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 目の前に広がる、茶色の砂の世界。
 天上には、透明で奥の深い青。
 ゾロが来るのを待って、ポーチで過ごす。
 
 朝、目覚めてから薬草のお茶を飲んだ。
 「あんまり泣いた顔でいたら、シンギン・キャットではなく、ホワイト・ラビットだと言われて狼に食われるぞ」
 そんなことをリトル・ベアに言われ、オレは少し笑った。
 食われるのが望みだとは、とても言えずに。
 
 ランチは、野菜を煮込んだスープだった。
 どうにか口に入れて、おなかを満たし。
 これでいつ狼に食われてもいいや、なんて思った。
 
 ゾロには―――会いたい。
 でも、どんな顔をして会ったらいいのか、わからない。
 ゾロに会いたい、と思うだけで泣ける自分が嫌で。
 そんな嫌な自分をゾロに会わすのが、嫌だと思った。
 
 せめて、好きな自分で会えればいいのに、と思って。
 シャワーを浴びて、着替えてみた。
 ぱりっとした白い長袖のシャツ。
 甘いサンド・ベージュのデニム。
 ベルトはナシで、裸足。
 
 外にいると熱いから、と言われてテンガロンを被らされた。
 9月に入ってからも、日差しは照りつけていて。
 砂の上で地熱が揺らぐのが見えた。
 
 遠い向こうには、あるはずも無い"都"の影。
 蜃気楼に行けたら―――そこはどんな場所なんだろう。
 きっと"虹の向こう"と同じくらいに意味のない思考。
 現実逃避。
 
 ゾロに会いたい。
 ゾロに会いたい―――けど、会いたくない。
 こんな自分は、嫌だと。奥深くで泣く。
 
 涙の代わりに零れ落ちるのは溜息。
 思考はぐるぐると袋小路の中を回る。
 オレは―――ゾロに。
 嫌われちゃうかな…?
 
 
 ぼんやりと、僅かに吹きつける風を待って、外に居た。
 途中何度か、レモンと蜂蜜と少量の塩を混ぜたドリンクを貰った。
 
 「オマエにそれ以上なにかあったら、狼に噛み付かれるだろう?」
 飄々と言ったリトル・ベアに、ありがとうと言った。
 「ゾロは噛み付いたりしません。オレが今の状態にいるのは、オレの責任ですから」
 
 リトル・ベアにぽか、と頭を叩かれた。
 そして、さらりと頭を撫でられる。
 「"木を見るには森を見よ"」
 落とされた言葉。
 見上げると、苦笑された。
 「頑固だな」
 と一言、追加。
 
 「…リトル・ベア?」
 どういう意味か、と尋ねかけたならば。
 耳が拾い上げた、車のタイヤがアスファルトの砂を撒き散らす音。
 エンジン音。
 ぴく、と。神経が跳ねた。
 
 焦燥感。
 安堵感。
 ない交ぜになって、フラットになる。
 ゾロ。
 ゾロ。
 ―――どうしよう…。
 
 
 
 
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