薄い革を捲り上げて外へ出て、辛うじてきつくなり始める前の陽射しが辺りを白く浮き立たせているのを目にする。
ポケットを探り煙草を取り出し、口にする。
ゆっくりと煙を肺に落とし込みながら、水辺へと歩いていく。
肩の傷は、日常では差し支えない程度に回復している、ようだ。今のところは。
サンジが、聖域だと言っていたこの場所は、確かに。
身体の回復を助けている気がする。
徐々に大きくなり始める水音を意識の隅に置きながら、ふい、と思いついた。
肩が本調子になれば、ここに隠棲している理由はなくなるな、と。
灰皿代わりの皮袋に、短くなった吸殻を落とし、ちらりと空に目をやる。
時間が周りだせば、それこそ。ここに流れている穏かなものと同じだとは俄には信じられない程度には過ぎていく
モノの中に戻らないといけない。そして泳ぎきる。
輪郭が見えてきた輪の中心、それの始末と。
ああ、あとは。クソ子守りがどうせ。どこかにおれを押し込めやがるだろう、リハビリ、と称して。またスイスだとか
どこかの山の中にでも。なんだってああいう施設は都会のど真ん中にないんだか。けれど、まあヤラレタのが
利き腕じゃなくて助かったけどな。確かに、ぶっ壊れたモノは一度きちんと整備しなおす必要はあるだろう、いまならば尚更。
陽射しを跳ね返す水面を眺め。
適当に着ていたものを岩場に残し、水の中に潜った。
頭を冷やすのと、気分転換の兼用。それにしても、不思議な色をしている、この水は。
皮フに食い込んでくる冷たさとも少し違う。低い温度が、酸素の変わりに周囲を充たしていくかと思う。
光が滲みながら底の岩に輪を落とすのを眺め、水面に顔を出す。
「そろそろだな、」と。
声に出した。
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