10:50pm Sunday, August 26
一人目がエントランスの横で崩れたときに、横に立つペルに言った。トマが何処にいるにせよ後始末は自分だけがする、と。
左肩の横を、すうと冴えた気配が抜けていった。
聞く耳もたず、かよ。上等だねオマエも。

石の床の上を赤が流れて拡がる。
一歩踏み出しかけ、なにかが視界を横切った。
長い指が、4本揃えられてひらひら、と不釣合いなほど流麗に動いた。
「最長で、」
なるほど、4分ね。それで片が付くと。
その間におれは、従兄を見つけて―――

「ゾロ、」
死ぬ前にコレの声だけは聞きたくねェな、ふと思う。地獄に連れ込まれるかと思うだろう。
「得策ではありませんね、」

錯覚。気配が変わる、捕食者のソレに。肩の動きで銃のグリップを握ったのが分かる。腕の一振りと圧搾音がほぼ同時、
それと。開いたドアの影からお決まりの音。ヒトの身体の7割は水分、って言葉はウソクサイ。ちっとも、水の詰まった何かの
弾ける音じゃないな。

少なくともこれで二人。下手をすると最長で2分ってことにもなるか?
「お好きに、」
「あァ」
「外へ逃げ出されたら少しばかり面倒ですが」
また、音がした。

「そうなる前に感動の再会は早めに切り上げるさ」
開かれたいくつもの扉の横を抜ける。
ハンタァの一人がおれを呼んだ。開かれたドアの内にガンを向けたまま。ああ、そこにいるわけだな。

瞬きの間に、その姿がペルに入れ替わり顎でおれにナカへ入れと促がしてきた。
眼差しがその内側に向けられたままの姿に、近付く。

「間違いない、ご本人ですよ」
優し気、といってもいい口調だった。そのあとに、大きくおなりになって、と続いても可笑しくない程度には。
オマエのジョークはだからドルトンに嫌われるんだぜ?

「トマ、」
ドアの隙間から中へ滑り込み背中に声をかける。
おれのすぐ後ろでドアが閉ざされた。

壁の3方が書架で埋められた部屋、書斎にそれはいた。
窓に近い位置に据えられたテーブルの上に、軽く組んだ腕を投げ出して。
そしてさも面倒くさそうに、伏せていた目を上げた。

「死ぬのか、」
当たり前だ、従兄殿。
「そういうことになるな」
「"あいつら"は、」
「全員おまえを待ってるよ」

ちらり、と。口元に何かが過ぎった。
笑いの欠片じみたモノ。
あぁ、うんざりしてやがるのか、おれも同感だな。あいつらは―――
「小煩い、」
ひどく自然な動作で立ち上がり、テーブルの横に出て立ち止まっていた。

そしてまっすぐに視線を投げてきた。
「惜しかったな、もう少しかと思ったのに」




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