Friday, August 24
アマデオ、あの最初にいなくなってもらった男だ、あの男とその下にいたナンバーツー、それの後始末までは付き合った。
ヴィセンテ。アマデオの下にいた男、アレは頭の良い奴だと思っていたが買い被りだったか。少しばかり辟易する自分がいるのに驚いた、多少。まんざら知らない人間でもない、寧ろ「かっていた」方だった。だから選ばせてやった。自分で引き金を引くかおれの手助けがいるか。
そしてヒトの親切を仇で返すバカが選択肢の他を選びやがったからペルが眉一つ動かさずに、実にキレイに額に穴を開けていた。
「アレ」が逃げ込める場所から先に潰していくとするなら、時間をかけている場合じゃない。後ろ盾を潰して、デリバリーよろしく駆け回ることになる。まぁそれも、オモシロイ。
3番目、今回の間抜け連中の序列で言なら中堅のポジションにいたのは、ジョアンだった。名前と顔を組み合わせる。
フウン?唯の売人から折角ここまで伸し上ったのにな、お気の毒様。
『オマエが勝手に間違えたんだ、おれに文句を言うな』
おれが目の前にいることに酷く驚いていやがった。
おれが無傷で「ここ」まで来たことにも。生憎、おれの手駒はオマエの連中より上なんだよ。当たり前のことに。
聞き飽きた呪詛が耳に届く。
上の二人はそこそこ諦めも良かったのにオマエは足掻くわけか。そんなことを思っていた。
『ペル、こいつは任せる』
うるせぇよ、この男は。
ひら、と左手を振った。
ドア口に立って、廊下を眺めた。
ザコドモ、オールクリア。部下の一人と目が会った。すう、とハンドサインが寄越される。
負傷者2名。―――少しは警戒し始めたか、いくらなんでもな。
空気を裂く音が背後から聞こえた。
「なんだ、オマエ。リクルートしなかったのかよ」
「間に合っていますので」
目が、笑いもせずに続きを言って寄越していた。バカは一人で十分だ、だとさ。
郊外のマナーハウスもどきから戻ってきたのはざっと1時間前だった。
3番目がいなくなるまでに動き始めてから2日、というのはまあ悪くない。
並んだ顔をざっと眺めて見る。緊張と弛緩のちょうど良い収まり具合のカオ。
アマデオ、ヴィセンテ、ジョアン、ここまでが「身内」だった。親父世代の、と追加してもいいかもしれない。
「残りは、」
答えを知った問いかけに返された名前は3つだった。
アレッサンドロ・アルフィエーリ、ロドヴィコ・カノーヴァ、エンリコ・ドニゼッティ。
トマを唆したのはもういない3人だとしても、じっさいに祀り上げているのはまだ残っているこいつらと、その他諸々。
頭の無くなった手足なんざ、わざわざおれが出向くまでも無い。
「そいつらの始末は任せる、精々揺さぶりをかけてからな。ただ、時間はかけ過ぎるな」
に、と。笑みで返された。
このなかの誰がトマを匿っているにせよ、所詮わが身かわいさで梯子を外そうとするだろう、哀れなのは誑かされたバカだ。
何を吹き込まれたか知らないが、カオも覚えていないおれを仇扱いとはオソレイル。
―――覚えていないのはおれだけだ、とペルなら言って返すだろうが、記憶にないものはそもそも仕様が無い。
語尾の少しばかり揺れる子供の声が、精々思い出せるぎりぎりのところだ。
声だけでも想像がつく、神経質そうなガキ。
「ちび」はそいつと遊んでやっていたのかね?
『トマソ、と呼んでおあげなさい。』
嗜めるようなペルの声は思い出したから、やはりそのガキが「トマ」なんだろう。
『好きじゃない。』
イキナリ、「ちび」の声で思い出した。ペルに返した言葉。
あぁ、そうだ、―――思い出した。
『すぐに怒るからどうしてあげたらいいかわからないから好きじゃない』のだったか。相変わらず、この「ちび」は
甘っちょろいガキだ。
一瞬の間、ブランクだった意識を戻す。
「その3人のほかは、いまはいい。トマごと狩り出せ」
リミットは、と付け足す。
「トータルで4日、つまりあと2日」
それ以上長引くと、「上」が感づいて騒ぎ出す、そうなると厄介だ。
なにしろおれは「死人」なんだから。
「頼む、なにしろおれは死体らしいから放っとくと腐るだろ」
く、っと。
ハンタァ共が低くわらった。
あぁ、やり方は任せるから精々楽しんで来い。
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