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 遠のくエンジン音を聴いていた。
 砂が巻き上げられる音と。
 
 聴こえなくなるまで、じっと耳を澄まし。
 やがてシンと闇が満ちる音だけになるのを待っていた。
 
 カタンと窓を閉める。
 とん、とベッドの上に座り込んだまま、暫く外を眺めていた。
 マイナス思考に走り出そうとする頭を無理矢理引き止める。
 
 ゾロが戻ってくると言ったならば、戻ってくる。
 戻ってこなければ、追いかけるだけ。
 ニューヨークだろうと、ロサンジェルスだろうと、天国だろうと、地獄だろうと。
 "オレは諦めない"。
 
 オレは、ただ。
 ゾロを信じるだけでいい。
 ゾロがオレのことをからかいはしても……いつでもオレには嘘は吐かなかった。
 最初に、オレのことを引き離そうとした時以外には。
 
 「…早く帰ってこないかな、」
 早く、アナタと触れ合いたいよ。
 早く抱きしめて、触れ合って…。
 指先を見詰める。
 バンドエイド。
 
 「……さっきのは、噛み付かれたダケ」
 オレが噛み付いたから。
 ゾロの心に。
 「オレが付けた傷痕に比べれば、こんなのは軽い」
 深い息を吐く。
 
 ゾロは戻ってきたら、オレを抱いてくれるかな?
 ……高望み、なのかな?
 許してもらえるのかな。
 ベッドの足元に畳んであったブランケットを引き摺り、ベッドを降りる。
 ふらりと揺れそうなのに、ブルブルと首を振る。
 
 「……なんだろ、」
 ぽや、ってする…。
 オレがちゃんと食べて、ちゃんと寝てなかったからいけないんだ。
 そうしたら。
 なにがどうであろうと。
 間違えることはなかったのに。
 「ゾロがオレの傍にまた来てくれただけで、嬉しいって」
 ただ、それだけで十分だったのにね。
 
 ずるずるとブランケットを引き摺ったまま、リヴィングのソファに座り込む。
 ブランケットを羽織った。
 ふる、と体が震えて、でもすぐに熱くなる。
 
 「愛してくれるだけで…それ以上は望むものじゃないよね」
 革にぺたりと頬をくっ付ける。
 冷たくて気持ちがいい。
 「……ゾォロ、…ぁいたいよ…、」
 ふわ、と意識が揺らぐ。
 
 闇。
 蠢くものが見えた。
 笑う。
 「帰って……オレはもう、アナタタチに構ってるヒマはないんだ、」
 ゆら、と意識がまた揺れる。
 「オレが…ってるの、は…」
 オレが、待ってるのは――――――ゾロ。
 
 
 
 
 ふわ、と。
 意識が浮いた。
 ウァアアアン、と。
 狼が鳴いた気がした。
 ぱち、と目が開く。
 
 ―――違う、狼じゃない。
 アレはエンジン音。
 砂を撒き散らして帰ってくるゾロの音。
 
 「…He is a Wolf by all means,」
 ああ、でも。ゾロは狼だっけ。
 くす、と笑う。
 ふわ、と意識がまた浮いた。
 
 開けて待っているな、と。
 言われたからソファに凭れたままゾロがドア口に到達するのを待つ。
 バン、と重たいドアの開閉する音。
 足音。
 迷うことなく真っ直ぐにこちらに向ってくる。
 ―――ゾロだ。
 
 ふわ、とまた意識が浮く。
 開けて待っていたらいけないと言ったから、毛布から出て立ち上がる。
 どうしてだろう、指が震えてるね、オレ。
 小さく笑う。
 
 
 
 
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