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 さらさら、と砂の音が聴こえた気がした。
 目覚め、朝の空気。
 ふ、と意識に上るのは、水音。
 ここは砂漠じゃなくてその奥の――――――
 
 側に在ったはずの熱が無かった。
 心音、聴こえない。
 穏やかなばかりの朝の空気が、まわりにあった。
 「…ゾロ?」
 目を開けてみたけれど、応えは無くて。
 
 「…水浴びかな」
 いままでも、度々目覚めたときにゾロがいないことがあったけど。
 心配することはないのに、どこかが鈍くなってた。心の中。
 
 久し振りに、影を見た。
 聖域の中、入ってこれるものは数限られている。
 「…レッド」
 キョウダイの容を見た。
 「先に進まなきゃ、いけないよね」
 応えない朧の、金色の目を見た。
 
 ココロの中に出来た、厚くしびれているような感覚。
 ショック・アブゾーバ、取り乱さないように。
 解っていることだから。
 全てが。ありのまま、存在し続けられないことは。
 ―――――休暇は終了しつつある。
 
 「…ダイジョウブだよ、レッド、ダイジョウブ」
 オレは、ちゃんと解ってるから。
 「側に、ココロを置いていくから、ダイジョウブ」
 泣いて取り乱したりはしない、意味の無いことだから。
 ふい、と影が消えた。
 明かりに溶けるように。
 
 起き上がり、外に出た。
 今日も、視界に一面の青。
 水音も相変わらずで、空気が甘かった。
 厳しく優しい世界。
 ゆっくりと歩いて滝壷に向かう。
 
 途中でゾロが、ぷかりと水面に浮いているのが見えた。
 笑いが零れた。
 ゾロも、随分と違和感無く、この場所に馴染んだよね。
 たくさんの気を取り込んで、空気に浸って。
 もう行けるんだ、ゾロ。
 ここから、戻っていけるんだね。
 うん、それならオレも行こう。
 次に進むために。
 
 
 
 
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