そうゾロの低い声が聞こえた。笑いが微かに混ざってる。
「…ゼリーになっちゃったかも」
はふ、と息を吐き出しながら言った。
触れるか触れないかの距離で、腰骨から臍の下辺りまで、ゾロの大きな掌が滑っていった。
「…ふあ、」
ひくひく、と腰が小刻みに揺れた。
下唇、濡れた感触。…舐められたのか。
くすくす、と笑う向こうで、ゾロが「フウン?」ってうれしそうな声を出してた。
「なぁ、サンジ…?」
「んにゃ…?」
「滝のあたり、」
どこか、イタズラなゾロの声。わくわくしてるのが、聴いてとれる。
「んんん、」
く、と耳たぶを食まれた。
ぞくり。
真ん中の、柔らかいまま反応を示し始めてるモノ、すいすいって撫でられて、小さく小刻みに喘ぐ。
舌先、つるりと耳朶を押し撫でられる。
はむ、と食まれて、ひくん、と身を竦めたところに、押し殺された声が響いてきて。
「オマエ、座れそうな岩あったか?」
そう訊いてきた。
「…あったよ…?」
「フゥン?」
ゾロの声、笑い声、含んでるの。
くう、って身体が一瞬総毛だった。
きゅ、と中心をやんわりと握り込まれて、んあ、と背中が僅かに反った。
つる、と耳のトコ、濡れた感触。
「にゃあっ、」
首を竦めて、濡れた音から逃げる。
笑いを含んだ吐息、耳に触れていって。
耳、すごい近いところで、くちゅ、って音がしてた。
逃げても追っかけてくる熱い舌先。
きゅう、って目を閉じて、首を更に竦めるけど。
もっと潜り込んできたのを感じて、僅かに身を捩った。
く、く、と下も弄くられて、震える吐息を吐き出す。
蕩けてた身体、さああ、って熱くなる。
「ん、ん…っ、ぞ、ろぉ…、」
「水浴びもさせてやるから、外で喰われてみろオマエ」
「…そ、と…?」
「あぁ、滝のところ」
ボウ、とくぐもった視界、…涙目になってる。
「明るい中で喰われてみろ、」
脳味噌、言葉を理解できない。けど…ゾロの声、嬉しそうだ。だから。
「…ウン、くわれる」
こくり、と頷いた。
腕、伸ばしてゾロの首に抱きついた。
すい、と覗き込むようにゾロの緑の眼が近づいて。
それがもっと近づいて、すう、って瞼を閉じたのを見た。
熱い舌が、口の中、潜り込んできて。
少し上がり始めた息、おかまいなく掻き回していく。
はふ、と息を吐きながら、深くなる口付けに夢中になった。
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