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 サクサク、と足早に家の中に入っていくゾロの背中を見送りながら、サイアとファルの首筋を撫でた。
 リトル・ベアが、すい、と眉を跳ね上げて。
 「狩猟本能に火が点いたらしいな、」
 そう言っていた。
 
 「…リトル・ベア、」
 頷いてから見上げる。
 漆黒の双眸、くう、と細まっていく。
 「…ありがとうございました」
 頭を下げる、諸々のことにたいして。
 「シンギン・キャット」
 呼ばれて頭を上げる。
 「先に入って師匠に挨拶を」
 「ハイ」
 
 さあ、行きなさい、と促されて、熱く照りだした太陽の下から隠れる。
 サイア、ファル、ご苦労だったな、とリトル・ベアが馬たちに声をかけながら、遠のいていくのが聴こえる。
 いつもだったら、鞍を下ろしたり、馬の体を拭いたりするのを手伝うのだけれど。
 今日は――――――
 
 がしゃああん、と派手な音が聴こえてきた。
 それから、師匠の高笑いと、ゾロの怒鳴り声。
 …ああ、そっか。
 ふ、と思い当たって思わず笑いが沸き起こる。
 「ゾロも師匠と挨拶してるんだよね、今」
 あれがゾロと師匠との間に成り立っている挨拶の形なのかな。
 「ゾロ、元気だ。師匠も」
 ――――オレだけが凹んでいるわけにはいかないよね。
 
 
 
 とんでもねぇじじいだ。
 一応用心してドアを開けたなら。上から降ってキヤガッタ。例の棒を振り下ろしながら、だ。
 ニンジャかてめえは。当たったら死ぬぞいくらなんでも。
 そう怒鳴っても、じじいはえらく機嫌よく。窓がびりびりいい始めるんじゃねえぇかって高笑いだ。
 
 「おまけになんだこれは!!」
 「知らぬのか!バケツというものよ、愚か者が」
 げらげれげらげらうるせえ。
 「だから!!なんでそれがわざわざ横に置いてある!!」
 「オマエが避けてそれに躓くだろうて!」
 「ガキかてめえは………!!」
 
 ――――――疲れた。
 じじいがくそ大声で笑いやがる。
 「よく帰った」
 「―――――あんたに殺されにかよ、頼むぜ」
 にぃいい、と。
 悪霊かてめえは、ってカオだ。
 バケツに足突っ込んだオトコがそれほど珍しいか、このいかれシャーマンは。
 ―――――あー、くそう。
 調子が狂う。
 
 「そのままフロへ行っても良いぞ」
 「あー、そうするよ」
 ありがとうよ、と嫌味をたっぷり詰め込んで礼を言い。
 がご、とわざとひしゃげたバケツを引き摺った。
 じじいがまた笑った。
 まぁ、いいさ。
 わらって精々長生きしろ。あの子守りがあんたたちに不愉快な面さらして行ったに違いねェんだから。
 これくらい、サーヴィスだ。―――フン。驚きだぜ。
 ヒトがいいねぇ?おれも。
 
 
 
 
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