それからしばらくして、ポーチから部屋に戻って。
サンジがシャワーに行く前に、どこにぼくが最初に着てた服があるのか聞いた。
ベッドルームのクローゼットの中だよ、って。教えてくれて。
サンジがシャワー浴びてる間に。ジャケットの内ポケットに手紙を入れておいた。
そしたらね、ポケットの内側。縫い取りがあった。イニシャルだけど。
―――R.Z。
フン、タグの名前と違うね。ああやっぱりな、って。思った。

でも、じゃあぼくは。
最初に会ったとき、サンジに言ったみたいに。
ジョーンでいいんだ。サンジの中ではさ?
ちょっとうれしかった。

サンジが出てくる前に居間にもどって。壁にピンできょう描いたスケッチを留めておいた。
部屋を見回して。
やっぱり、だけど。すこしだけ泣きそうになった。
こういうとき、タバコ吸えればいいのになあ、って思って。
……そうしたら、なんだかもっとヘンな笑い顔になった。

出てきたサンジと入れ違いに、お風呂場に行って。
通りすぎるときに、やっぱりちょっと抱きしめたくなって。ぎゅ、ってした。あったかかった。
やわらかに、抱き返してくれて。サンジはにっこりしたままで。

うん、エース。世の中ままならねいね、って。アタマの中で話し掛けた。
だよなァ、チビ!って。笑い声がした。

シャワーを浴びて。着替えて。リビングに戻った。サンジがソファにいた。
何か読んでた。本?
ネエ、本なんか読むのやめてさ?もう寝ようよ、って言いたかったけど。
あー、そうだ。サンジ、すぐ寝ちゃうんだ。それは、つまんないなあ。
とん、って横に座って。じゃあ、しばらくこっちにいようかな、って思った。
だって、もっと。見ていたいし。一緒にいたいし。
サンジと。

でも。
ん?ってぼくの方みて。ぱたん、って本を閉じちゃった。
「読んでていいのに、」
「んん、いいよぉ」
「そう?」
「ウン。折角、アナタといるんだし」
少しだけ、サンジに寄りかかった。
髪を撫でてくれる手が。なんだかとても気持ちよかった。
溜め息がでるくらい。

「楽しかったねぇ、今日も」
サンジの、声。聞こえた。

「うん、すごくね?」
「アナタ、少し日に焼けたよ」
サンジの肩にカオ、埋めるみたいにした。
くすくす、って小さい揺れが伝わった。わらってる。

「そうかな?」
「うん。肌、お風呂でヒリヒリしなかった?」
顔を少し傾けるみたいにして、サンジがアタマにキスを落としてくれた。

「ちょっと、ぼおっとする」
腕、まわした。
「ローション、いる?」
「んー?へいき」
「そっか」
「うん、」

ああ、心臓の音。きこえそうだなあ。

「疲れた?」
「たのしかったよ、ぜんぜんつかれてなんかいない」
「そう」
「うん。ほんとうに、どうもありがとう」
ぎゅ、って抱きしめた。

「…どういたしまして」
「ほんとうだからね?」
「うん。信じるよ」
あなたのことをだいすきなことも。ほんとうだから、サンジ。
もう一個、キスが落ちてきた。

「ねえ、サンジ」
「んん?」
「あなたのキスがへたっぴなままでも。ぼく、人生たのしいと思うな」
「…やっぱり?」
「うん。でも、ぼくといればだけどね?」
「うあ。じゃあ、一緒にいて?」
クスクスわらってる。

ねえ、サンジ。ぼく、なんて答えればいいんだろうね?あなたに。
きのうみたいに。すぐに、うん、って言えないよ。
「……努力する。」

「うん。それは、必要だね。お互い」
喉で、抑えた笑い方。
唇で、触れてみた。やっぱり、伝わる。
「だいすき、」
「…ありがとう」
にこおって、してくれた。

「たのしかったなあ」
「オレも、楽しかった」
「泳いだね、水がきれいだったね」
「オレのホームカウンティの方から、繋がってるんだよ」
そっか。コロラドの方から、ずっと。

「じゃあ、ちょっとだけサンジのホームタウンにぼく繋がったね?」
「そうだねぇ」
「遊びにいけたらいいなあ、」
たとえ「ぼく」じゃなくても。

「おいでよ」.
「オオカミいるの?」
「うん。アナタに会ってもらいたと思ってた群れがいるよ」
「そっか。うれしいな、じゃあ、"こんどね"?」
「うん。今度ね」

ありがとう、って思って。
「ね、もう寝ようか」って言った。
「うん。そうだねぇ」
あなたからたくさん、貰った。言葉に出来ないもの。

「でもさー?ちょっとはベッドでも起きててね?」
だって、おはようってあなたに。もしかしたら言えないんだ、ぼくは。
「…頑張ってみる」
サンジが言って。ぼくがぱちん、って居間の電気を消した。

「努力は必要だネ」
笑って。暗いなかキスした。
「そうなんだよ」
あいしてます、の代わりに。
「同感。」



サンジの後から。ぼくもベッドにもぐりこんだ。
それからもういちどキスした。腕の中に、ぴったりくっついて。
なんだか奇跡みたいだなあ、って思った。笑い顔になった。
そうしたら、サンジが。
子守唄をうたい始めてくれた。「ホーム・スイート・ホーム」。
やわらかく、ハミングしてる。

あなたのいる場所が、ぼくの戻る場所だったら。どんなにいいだろう。
もう少しでいいからさ?起きていてね、サンジ。
我侭でもね、きょうは、
ぼくの方が先に眠りたいんだ。

もっとブランケットにもぐりこんで。サンジの心臓のあたり、額をくっつけた。
額にキスしてくれて。オヤスミ、って声が届いた。
サンジ、ってうんと小さい声で呼んだ。

「おやすみなさい、」
「おやすみ、ジョーン」

「だれよりも、なによりも。あなたをすきだから」
言って額を押し当てるみたいにした。鼓動、聞こえた。

ぼくのまわりが、その音と、サンジの声だけになった。
朝がこなくっても。
こんなにあったかくて、いい気分。
悪くないよネェ、ベイビイ?

「グンナイ。」
マイ・ダーリン?
「グンナイ、ディア・ジョーン」
もういちど、抱きしめた。

「バイバイ、ベイビイ。」
くすん、って笑う声がした。
うん、……またね?
サンジ。





next
back