Tuesday, September 2

飛行機。
これはトリプルセブンだろうがガルフだろうが、関係なく。おれは嫌いなんだよ、と口中で呟いた。
が、チョイスが他にないなら仕方が無い。

昨夜、バカ従弟とイカレタ婚約者をラガーディアまで送ったついでに、キ印の頭目に連絡を入れた。
正確には入れさせた、零下まで冴えた声で内容を聞いて寄越した子守りに。
カワイイ息子からダディにオネガイがあるんだよ、と返せば。
コール音を鳴らしているケイタイを慇懃無礼に丁重に渡された。
『ご自分で仰いなさい、』と。
底冷えする笑顔つき。

繋がった先は、何故か鳥の声がしていた。―――どこに行っていやがるんだか。
そして第一声は。『パトリシアはどうした、』だった。
笑いを含んだ声は、上機嫌なのだと踏む。
「帰り道が一緒の奴がいるだろう、送らせた」
そう返せば。大笑いしやがった。言うに事欠いて、
『アレは愛人が出来たらしいからな?おまえも安心なモノに送らせたな!』だった。
コーザ、てめえ…バレバレってやつだぞ。
―――や、あのバカは。イカレ同士、このオヤジと妙に仲が良い。自分から大自慢で下手したら大猫を画像つきで
紹介済み、って線がむしろ強いか。

本題に切り替えた。『親子の団欒』、をしている場合じゃない。
あっさりと、イカレオヤジがガルフの使用許可を寄越し、付け足していたのは『アテンダントは持ち出し禁止』。
―――寧ろいらねぇよ。

けれども礼を一言。
奇妙に、嬉しそうな高笑いを返されて驚いた。

切り際、聞こえたのは。
『アンドレア、息子が頼みごとをして寄越した、』と。
これまた上機嫌な声で。
返された声は軽い口調で、『よかったじゃないか、想いが伝わって』
―――名前と、声が一致する。
大物同士、仲良く悪企みだか挨拶だか。『アンドレア』ねぇ……?一昨日のパーティでも、に、と笑って寄越した
グリーンアイズを一瞬思い返し。
通話を切って、ケイタイをペルに投げ返した。

「ガルフを借りた。明日、フェニックスまで飛ぶ手配を頼む、」
そう言えば。ペルは、一瞬眉根を寄せ。
「なるほど。『あちら』に預けておいででしたか」
「あぁ、貴重品だからな」
「取りに戻られる、と仰る」
「止めるなよ。殺すぞ」
ドライヴァの背中が僅かに強張るのを視界の端に捉えた。

「―――なにもかもが欲しい、そういう暴君に育てたのは…私の責任でしょうね」
実にくだらない、とペルが吐き捨てるように言い。
「まったくだな」
ひらり、と左手を空に晒した。


時計を見た。
正午近い。
デジャヴ、陽射しの色味が季節の移り変わりを告げるだけで。
アトリウムをそのまま通り抜け、エレヴェータからパーキングへ。

そして、あの嫌味な子守りのことだから、どうせ。
―――あぁ、ビンゴ。
パーキングに停められていたのは、ゲレンデだった。
クソウ。
また鳥小屋行きかよ、冗談じゃねぇぞ。
おれがいま捕まえに戻るのは、バカネコなんだよ。

アクセルを踏みつけて、陽射しの中へ出る。
着くとしても、3時は完全にまわるな、下手をすれば4時近いか。

乾いた陽射しがアスファルトを照り返し。ガラス粒が光を弾いていた。
早く、この地が。赤茶けた色に変わればいい。巻き起こる砂混じりの風と。
そんなことを思った。
―――なるほど、イカレテルのはおれも同じか。
クソオヤジのことを言えねェな。

タバコに火を点け。ついでにラジオのヴォリュームを上げれば。
わらっちまった。
あーあ、エース。
あンたそういえば、ギリギリでこいつらを聴いてたよな?
ファースト・アルバムからのヒット曲、それが流れてきて。
驚いたことに、一緒になって聞かされていたチビの記憶の所為か、すんなり歌詞が頭に入り込んできた。
乾いた陽射しに、跳ね返る音が丁度良い。

サンジならば、眉を潜めそうなざらついた音が。
周りから消えていった。あー、そうだよ失せちまいな湿気た連中だ。
おれはいまからおまえらの大嫌いなシャーマンの家まで行くわけだから。
オカシゲナ道に迷い込みかけた、バカネコを拾いに。

ハイウェイのエントランスが近付いてきた。
3時だな、と見当をつけ。アクセルをまた踏みつけた。




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