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 おれは「キモチイイ」か、と。濡れた唇がとろり、と笑みを模りきれぎれの吐息の中に声を混ぜてきた。
 すぐ近くで鳴る滝音も、その瞬間遠くなった。
 瞳は熱を溶かし込まれて潤み、真水が肌の上を伝い落ちた跡が陽射しの名残りを留め。
 まだ、昨夜のエサの所為で浮いた意識が漂うのだろう、捉えどころが無いほどに柔らかく微笑んでいた。
 陽射しと同じ色味の髪が光り、そのまま同じ色調が足先まで続く。
 肌に散る痕も、陽に晒してふわふわとわらっている。
 
 手を休ませていた、足に。僅かに体重を預けてから身体を引き上げる。
 見つめてくる瞳を同じ高さから覗きこみ。
 く、と回された腕を感じる。
 蒼が。ウレシイと揺れ。
 それを見つめながら、唇に触れた。
 「あぁ、どうにかなりそうだな」
 耳もとに声を落とし込む。
 
 目線を間近で戻せば、熱を持ったままのサンジの唇が口許に寄せられ。
 僅かに噛むように食んできた。
 思わず笑いがこみ上げてきた。
 けれど、齎された言葉に笑いを引き戻す。
 「ドウニカナッテ」
 
 陽射しに温まった髪に手を差し入れる。
 拙い口調と、あまい声。
 オマエを相手にすると、想いが尽きないのは何故だろうな……?
 額を押し合わせるようにし、抱きしめた。
 カラダの奥底からオマエに渇いて、限度が無い。
 心臓の裏側から想いが零れて、言葉にさえならない。
 
 「んん、ゾォロ、」
 ほわり、と零れおちる言葉は、おれの名前だ。
 オマエの呼ぶソイツを。
 「おれ」はいままで知らなかったぞ……?
 
 イトオシイ、という感情が。
 痛みを伴わずに溢れる。
 オマエの望むままに、溺れてみるのもいいかもしれないな?サンジ。
 
 
 陽射しが、肩の辺りに落ちてくるのを感じていた。
 水面がその翠を深いソレから透けるような色味に変えていっているのを視界の隅で捕らえる。
 想いが喉まで競りあがってくるのに任せて、サンジの頭を引き寄せ。額に口付けた。
 すきだよ、と音に乗せる。とろり、と潤んで和らいだ目を間近で見つめ。
 音が意味を持つ。
 ただの、音節が。
 
 つるりとした指先が、熱をそのまま伝えてくる。
 下唇の線にそって、火照った指先がなぞっていった。
 少しわらう。
 また、音に乗せた。
 「すきだよ」
 
 想いと、言葉と。抱きしめる腕と、分かち合う衝動と。そしてまた深くから溢れるほどに生まれてくる感情と。
 そういったモノで埋もれてみても、いまならばいいのかもしれない。
 いっそう和らぎ、ふわりとした何かに包まれたようにサンジが笑みを浮かべていた。
 想いを言葉にする、一番簡単なモノに。
 「おまえが、すきだよ。サンジ」
 笑みをうかべる唇に言葉を落とし込む。
 
 いつも、わずかに冷たいそれ。
 柔らかく、緩やかに。ほんのりと冷たいソレに唇を食まれ、サンジの背中の線を掌で辿った。
 舌先を潜り込ませ、擽り。
 水で濡れた身体を一層引き寄せた。
 
 何度、深く重ねればおれはオマエとの口付けに厭きるんだろうな?
 イトオシさに任せてそんなことをちらりと思う。
 あまく食みながら、思う。どこかのバカがたとえおれのことを巧く消しちまえたとしても。
 おまえに厭きる―――ソレだけはアリエナイダロウ。
 
 吐息に混ぜて囁いた。
 「おまえがスキだよ」
 愛、という言葉は。溢れるほどに浴びせれば真実味が薄らいでいき。
 すきだ、という真実は。重ねるほどにそれに近づくんだな。―――面白い。
 「サンジ、おまえが。すきだよ」
 
 
 
 
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