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 一際、柔らかさを増した身体を腕に抱いた。
 このまま、ぎりぎりまで追い詰めてしまおうか、とも一瞬思考を掠めたことは否めないけれども。
 サンジの浮かべた表情を目にし、苦笑を零した。
 以前は、目にすることの無かったソレ。視覚を充分すぎるほど煽る。
 先を望み戸惑い、それでも悦楽の中に全身を浸しているようなカオ。
 
 すう、と両腕に抱きこむ。
 熱を帯びた肌があわせられる。
 小刻みな鼓動が伝わってくる。
 髪に口付けを落とし。
 「ゾロ、」
 あまえるように呼びかけられ。返事を柔らかな金の間に落とす。
 身体と、それ以外の何もかもを預けられ、委ねられているのだろうと感じる。
 
 自分と、そしておそらくそれ以上に自分を取巻く世界の真ん中に立ち、それでも。
 その声は、自分の存在はすべておれの掌中にある、とでも告げているかと思い。
 また抱きしめる腕に僅かに力を込める。
 
 なぁ、おまえはやはり。
 善きものをあつめたすべてなのだから、――――――バカだぞ。転がって落ちるサイドを間違えやがって。
 そう思い、それでも。
 身体のうちを充たしているのは穏かさでしかない。
 
 髪を梳き、指に柔らかな感触を絡め。僅かずつ落とされていく鼓動の間隔を追い。
 額に唇で触れた。
 
 
 
 ふわ、と染み出していた快楽が、水面に落ちた羽のように穏やかに落ち着いていった。
 走り出していた鼓動は、ゆっくりとペースダウン。
 上がっていた熱は、ゾロの腕に吸い込まれてったみたいだ。
 全部、ほんとに全部、ゾロに預けて。
 ゾロの腕の中に、委ねて。
 
 貰った口付けは、とてもやさしくて、嬉しくなった。
 「くぅン」
 小さく鼻を鳴らす。
 甘える仔犬と同じ仕種。
 鼻先をぐい、ぐい、とゾロの首筋に埋めた。
 
 力いっぱい抱きしめられて、ふわ、と息を吐いた。
 嬉しいね。
 アナタの腕の中に居る。
 愛されているのが解る。
 幸せ。
 
 「サンジ、」
 そっとゾロがオレを呼ぶ。
 かぷ、と僅かにゾロの首元を甘噛みした。
 ゾロが笑って、オレの後頭部をコツン、ってしていった。
 くすくす、と笑いを零す。
 どちらからともなく、笑い出す。
 
 しばらくそうやって穏やかな感情を分かち合い。
 底に静かに流れる愛情を注ぎあって。
 それからゾロがオレをく、と抱きしめてからその腕を緩めた。
 
 ふわふわと笑ったまま、ゾロの緑の目を見上げる。
 そろそろ起き出すのかな?
 ずっとこのままでいたいけど、そういうわけにはいかないもんねえ。
 「こんど、」
 「ゾロ、あいしてる」
 言葉を遮って、笑って先に告げた。
 ゾロがにぃ、と笑みを浮べ。
 それから、そ知らぬ顔で、言葉を続けた。
 
 「まるっきり、一日中ベッドで過ごすっていうのはまた後日。もう少し文明の入り込む余地のあるところでな、」
 「ウン」
 笑って頷いた。
 ゾロが、ルームサーヴィスとか、って言って、に、っとした。
 「ウン、楽しみにしてる」
 ゾロに笑いかけた。
 
 ああ、そういう日があるのなら。
 街に行くのも、楽しいかもしれない。
 
 
 
 
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