| 
 
 
 
 大体のスキームを頭に入れた。複雑に絡むようでいてその実単純だ。
 出来上がった形態を壊そうとする、それが新しく入ってくる連中の常套手段とするなら、自ずから壊れかけていく権威と繋がるとどうなるか。
 間抜けを見つけてきた連中は頭のイイ馬鹿だ、ふい、と思う。
 
 「おれをネイションで始末しようとした連中、どうなった」
 「抜かりなく、ドルトンがキレイにしてきましたよ。オシートも、自分のカオに泥を塗られたと酷く怒っていた」
 「それと、トマを引きだしてきた連中は同じ、とみなしてもいいわけだな」
 「ええ。階層が多少異なりますが、間違いでもない」
 「ガリマルディのじいさん、その後釜を狙っていやがるのも……」
 「ええ。それにあなたさえいなくなってしまえば、少なくともこの二つの力が抑えられる。つまり、シカゴから東部一帯、というわけです」
 据えた首などいくらでも取り替えることもできますしね、と。ペルがまた僅かに笑いの欠片らしいものを浮かべてみせた。
 
 「もう一人の馬鹿のこと忘れてねぇか?」
 西の馬鹿従弟。
 「あの方、ですか。」
 ペルがうっすらと笑って寄越した。
 「あなたも良くご存知と思いますが。あの方の気質、あれはむしろあなたの父上に似ていらっしゃる」
 「個人主義の快楽主義者」
 「ええ、徹底してらっしゃる。ですから関与なさらないでしょうよ」
 
 遊びの域を越えてまではね、とペルがわらった。
 「アレは馬鹿だからな、限度知らねぇぞ」
 「お止めしますよ、私どもが」
 要するに、だ。
 間抜けを担ぎ上げた男の目星がもう付いている、ってことだ。
 
 「それで、おまえらはおれを探す他に何をしていたんだよ」
 「関係するものの選別を。意外な程側にも、おりましたよ」
 す、とペルの眼差しが扉に向かって流れた。
 あぁ、ルーティンだ。走リ出す前の軽いスプリント。強張った気配と湧き上がるエネルギィ。
 何度かカオを見かけたことのある男が、室内から引き擦り出されていった。
 『悲鳴は退屈』、その通りだ。狩りで走る方が余程オモシロイ。
 
 「なぁ、いつご対面できるんだ、その従弟殿に」
 「一両日中にでも、いかがです」
 「乗った。」
 
 
 
 ズルイ!!!
 酷い!!!
 オレの巣を引っ掻き回した!!!
 
 グゥゥ、と喉奥で唸る。
 握り締めた拳が震える。
 
 そりゃたしかに、オレは彼らの大切なゾロを奪っていったけど!
 オレは彼らのテリトリィになんか、一歩も踏み入れてないのに!!
 
 バンッ、とドアを開けて、家を飛び出した。
 ざかざか、と砂を巻き上げて歩く。
 ルゥテナント・マッガゥエンの霊が、すう、と薄れて消えていった。
 
 砂の上、車4台の痕。
 リトル・ベアのと、リカルドのと。他2台。
 しかも、ヴァンと乗用車だ。
 
 これは戦争だよね!?
 「ギャウァウウウウ」
 短く声を上げる。
 
 足跡。
 オレと、リトル・ベアと、リカルドと…これは、レザーシューズがいくつかと、作業靴。
 やる気で最初から寄った。
 それでオレの大切なものを断りも無く悉く奪っていった。
 
 簒奪者。
 ユルサナイ。
 喉ヲ掻ッ切ッテ、地面ニ這イ蹲セテヤル。
 
 ザッと砂を足で蹴り上げた。
 一瞬で砂煙が舞い上がる。
 その向こうに佇む、人影。
 
 ぎら、と怒りのままに睨み上げたら。
 ソレは、すぅ、と静かな気配を纏った。
 警戒しているでもない、交戦するでもない、ただ立って見守るだけの。
 
 ――――――――――あ。
 ダメダダメダダメダダメダ。
 リトル・ベア――――だ。
 
 赤く染まっていた視界が、ゆっくりと正常に戻っていく。
 怒りの火種は、まだ脳内で燻っていたものの。
 ヒトであることを思い出した。
 自分が置かれた立場とか。
 しなければいけないことなどを思い出した。
 
 深呼吸、繰り返す。
 じりじり、と照りつける太陽の熱さを、漸く知覚するようになってから、身体が知らず知らずに漲らせていた力を抜いた。
 
 今、ここで怒っても―――――遅いよね。
 だからといって、許せることでもないけど。
 むしろ、許す気なんかさらさらないけど。
 
 飛び出した家を振り返る。
 チーフの霊が、ゆっくりとドアの前で佇んでいた。
 いつもとどこも変わり無く。
 ――――――怒りを持つことも重要だけれど。
 平常心を保つことも大切だ。
 奪われても。
 追いやられても。
 我を忘れてはいけない。
 
 家の中に戻る。
 もう一度、床に視線を戻す。
 長年積もっていた砂も。
 僅かな溝に詰まっていた埃も。
 生活することで残っていた僅かなゴミ、髪の毛の一本さえも――――全部、無くなっていた。
 
 ゾロがいた形跡。
 オレとゾロがいた形跡。
 ゾロがここに存在していた跡――――――――ゾロのほうのヒトだ、来たのは。やっぱり。
 
 ジョーンの絵。
 ゾロが小さい頃に描いた絵。
 それを見分けられるのは、きっと―――――――ペルさんくらいしか、いないよね。
 他にもいるかもしれないけど、オレが知ってるのは、ペルさんだけ。
 
 ―――――――ム。
 それでも、酷いよ。
 ダンダンッ、と床を蹴って地団太を踏む。
 「動物の礼儀さえも弁えていないなんて。サイテイッ」
 
 
 
 
 next
 back
 
 
 |