Sunday,August 26
ドルトンから場所を聞いて、思わず確かめた。
ドニゼッティが吐いた、と報告を受けて受け取った紙切れに書かれていたアドレス。
いま、アシュトレイの中で灰になりながらくねる紙に丁寧な文字で描かれたソレは、マンハッタンから目と鼻の先にある島のモノだった。

ちらりと、ドニゼッティの顔を思い出した。記憶の中にあるまだ若い顔。
週末をちょっとした郊外で過ごすタイプには思えなかったが。
そもそも、この海沿いのアドレスとは似つかない目をしていた男だったのにな。
ヒトは見かけによらないのか、オタノシミの隠れ家だったのか。いずれにしろ、ヒトを隠すのに最適、とはいえない場所であることは確かだった。

「ゼッティ」はバカじゃあない、ということは。
トマ、とかいうおれの従弟がバカだったんだな、こういう場所を選んだのはどうせコイツだろう。
担ぎ上げられたのなら大人しくそのままでいればいいものを。

「スタッテン島か、」
紙切れは完全に灰が折り重なった塊になっていた。
そもそも。
「ピクニックでもしたかったのか、こいつは」
おれの独り言めいた言葉に、後ろからペルが返した。
「山の中はお嫌いなのでしょう」
「ゼッティは、」
その横にいたドルトンに問い掛ければ、大体の予想通りの答えが返ってきた。
「あぁ、ゾロ。あなたに彼から伝言が一つ。"地獄に落ちろ"」

「オリジナリティの無いやつだな」
肩を軽く竦めてドルトンが少しばかり難しい顔を寄越した。
「命乞いをしないだけ、マシだと」
「―――――フン」

「生かしているのか?」
「ええ、いまのところは」
「……惜しい男か、」
す、と視線があわせられた。
「使い方如何によっては」
「ならばおまえの裁量で好きにしろ。ただ、次に噛み付いたらオマエごと消すぞ」

はあ、と隣でペルがわざとでかいため息をついてみせていた。
また、おれの気まぐれだとでも思っていやがるな?これは。
この男がわざわざ生かしているくらいだ、それなりに使えるんだろう。ダメと見限ればすぐにどうとでも出来る。

「この家には、」
アドレスから、島の西部の様子を思い出した。ニュージャージー側はまだ相当「荒れた」景色が広がっていた、と。
「トマソと、ドニゼッティの配下の者が数名」
ドルトンから返される。
「手薄だな、」
まさか襲われるとは思っていないのでしょう、と冷え切った声が言ってきた。
随分とお気楽な性質をおれの従弟はしているらしい。
あまっちょろいな、馬鹿馬鹿しい。

「担ぎ手が二人も死んでいるのにな」
くう、とペルが口もとを吊り上げた。
「ご存知でしょうに、あなたも。ダミイになど誰も情報を与えない」
時計を見た。午後4時過ぎ。
「じゃあせめて。ディナーの後に顔をだしてやろうか」

人数を揃えろ、と。
部屋を出て行く二人に付け足せば、同じような口調で予想通りの言葉が返された。
「仰せのままに」
「御意」
―――――――どこまでも嫌味な連中だ。

閉ざされる扉の音を聞きながら、輪郭も浮かばない「従兄」とやらを思った。
憐憫、だとか。
哀れみ、であるとか。
そういった感情は内からは起こらない、むしろ。
担ぎ出される間抜け具合を思った。
得体の知れない連中の口車に乗って、最後は見捨てられる。
救いようがねぇな。
大人しく絵でも描いていれば―――、

絵……?あぁ、ひとつ、思い出した。
馬の、首から上だけを描いた絵。
妙に巧かった覚えがある。
ああ、そうだ、たしか。
「ちび」が感心したなら。破り捨てていたか?

「むかしっから、気があわなかったらしいな、」
どこかにいるだろう「ちび」向かって言った。
とはいえ、懐かれても嬉しくはねぇけどな。




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