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 口をアー?
 …ああ!!
 「大丈夫だよ。だってオレ、群れには戻らないもん」
 笑って、リトル・ベアのシルエットを見遣る。
 顔、ニガワライ。
 相変わらずの長い黒髪。
 Tシャツとデニムに、ブーツ。
 首から下がっているターコイズの止め具が、太陽の光を反射していた。
 
 「またでかくなってないか、クマチャン」
 ゾロが言って、思わずケラケラと笑った。
 「まぁさか!!だってもう成長期終わってる筈だよう?」
 「ああ、じゃあ。あれは何か文句言おうとしてるな」
 
 サイアとファラが、リトル・ベアの存在に気付いたのだろう。少しスピードを上げた。
 笑っているゾロが。
 「オマエが聞いとけ」
 そう続けていた。
 「ン。解った」
 にひゃ、と笑った。
 「あとで要約して教えてあげようか?」
 
 「いらねえよ。どうせおっかねぇのから聞かされる」
 「…ペルさん、心配したよねえ」
 刺青のあるシャープなオトナの顔を思い出す。
 にぃ、とゾロが狼のような笑みを浮べていた。
 一瞬ドキリとする。
 
 ペルさん、きっと心配しただろうけど。
 オレは謝らないし、謝れない。
 ゾロと一緒に、ヒトの輪から抜け出していた事を。
 
 「それもアレの仕事のうちだ、」
 ゾロのコトバに思わず笑う。
 「オレ、きっとマミィに怒られて、ダディに泣かれる気がする」
 それでもって、セトは。
 「兄貴には、"オマエ、相変わらずだねえ"って笑われるんだ」
 ケラケラと。
 「帰る場所があって、戻るのを待ってるヒトがいるって……切なくなるよね」
 
 「二度とない、って言っておけよ」
 少し真剣なゾロの声がそう言葉を綴った。
 「ウン。だって今度は…オレがアナタの帰る場所になるんだもん」
 だから。
 「オレは黙って、どっか消えちゃったりしないよ」
 ちゃんと、ゾロが戻ってくるのをオレは。
 「待ってるから」
 
 手を伸ばしてみる。
 ゾロに向かって。
 すう、とゾロが柔らかい笑みを目元に浮べていた。
 
 とん、と手を軽く指先で捕まえられ、く、と一瞬だけ握り込まれてすぐ放たれた。
 「オーケイ。約束だな?"アウフ"はなし」
 「I promise(約束する)」
 「ちゃんと、ヒトらしくキスでも寄越せ」
 「ウン。飛びついてキスしても怒ったらヤだよ?」
 「そのあとはまた野生化しても構わねェから」
 「……ウン。絶対」
 笑って眼を前に戻した。
 
 リトル・ベアが、少し笑った顔でオレたちを見ていた。
 ゾロがサイアに鐙を入れて。ダッシュしていた。
 「お先に、」
 コトバが残される。
 「うっわ、いきなり!?」
 濛々と立ち込める砂埃。
 
 笑っているゾロの声の後を追って、ファルにもハッパをかける。
 ゾロ。
 絶対に、忘れないで。
 オレがアナタが戻るのを、ずっと待っていることを。
 
 
 
 クマチャンの顔が砂埃の向こう側に見えた。
 馬の足が妙に速い、コイツラも見知った顔に安心でもしているんだろう。
 とはいっても、おれの目には相変らずの仏頂面と苦笑いとの混ざり具合にしか見えねェな。
 
 馬が小さく嘶いた。
 後ろから別の蹄の音が追いつき。
 「よぉ、クマちゃん」
 「オカエリ」
 久しぶり、と鞍から飛び降りた。
 
 すう、といつの間にか伸ばされた腕が、手綱を取っていた。
 また、砂埃だ。
 走ってきた馬が巻き上げる。
 そして、サンジの声。
 「リトル・ベア、ただいま帰りました」
 あぁ、また妙な挨拶が始る前にずらかろう、そう思って声をかける。
 「じじいは何処だ?」
 サンジの声に頷いて、手綱をまた取っていたクマちゃんが。
 「屋内に居るぞ」
 「うえ」
 抗議の声も何も関係なく。
 「残念だったな」
 微妙に面白がってやがる声だ。
 そして、砂塗れだな、風呂場に直行しろ、と。付け足してからにぃ、と笑いやがった。あぁ、このクマちゃん笑いも久しぶりだ。
 言われなくても。このナリでフライトできるかよ。
 それに、熱いシャワー、っていうのはなかなかポイントが高い。
 「そうする、」
 
 まだなにかクマだか兄弟子だかと話したがっている風なサンジを置いて。さっさとポーチへ向かった。
 さて、と。モンダイは―――、
 頼むぜ、じじい。ドアの反対側でアンブッシュしかけンなよ?
 
 
 
 
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