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 オレの腕を引いたゾロの手が、すこし熱を持っていたような気がした。
 口付ける一瞬前、目に入ったグリーンの双眸は、どこか狩りをする狼のような光を宿していた。
 引き寄せられて、唇が合わさる。
 鼓動、口から心臓が飛び出そうなくらいに早くなってる。
 それでも、擦り合わされた濡れた舌先によってオレの口から飛び出たのは、深い溜め息のような吐息だけで。
 熱を含んでとろりと重くなったそれは、空間に溶けることなく沈殿していきそうだった。
 
 ゾロに覆い被さるようにして深い口付けに夢中になる。
 口内を辿る熱い舌、少しきつめに項を掴むゾロの大きな手。
 「んん…、」
 ぽう、と熱が上がって。滝音が意識の向こうに消えていった。
 きゅう、と舌を吸われて、頭の中に霧が掛かり始める。
 「ん、…ん、」
 絡ませた舌を伝って、唾液が零れていく。それでも、口付けは止まない。
 
 ぐい、ともっと引かれて、上体がさらに降り重なるようになる。
 髪をくしゃ、と掻き混ぜられて、くら、と意識が揺れた。
 少し苦しくて、息が上がる始める。
 それでも口付けは止まない。
 キスだけで、こんなに力が抜けていくなんて…どうしてオレは溶けた氷みたいに溶けていってしまわないんだろう?
 
 ゾロのシャツ、胸のところをぎゅ、と握り締めた。
 ゾロが喉奥で笑ったのが聴こえた。
 振動が微妙に伝わってくる。
 口付けは解かれないままに、ぎゅう、と抱きしめられた。
 ゾロの顔の横に肘をついて体重をコントロールしながら、上体をゾロの胸の上に預ける。
 胸のところ、サンドウィッチされたオレの手が。
 早いビートを刻むオレの鼓動と、オレのよりはまだゆっくりとしたゾロの鼓動のリズムを捕らえる。
 
 デニムの上、ひらひらとさせていたTシャツの裾から、ゾロの手が忍び込んでくる気配。
 ふ、と布地が浮いて。変わりにゾロの熱くてさらりとした掌の感触を、背中に感じた。
 ぞくり、と快感がそこから走り出す。
 もっと触れて欲しくて、ゾロの舌を強く吸い上げた。
 すう、と脇腹のところを撫で上げられて、ひくん、と身体が僅かに震えた。
 「んん、」
 甘ったるい声が鼻を通っていく。
 
 キラキラとした世界、まだ明るいそれが閉じた瞼の向こうにあるのに、ふと気付いた。
 口付けをそっと解いた。
 「ゾロ、」
 既に甘く掠れた自分の声。
 急いたように、どこか濡れているような音程の囁き。
 柔らかく頬に口付けられて、身体の間に挟まれていた手を、またぎゅう、っとさせた。
 「ここでするの…?」
 
 潤んだ目を見開いて、ゾロのグリーンアイズを見下ろす。
 ちら、と光が過ぎっていったのが見えた。
 瞬いても、夏の眩しさは回りにずっとあって、不意に虫の声が聴こえた。
 「おれは、」
 からかうような口調、甘い音を形作ってる。
 は、と息を少し吐き出して、眩暈を遠のかせる。
 瞬いて、どうにか声に乗せて、なに、と問うてみた。
 「オマエがいちばん美味く喰えればカマワナイ」
 「…ん」
 応えに笑いを刻んでみた。
 
 「じゃあ、ぞろ、」
 そっと背中を撫でられる感触に、笑みを深くする。
 「ここで、しよ」
 提案、囁きに乗せる。
 「待てないから、」
 「急いで喰うのは趣味じゃない、」
 にぃ、ってゾロが笑ってて。
 でも、どこか嬉しそうなのがなんとなく解って、どこかきゅう、と胸が鳴った。
 さら、とゾロの唇が首筋に触れてきた。
 
 「うずうずする、」
 「ふぅん?」
 眩暈に一瞬呑まれて、体温が少し上がった気がする。
 「血液が、沸騰しそう、」
 きゅ、と片手でヒップを掴まれた。
 そのまま、さわっと触れられる。
 「ぞ、ろ、」
 ふあ、と熱い息が口から零れていく。
 「―――ん?」
 「…熱く、ない?」
 はむ、と首筋に薄く痕を残される感触に息を呑む。
 
 く、とゾロの胸のところを握っていた手を取られた。そしてその手はゾロの頬に当てられて。
 それから首のところまで持っていって。
 「エライことになってるさ、」
 そう薄く笑った。
 「…ゾロ、」
 唇に押し当てて、息を呑む。
 一瞬ゾロの下唇を噛んで、また顔を上げる。
 さら、と髪をゾロの大きな手が掻き混ぜていった。
 「オレ、もっと熱くなるの…?」
 熱に潤み始め、視界の隅が溶け掛かってる。
 「あぁ、溶けちまえよ」
 
 
 
 
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