ほう、と安堵する暇もなく、パシっと冷えた声が続けた。
『ちなみに。オレは結構情報があるからな』
「――――ハイ?」
『誰に最も謝るべきだと思ってるんだ?』
「―――ダディ」
『解ってるならきっちりやりなさい、バカモノ』
「――――ハイ」
ううう………背筋がピリピリするよぅ…、

『で、どういうことなんだ?』
「――――オレが、森に行くって置手紙置いて、出てきた」
『それがいつものオマエなら、2週間ごときオマエが森から帰らなかったからって、エドワードは怒りはしないだろう。けど今回は、そうじゃなかったんだろう?』
「うん、―――寝込んでた」
『オマエのミスだ。どうせオマエのオトコ絡みなんだろ、』
「―――――――う、」
あぅう、返答に困るよぅ…。

『ああ、いい、いい。今ので大体察しがついた。ただな?』
「――――ハイ?」
『シャーリィに、オマエ、自分の恋人はオトコだって気づかれてだぞ?それでもって、スタコラ消えたらだな。いくらエドワードが寛容だからって、どう出ると思う?』
―――う。
「――――わからないです」

『まあな、解ってたらもうちょっとうまい手を打ってただろうとは思うけどよ。オマエ、自分の恋人の信用度、下げたんだぜ?』
「――――あ」
信用度……。
『いくらこれから姿を現さないっていってもだぞ、頭ごなしに"そんな非常識を強いる人間の、しかも男になんか大事な息子を渡して堪るか"ってエドワードに宣言されても、オマエ、文句言えないぜ?』
「―――でも、それはオレが会いたかったから会いに来たんだよ?」
『親馬鹿を自認している父親が、そんなコトに耳を貸すと思うか?』
「――――――う」
…ああ、そうか。どうしよう…いつもダディは最初は印象が大事だ、って言ってたのに…。

『しかも、あの嘘臭い"革命家"ってのはナンだよ?』
「―――え?」
『シャーリィ、オマエが消えた翌日にかけてきたよ。警察に通報しておくべきかどうかって』
「――――ええ?」
『止めたけどな、さすがに。サンジが森に行ったつーなら、信じてやれって』
「―――うん、」
それも胸に痛いけど。

『――――オマエが高校時代に遊びでエドワードと株買って、大当たりして。ついでに大学の研究になんだか手を貸してて、そこそこ財産持っているのはわかっている』
「――あ、お金。うん、貯金ある、」
お金がどうしたんだろう…?
『だから、エドワードがオマエを勘当するとか言っても、意味がないってことはエドワードは解っている。しかも、オマエが大学に通っているのは、エドワードたっての希望だってことも、忘れてない』
ああ、そういうことなんだ…。
――――――――家を出されることなんて、考えたこともなかった。
「――――うん」

『――――――実際、オマエがもう家を出ちまっても、問題は無いんだよ。21になるまでは、親の保護下に置かれることが望ましいとは言えども、だ』
「――――うん、」
『けど、そういうことじゃないだろう?』
「―――うん、」
『わかってンのか?』
「うん―――愛情のこと、信頼関係と」

答えると、セトが小さく息を吐いた。
『―――ふン。オマエ、こっち来ないよな?』
「行かない」
『直ぐに帰れるのか?』
「まだ無理……ハントから戻ってこないと」
『―――――――オトウトが戻ったら、直ぐにコロラド帰れ、オマエ。んでエディに殴られる覚悟して謝れ。シャーリィにもな』
「ハイ」
電話越しに頷く。

『―――ったく。この間まではオレのちっちゃいベイビィエンジェルだと思ってたのになァ』
「―――セト、」
『Yeah?』
「ダイスキだよ。でも解って―――愛してるんだ、」
『――――オマエね。浮気したオンナみたいなセリフ吐くんじゃないよ、』
呆れたような、セトの声だった。

「―――セト、」
『オレもオマエがダイスキだよ。愛してるし。今度オトウトに会ったら、相当挽回しねェと―――ってアレにゃ言ってもムダか』
「――――え?」
『なんでもない。伝言できるか?』
「―――ゾロに?」
『Yes, baby. Tell him, I'm hoping that he's not such an ass-hole as to not understand and respect family relationship and love』
―――セトが、ゾロが家族愛と関係を無碍にしないようなロクでもない人間じゃないということを祈ってる、って。
「―――わかりました」

『まぁ、どんなF**kin' son of a b**ch(クソッタレ)でも、オマエがいいと言ったら通っちまうんだけどな。エディたちやオレがどんなに反対しても』
―――う。
『オマエも面倒な恋愛を適えちまったもんだな』
「―――オレが、ほしいって言った」
『ああ、そうだろうとも。そうじゃないわけがあるか』
――――う、どうしてだろ…?

『ふン。一応エディたちにはオレの方から連絡入れておく。ああ――解ってるさ。オレが甘やかしたんだよな、オマエを一番最初に』
「―――セト、」
『二度とやるなよ』
バシ、と言われて、飲み込んだ。
「ハイ」

『ったくなぁ、……あ?―――悪ィ、オフィスの方にオレ宛の電話がかかってるらしい』
「あ、解った。セト、ありがとうね」
ふン、とセトが向こうで小さく笑った。

『ああ。そうだ』
「ハイ?」
『オレは兄馬鹿で甘やかしの権限で。先にオマエの愛するダーリンの家族と面会すっから』
「――――――は?ちょ、セト???」
『じゃあな。また』
「――――――え????ちょ……えええええ???」
ツー、ツー、という電子音に向かって叫んでも、もちろん返事があるわけがなく。

「―――どういうこと?」
受話器を見下ろして、呟いてもどういうことだか解らない。
そもそもゾロの家族って―――ちらりとジャックさんたちの顔が頭に浮かんだ。
「―――コーザさん、かな?」
う、オレってば…アレックスに噛み付いて大変失礼なコトをしたばっかりだった。
「―――――また、怒られるかなぁ…、」

寂しさは、セトの怒りに追い出されるみたいに、遠くなっていったけど。
――――――うう、それでも。
ああ、―――――――泣きそう。



*今回、短いですよね?舞台裏、こっそり覗かれます?うい。どうぞ 

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