Monday, August 27
一晩寝て、考えて。
ひとまず兄貴経由でエディに手紙を送ることにした。
リカルドのPCとアドレスを借りて、タイプする。

『To Seth, from votre petit ange, (セトへ、アナタのちっちゃい天使から)』

小さい頃、チビ天使、と呼ばれていたのを思い出して、書き出してみた。
これなら、初めてのメールアカウントからでも開けてもらえそうな気がするし。

『セト、いま少しばかり、オレの現在地を明確にするわけにはいかないんだ。
 ステイ先のaguila blanca(白い鷲)のアドレスを借りて送っています。
 ダディに直接連絡を取ると、そこからハンターたちが嗅ぎつけてしまうかもしれないので、念のため。

 次の内容をダディに送ってもらえると嬉しいです。
 心配かけてゴメンナサイ。
 こんなことを頼むのは、コレが最初で最後です。

 I love you, my darling brother
 Chat qui chante(歌い猫)』

改行して、ダディに送るメールを打ち出す。


『Papa,
 Je suis si desole que je pars la maison comme cela, et ne vous a pas contacte puisque......

……ダディへ、
あんな風に家を飛び出したまま、今まで連絡を取れずにいてごめんなさい。
心配してくれているということを、オレは思い至らないままに行動していました。
いまはちょっと説明できないけれど、オレは無事で元気にしています。

おじさんや他にお世話になったたくさんの人に迷惑をかけっぱなしのオレだけど、
どうしても家でじっとしていられなかったことを解ってください。
全部、オレのワガママなんだ、そして今、家に帰らないのも。

ダディとマミィがオレにくれている愛情の深さに、やっとオレは気づくことができたけれど、
――――それ以上に、大切にしたい人ができました。

昨日、兄貴と話をして。
兄貴は、ダディもマミィも、オレを勘当することはないだろう、って言っていたけれど。
オレはそうされても文句は言いません。
それだけのことはしたと思います。
また、そうされてもかまわないほどに……オレには傍にいたい人がいます。
世界と引き換えにしてもいいと思うくらい大切な人に、オレは恋をしています。

いつ帰るとも断言できないまま、こんな言い訳ばっかりで自分勝手な連絡をしてごめんなさい。
最後まで読んでくれているといいなと思っています。

ダディ、マミィ、愛してる。
アナタたちの子供として生まれたことを、感謝しています。
愛と誠意を込めて、
Votre ange de bebe (アナタのちっちゃい天使より)』


何度か繰り返して読んで、それから送信した。

ふと気づくと、リカルドがカメラを取り出していて、そうっと中の掃除をしているのが目に入った。
リトル・ベアは、彼のデスクトップに向かってなにかメールを書いているみたいだ。
すい、と視線を感じて見上げると、師匠と目が合った。
「師匠?」
そうっと声に出してみる。
くうう、と目を細めていた。
目じりに寄った皺が、ますます深みを帯びる。
視線の先、オレの肩の少し後ろ辺りみたいだ。
…うん?なにかいるかな…?




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