滝音が聞こえる。
今になって気付いた。ずっと、その音に包まれていながら意識のどこにも上ってきていなかったことに。

からかい混じりに告げれば、ジョウダンで済まなくなるほどの声で告げられた躊躇いがちな返答にあっさりと煽られた。
交わした眼差しは、お互い。目も当てられないほどのイカレ具合か?
半ば笑って。サンジを乾いたリネンに包みなおしてから、水辺から僅かに離れた平らな場所まで連れて行った。
確か、以前。おれが寝そべって本を読んでいた辺りだ。
柔らかなミドリ、名前など見当もつかない下草が生えている辺り。

カラダを重ねる前に、膝と掌、なにも傷がついていない事を確かめた。
軽く口付ける。
ぺろ、と。濡れた熱が舐めて応えてきた。
また、わらう。
あぁ、オマエ。またネコに戻ったのか。

「溶ける、って……?」
蒼を見つめてわらった。
間近でぼう、と霞み。瞬いていた。
「ゾロも、とけよ、」
洩らされる吐息が耳もとを擽り、頬に口付けた。
「―――おい。おれは、びょーにんだぜ?」
斟酌しろよ、と笑いながら肩口まで撫で下ろし。
「じゃあ…もっと、タベテ」
はやくゲンキになって、と。柔らかに節の溶けた息が辛うじて音に乗せる。

つ、と肌を味わった。
「ふあ、」
熱のあがった吐息が零れる。
「あぁ、遠慮なく」
イタダキマス、とわらった。
「ウン、」
声にカオを上げれば、同じように笑みを返された。

「わらってられるのもいまのうち、」
わざと舌を伸ばして肌に残った水滴を掬い取った。
「…すぐ、とける…」
あまい声が続いていた。
アナタのために、と。

木の葉陰が、やけた肌に淡い影を落とし。
影の揺れる様を見つめた。
零れおちるウタと。
差し伸ばされる腕のしなやかさと。
時おり表われる溶けきった蒼と。
指の間にかき集め、零れ落ちる前に溢れ。
五感で充たされる。

「見る、」とおれはからかい混じりにオマエに告げたけれども。
望む以上に与えられ、齎し。
抱きしめる腕が、僅かに震えたのは、多分。
傷の所為ではなかった。

揺れる金の髪が、光に溶け込む様を見つめた。
指に絡め取る。
―――消えるかと思った。
けれど、背中に腕が回され。
ひどく深いところ、どこかで。
安堵したのだろう、おれが。

視界が、僅かに揺れた。
薄い水の膜を通して視界が撓み。
ちいさな声に呼ばれているのだ、と気付く。
「ぞぉろ、」
すう、と額が押し当てられる感覚が続き。さらり、と金が流れる。
「スキだよ、」
囁きが届けられる。
あまい、そしてどこか委ねきっているようなそれ。
抱きしめた。

―――アァ、おれは。
オマエを。愛している。




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