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 トントン。
 ドア、ノックの音。
 一歩を踏み出す。
 きゅう、と意識がまた浮く。
 
 ドアまで行く。
 立ち止まる。
 一呼吸。
 トン、て1回、また。
 すぐ傍で聴こえた。
 笑う。
 
 がちゃ、と音を立ててドアを開けた。
 「凍死させる気か?ベイビイ?」
 目の前には、に、と笑うゾロ。
 
 ぎゅう、と腕を回して抱きついた。
 「―――オカエリナサイ、ゾロ」
 ぎゅう、と抱きしめられて、嬉しくなる。
 「ゾロ、会いたかったよ」
 「あァ。―――迎えに戻った」
 また強く抱きしめられて、頬を摺り寄せる。
 「嬉しい」
 囁く。
 
 きゅう、とまた腕に力を込めた。
 「アリガトウ、ゾロ」
 ぱたん、と背後でドアが閉まる音。
 暗闇。
 月明かりはここまでは届ききらない。
 リヴィングの中は闇。
 暖かい巣穴。
 
 すりり、とまた頬を摺り寄せた。
 「―――サンジ、」
 「―――Yes?」
 声のトーンが普通になってる。
 …ゾロの声。
 僅かに甘い、ゾロの声。
 耳慣れたトーン。
 
 「Yes, Zoro、」
 顔を上げて、見上げる。
 間近にグリーン・アイズ。
 痛みを帯びてない目。
 
 「おまえはおれのだろう?」
 「そうだよ。オレはアナタのだよ、」
 すい、と唇を引き上げたゾロに。
 オレもまた、口端を吊り上げた。
 浮かれる。
 
 「なら、イイ。何をしようとおれの自由だな、」
 「ハイ」
 きゅ、と甘く胸が鳴った。
 きらっと翠目が闇を映しこんでいるにも拘らず煌いた。
 大好きな大好きな、オレの狼。
 オレはアナタのものだよ、ゾロ。
 
 目を見詰め、微かに首を反らす。
 首筋、ほら。ここに牙を埋め込んでいいのは、アナタだけ。
 
 「おれはオマエを愛するだけだ、オマエがどう言おうとな」
 さら、と告げられた言葉に、またきゅうう、と胸が甘く痛んだ。
 ふう、と息を吐く。
 甘い声。信じられるもの。
 「―――なら、愛して」
 ささやきを返す。
 「オレはアナタだけに、愛されたいよ」
 
 ゾロがすうっと唇を少しだけ寄せて。
 ふ、と笑っていた。
 見詰めたまま、僅かに唇を開く。
 「ゾロ、」
 名を呼ぶ。
 オレの大好きなヒトの。
 
 「"オマエ"の声だな、」
 低い囁きに、少し笑う。
 ―――そうだね。
 ゆっくりと口付けられ、けれどこの翠から目を離すのが惜しくて。
 目線を絡めたまま口付けを受け止める。
 
 ―――オレはなにを、そんなに迷っていたんだろう。
 オレはどうやったらあんなに…不安になれていたんだろう。
 
 ぺろ、と。舌先が唇を擽ってきた。
 唇を開く。
 ぺろ、と。
 それを僅かに舐めた。
 
 差し込まれない熱い塊を求めて、少しだけ啄ばむ。
 やんわりと唇を食まれて、ゾロの唇が浮いていった。
 ―――ゾロ?
 
 く、と腰を抱き寄せられて、肩口に顔を埋めた。
 目を瞑って深く息を吸い込む。
 タバコの匂い、さら、っとしたトワレの匂い。
 僅かに汗と……全部、ゾロの匂い。
 うっとりとする。
 「ぞろだ、」
 ふわん、と意識が浮く。
 
 
 
 
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