Saturday, August 30
死人を返上しよう、と。
朝、ペルを捕まえれば。すう、と得意の掌を上向ける仕種付きで、「やっとお気づきになりましたか、」と言いやがった。
噂だけが先走る前に、少なくとも隠棲している必要は無くなったのでさっさと戻ることにした。―――この隠れ家の居心地も
悪くはなかったが。
「"彼"への返礼はいずれ」
「そうだな。悪魔に借りが出来ちまったか」
「あぁ、アナタはご存知ありませんでしたか。そもそも―――」
子守りが、朝食の席には誰だって拝みたくない類の笑みをすい、と優雅にカオ乗せてみせる。
「最初に"会った"きっかけは。彼がアナタを誘拐したのですよ、まんまと我々から」
覚えが無い、ということは。―――まだ「ちび」の頃の話か。
「ゾロ。あなたの生きてらっしゃること自体が、言うなれば"借り"なので。いまさら隠れ家の1つや2つ。」
に、と。
わらってみせる子守りに。うっかり驚いた顔を晒したなら。
「気が変わった、と彼は言いましてね……?」
ますます、子守りの笑みの絶対温度が低くなる。
アナタが戻ってきたのと同じ日に、ある一家族が忽然と姿を消しました、と。
昔話をしやがった。
「――――フン。遠慮は無用か」
「さあ?」
朝食終了。
「帰るぞ、」
席を立つ。
「私から、ご自宅へは連絡を入れておきます」
溜息混じりのドルトンが、ドア口から言って寄越した。
目があえば、案の定。首を軽く横に振ってみせた。
あぁ、言われなくてもわかるさ。子守りの機嫌が悪いことくらい。
昼前には家へ戻り。
おれが死んだと思い込んでいた連中、そのなかには大猫ドモも混じっていたが。
ちょっとしたミモノだった。
「息をするか、泣くか、笑うか、怒るのか。せめてどれか一つを選べ」
言っても、まあ無駄だった。
けれど誰よりインパクトがでかかったのが。スーリヤだった。
鳥の言葉じみた母国語で捲し立て。
わからねえぞ、と返せば。『だんなさま、まことに酷い。なんと生きていてほんとうによろしい!!』
そんなことを言って寄越し。笑い泣きで抱きつかれた。
ふ、と笑いが込み上げてきた。
そうだよな、生きていてよろしいな。そう返して頬へ口付けた。
マトモに受けた最初の『歓迎』か?
「スーリヤ、後で美味い昼食を」
期待してる、と付けたし。
意識を切り替えた。
生き返ったなら生き返ったで、やることはまだ山積みだ。まずは、ロンドンからあのバカを呼び戻す算段を。
次いで浮かぶ幹部連中の顔が幾つか。アイツラを呼び寄せる必要もある、が。その辺りの手はずは全ておっかねぇ子守りが
たとえ機嫌が悪くても万全に整えているだろうから、ひとまず意識から追いやる。
悪魔に一言、これはペルには任せるわけにもいかないだろう。
思い当たるナンバア、それを押し。
一体いくつ『飛ばされ』ているのか見当もつかないが、酷く鮮明な声が。
く、と喉奥でわらっていた。
イメージ、暗い水底へ滴る洞窟の水滴。そんなものが拡がる。
が、すぐに。
名を呼ばれた。そして、続いた言葉に心底うんざりした。
『ゾロ、明日。オマエの親が向かうぞ。おれが依頼を断ったからな』
――――最悪じゃねぇか。
悪魔がそれを受けていたなら死んでいたか?クソイカレオヤジ。
「助かった、礼を言う」
『ウサギは太らせて食うモノだろうに。気にするな』
―――どいつもこいつも。
口が減らない連中ばかりだ。
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