Thursday, August 15
水音が、染み込んで来る。眠りの中であってでも。
そして、静かに繰り返すリズム。ひっついた熱から響いてくる鼓動。
そして僅かな―――
むく、と起きあがってみれば、とっくに朝になって気温が上がり始めたティピの中。
「……」
ぽおっとする頭、けれど眠りを引き摺ったままでも気付いたことがあった。
気だるく重たい腕を伸ばして、ゾロの腕に触れる。
「ゾロ、おきてる…?」
酷いかすれ声のまま、ゾロにそうっと声をかけてみた。
ふわ、と瞼が開いて、翠が煌いていた。
「…おはよぅ」
うにゃ、と笑いかける。
「オハヨウ、」
そう呟きが返ってきて、さら、とゾロの腕を撫でた。
「ゾロ、熱、あるよ」
さらさら、と前髪を梳き上げられた、空いた方の手で。
「―――わかってる、」
ゾロも寝起きの声。
「辛い…?」
「べつに、」
「そっか」
「あァ」
そうっと身体を倒して、ゾロの胸に頬を寄せた。
「なんか食べれそう?」
「――――微妙な線だな、」
少し食べてクスリ呑まなきゃ…昨日の夜は……。
く、っと伸びをしたゾロに、すり、と頬擦りした。
「昨日の夜も、あんまり食べなかったから…少し胃に入れた方が、いいよ」
ナベに残っていたトリのスープを、クラッカを漬して食べたくらいだもんねえ。
ん、とも、あぁ、とも付かない、気のない返事が返ってきた。
それから、ごそごそ、と身体を伸ばして、クスリを取っていた。
「サンジ、水くれ」
「今呑むの?…胃、痛くならない…?」
身体を擡げて、ゾロを覗き込んでみた。
「あー、平気だろ。それより熱が上がる方が厄介だ、」
そう言って、ゾロはまた目を閉じていた。
「まかせた、」
「ン。待ってて」
「頼りにしてるぜ」
笑ってるゾロの唇に、ちゅ、と軽く唇を押し当ててから、そうっと身体を起こした。
「…ふぅ、」
まだ少し、身体が気だるい。
甘く重い名残が、身体全体に残ってた。
「行ってくるね」
く、と一瞬、手を握られた。
それから、する、と手が離れて、ぱたりと落ちる音を聴いた。
薄い膜をそうっと開いて、あまり陽光を入れないように外に出る。
外は今日も快晴。
水気を帯びた清廉な空気が、身体中に染み渡ってくる。
はだしのまま、ティピから持って出たカップを取って、滝壷に近づく。
ずうっと淵を歩いて、水が落ちる直ぐ側まで回りこみ。
そこから冷たい水を掬った。
カップ一杯飲み干してから、新たに汲み直す。
冷たい水が、気だるい体内にキンと染み込み、漸くどこかぼやけっぱなしだったような頭が少し回り始めた。
零さないように持って、ヒタヒタと岩を伝って戻る。
ふ、と見上げた先に、ワイルドベリーが生っているのが見えた。
食べ過ぎるとお腹を壊すけど、少しなら食べれるかな…?
クスリを呑んで、食べれるようだったら。少し積んで、水に沈めておこう。
そしたらキンと冷えて、ゾロも食べるかなあ…?
んー…戻るよりは、いまやっておこう。
一眠りするなら…一緒にいたいし。
カップを岩の上に置いて、滝から少し離れた場所に生っていたワイルドベリーを摘んだ。
出来るだけ熟れたものを選んで、滝壷から少し離れた川縁に行く。
少し入ったところにある、大き目の岩の窪みのところ、押し流されない場所にそれを沈めた。
それから戻ってカップを取って。またティピの中まで戻る。
毛皮のラグの上、ゾロの側に座り込み。
気配に目を開けていたゾロを覗き込む。
「アリガトウ」
「お待たせ」
カップを差し出した。
ゾロがす、と起き上がっていた。
「指が冷たい、」
そう言って、カップを取っていった。
「ウン」
見守る中、ゾロはタブレットをいくつか飲み込んで。カップの水を全部飲み干していた。
「もっと飲む?」
「いや、いまはもうイイ」
空になったカップを受け取って、床に置いた。
そうっと手で、ゾロの頬を包む。
「…少し熱いね」
「まだびょーにんだったな、忘れてた」
にっこりと笑ったゾロに、こつん、と額を当てた。
「…ガマンできなかったね」
くすん、と笑いが零れた。
ふは、と笑い出したゾロの頬に、口付ける。
きゅ、と一瞬抱きしめられて、ふは、とオレも笑った。
トロトロになるまで愛されて、身体はまだ蕩けたままのようだった。
「もう少し眠る?」
「あぁ、悪い。起きる頃には少しマシだと思う」
柔らかい声に、頷く。
「一緒に寝ててもイイ?」
「聞くなよ」
「ウン」
す、と目許に口付けられて、やっぱりふわふわなまま、笑いを口の端に上らせる。
「むしろ、」
「ン?」
そうっとまた横になっていくゾロにあわせて、身体を倒す。
「離れる方の許可を取れ」
「ウン」
柔らかな声に、キュン、と胸が鳴る。
甘い痛みに似たような、痺れ。
「…いっぱい愛してくれて、アリガトウ」
ぐるぐる、と喉を鳴らしたいキモチで、ゾロの首元に顔を埋めた。
重なり合った身体、ゾロのそれはオレのより僅かに熱い。
「なんのことだかわからねェな、バカサンジ、」
甘い声に、クスクスと笑う。
離したくない、って思ってくれてることが嬉しいのに。
ふにゃあ、と笑ったまま、眼を閉じる。
「スキだよ、ゾロ…」
に、と口許、笑みを浮べているのが、瞼の裏に残像として残っていた。
する、とゾロの胸、傷から少し離れた場所を撫でる。
「はやく下がるといいね、」
ふ、と深い息を吐いているのが耳に届いた。
「あぁ、…だな、」
眠りかけのゾロの声が聴こえてきて、ん、と首に更に顔を埋めた。
すぅ、と眠りに落ちたゾロの吐息が聞こえてきて。
ああ、ゾロってば。ホントにいっぱい愛してくれたんだなあ、と幸せなキモチになった。
…それとも、クスリが強いのかなぁ?
…んー…最初の選択の方が嬉しいから、そう思っておこうっと…。
緩やかに上下するゾロの胸に腕を預けたまま、刻まれる心音に耳を澄ませ。
ふにゃり、と蕩けた笑顔のまま、またスゥと眠りに引き込まれた。
スキだよ、と細胞が囁いてるの、…眠ってるゾロは、聴こえるかなあ……?
next
back
|