受話器を置いた手が。
訳も無く震えていた。
その場に、ぺたりと座り込む。

明日、会える。
明日、ゾロに、会える。
嬉しいのに。
嬉しい筈なのに。
なんで、こんなに苦しいんだろう?
なんで、オレは。
―――泣いているんだろう?

しばらく、頭を空っぽにして。
落ちるに任せて、泣いていた。

まだ、師匠も兄弟子も帰って来ず。
オレのキョウダイたちは、その鼻先を押し付けてはきてくれず。
ゾロは、まだ。オレに手を差し伸べてくれるわけにはいかず。
セトは―――エディも、シャーリィも―――連絡を、絶ったままだ。
サンドラも。
ダンテも。
オレの居場所を知らない。
独り、だ。

頭がガンガンと痛かった。
タイレノルが欲しいけど。
探すのも面倒。
立ち上がるのも、嫌だった。
けれど。
明るいこの場所にいるのは、もっと嫌だった。

時計を見た。
まだ、夜は長い。
電話番、もうできそうにない。
そう思った矢先―――かかってきた。

取ろうかどうか、躊躇して。
ゆっくりと、受話器を取った。
ゾロかもしれない、から。

『Hola, Es esto Pequeno Oso?』
スペイン語、オンナノヒト。
ああ、"シャリィン"さん?
「No, el no esta aqui, pero puedo dejar algun recado」
"リトル・ベアはいません。だけど、メッセージを残しましょうか。"
そう訊いたら、オンナノヒトは、一瞬息を止めて。
それから、少し笑った。

『シャリィン・アルヴァラードと言います。ナタリアのことで、折り返しお電話いただけるよう、お伝え願えませんか?』
やさしい声が、そう言ってきた。
名前のスペルを訊いて、腕を伸ばしてノートパッドに書き出す。
「わかりました。帰り次第そのようにお伝えしておきますね」
かすれまくった声で言えば、カノジョが笑った。
『アナタ、早く寝なさい。暖かくして、ホットミルクでも飲んで』
――――?
『今日が終われば、明日はまた新しく陽が射すわ』
――――わかって…?

『泣くのもいいわ。しっかりお泣きなさい。大丈夫よ、涙が出るのは泣いてもいいということなのだから』
「あの、シャリィンさん…?」
『いつだって頑張らなくていいのよ、』
El chico de corazon dulce…優しい心の坊や、そう声が続けた。

「シャリィンさん…」
『Pueda a su Dios esta con usted,』
"アナタと共に、アナタの神が在しますように。"
そして、電話が切られた。
静かな、静かな声。

……"アナタの神"…スペインの人かな…?
そういえば。
リトル・ベアも、リカルドも。
スペイン系が混じってるっけ…?

ふら、と立ち上がって。
そのまま、ベッドに向う。
不思議と、立ち上がることができた。

ゾロと明日会うこと。
それについては、まだ考えられない。
頭がガンガンと痛んでいたのが、少し収まっていた。
酷く眠たかった。
魔法をかけられたみたいだ。

…あああ、そういえば。
結局ほとんど食べれなかったし。
一日ほとんど、泣いていたんだった…。
ベッドに倒れこむと、情けなくてまた涙が出てきた。

真っ暗な部屋の中で目を閉じる。
目の周りの筋肉が、酷使されっぱなしでツキツキと痛んだ。

"アナタの神がアナタと共におわしますように"
……偉大なる霊は、傍にいてくれる。
だけれど。
―――進むべき道は、オレが選ぶもの。
オレは……どこへ向えばいいの…?




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