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 朝ごはんは、喉を通らなかった。
 どうにかシリアルとミルクで済ませて、後片付けをした。
 
 リトル・ベアは今日は朝から師匠と一緒に山に行っていると、そんなオレをちらりと新聞越しに見上げつつ、リカルドが言った。
 だから、オレがなんとか支度し終えて出てきたころには、リカルドがのんびりとテーブルで珈琲を飲んでいるだけだった。
 
 「ああ、サンジ」
 「…ハイ?」
 「グレート・サンダー・フィッシュからメッセージ」
 「――――?」
 
 紙をひらっと手渡された。
 さらさらの師匠の文字が、薄茶色の紙に躍っていた。
 
 『人は風を知るが、風は人を知らぬ。風の声を聞き、学ぶこともある』
 『なにやら蒼い物が吹いて来おったぞ。』
 『飛ばされぬようにな、わしはオオカミに踏まれとうはないわ』
 
 ……つまり、兄貴はそうとう怒っていて…その結果、ゾロを裏切るようなことにならないように、ってことかなぁ…?
 
 「ああああああ………」
 へた、とテーブルに懐くと、リカルドがちらりと面白そうに目を光らせた。
 「サンジのそういうトコ、初めて見たと思う」
 「―――だって…ああああああああ…」
 頭を抱えると、リカルドがケラケラと笑い出した。
 
 「サンジ、オマエ後悔してないんだろう?」
 「そりゃしてないけど、」
 「だったら、ばしっと説明すればいいじゃないか、」
 「うん、その通りなんだけどね、」
 けど、兄貴があれだけ怒っているのは、オレに非があるからで…。
 
 「――――あああ、こんなに兄貴を怒らせたのって…初めてオンナノコと一緒に時間を過ごした時以来だよ、」
 ぶふっとリカルドが噴出した。
 「はあ!?怒られたんだ?」
 「ウン…誰にも何も言わないで、ついていったから」
 「はァん…それならオレなんか毎度のことだけどな。まぁ、うん…サンジだから、かな」
 
 わしわしっと頭を撫でられた。
 「愛されてるってことだな、サンジ」
 「ウン―――うん、」
 それはよく知っているんだけど。
 けど。兄貴、ああああ……………怖いよう。
 
 
 しばらくして。
 じりりりり、じりりりり、と古い電話機が大きな音を立てた。
 びくっと跳ね上がると、リカルドがケラケラと笑って受話器を取った。
 「Si?―――ああ、先ほどは。――――かなり吃驚しましたが―――――はい、替わります」
 
 つい、と差し出された。
 リカルド、目が笑ってるし。
 ううううううう…………
 
 「サンジです、」
 『オレの弟の?』
 ―――――ぐ、
 「セト、」
 『オレぁ礼儀知らずな弟を持った覚えは無ェぞ』
 キリキリと冷えた声が受話器越しに伝わって来る。
 
 「ごめんなさい、セト」
 『なんで謝る?』
 「―――オレが連絡なしで、ずっといたから」
 『だから?』
 「心配かけて、ごめんなさい、セト」
 『―――ふン。いいだろう、サンジ』
 「―――兄貴、」
 
 
 
 
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