ぺたぺたと歩いて、ドアを開ける。
ふわ、と香る、タバコのニオイ。
テーブルの上。灰皿にはタバコの山。
そして、封筒。
「…なんの封筒だろ?」
まあいいや。それよりも。
最初にタップを暫く流してから、水をコップに汲んで、一気に飲む。
すう、と体中に行き渡るのを感じて、なんだか少し強くなった気分。
「ごっはんー、ごっはんー」
そういえば、お腹空くのなんて久しぶりだ。
冷蔵庫を開けた。
「―――りゃ」
空っぽだった。
それもそうか。ずっと空けてたもんね……って、リカルドが、ケアしててくれたんだ……。
「……リカァルド、もうオトモダチに会えたかなあ」
耳に戻る、深い声と甘い声。
「…あんな風に、なれるのかなあ、」
オレとゾロも、いつか。あんな風なバランスを築けるのかなあ。
「なるようにしかならない、か」
笑って冷凍庫を開けた。
「にゃ?」
見たことも無いパッケージ。
1個取り出してみる。
"コーニッシュ・パスティ"。
「……箱のまま、マイクロウェーヴ、highで3分?」
……レンジでチンして、ってゴハンだ。
「うーわ、初めて見る!!」
1個取り出して、説明書通りにマイクロウェーヴにかけた。
どきどき、わくわく。
チーン、って音がして、取り出したら、箱から湯気が出ていた。
マイクロウェーヴは電磁波が確か水分の分子かなにかを揺り動かして、その運動の際に起こる熱を利用して温める…んだったっけ?
「おいしーのかな?どうかな?不味かったらどうしよう?」
箱を空けたら、おいしそうなニオイがしてた。
グラスの水と一緒に箱を持って、ソファにとすん、と座る。
すばやく祈りを唱えてから、ぱくん、と噛み付いた。
「ふぁふ…っ、」
アチチ。
ああ、狼だったら温かいゴハンは食べれなかったね。
真冬に食べた、凍った鹿肉の味を思い出した。
「……んん、」
うん、オイシイ。
こんな食事をしたって聞いたら。セト怒るかなあ?
「でも今度勧めてみようっと」
きっとセト、食べないだろうけど。
一口くらいなら?
ああ、そうだ。戻ったら、セトに報告しないとね。
"人を愛する"ことができるようになりました、って。
「…にゃう」
はぐはぐ、とあっという間に食べて。
美味しかったけれど、サラダが足りないことに気付いた。
でも。いきなり食べても、大変だし。
いまはこれくらいでいいか。
コップの水を飲み干してから、立ち上がる。
「さぁってと。お風呂入ろうっと」
キレイにしなきゃね。
「ゾロ、早く帰ってきてよう」
うきうきとした気分のまま、呟いてみる。
"ゾロと会う"のは、こんなにも楽しいこと。
どうやって忘れてたんだろうね、オレ?
「待ち遠しいなあ」
湯船にお湯を溜めていく。
ちら、と見ると、見たこともない石鹸の入れ物。
リカルドが買っておいてくれたんだ。
なになに?
「―――牛乳ソープ?」
くん、とニオイを嗅いでみる。
「…リカァルド!!ぎゅーにゅーのニオイしないよー!」
ニュー・オーリーンズまで届くかな?……わけないけどさ。
「お風呂だお風呂だわあい」
服を脱いで、溜まりきっていないお湯に浸かった。
水の感触が、気持ちよかった。
「リネンも替えないとねー」
ジョーンと歌った歌を思い出した。
Aguas de Marco.(3月の雨)
今度、CDショップに寄ってみよう。
オレの知らない世界。
ゾロは一緒に聴くかな……?
うん。
未来って、そんなに怖がることもないじゃんね。
「ゾーロー、」
空に呼びかける。
「早く帰ってきてよう」
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