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 涙に濡れて。
 熱に蒼が溶け、色味が甘いだけのそれに変わり。
 口付けを重ねたせいで濡れ、嬌声を零す唇。
 それが、笑みを浮かべた。
 火照った唇がやんわりと容を変え、泣き濡れた顔に笑みを浮かばせる。
 
 身体を推し進め、薄く浮いた背を引き上げさせ。
 思う、
 あぁ、オマエは―――幸せなのか、いま。
 
 情動、というよりは。熱を孕み湧き上がるのは愛情。
 腕の中に「閉じ込めた」者へ。
 やわらかく、煽り。竦まないように悦楽を引きださせ、体温を上げさせ。幾度も高みに押し上げては強張りなど何処にも見つけられなくなるまで慈しみ。
 けれど、それは。良くも悪くもおれのやり方でしかなく。
 焦れて涙を零していた、イトオシイ者。
 
 そして、喉がひくりと上下するのを目で捉えるたびに。
 波間に、躊躇う様が感じられて。
 抱きしめて口付け、望むもののほかの快楽を引き出させ。
 
 溶けちまおう、と思ったから。
 ひりつくような渇きを味わい、けれどそれは飢えることとは遠く。
 尽きることなく、齎される泉。差し出される柔らかい腕と、想い。
 果てない歌。
 包み込まれるかと思った、委ねられた全身。なによりもそのタマシイ。傷つきやすく、そして熱いソレ。
 
 内からの熱に押し出されるように、色付いた唇が零した「願い」は。
 果たすことを厭う筈も無く。
 望むままに、幾度も高みを迎えさせ、迎え。
 強請る声に、肌に痕を散らし。
 身体を繋げたまま、引き上げ。必死に力の覚束ない腕が回され、縋りつくのを。
 喉奥で笑いが微かに引き起こされ、それは愛情に他ならなかった。
 
 甘い声、押し上げられるままに零してく姿は。
 引き起こされる波に従順に呑まれていき、眼差しが蕩放い。
 触れる指先、肌に落とす吐息にさえあまく震え。
 押し上げられた悦楽に見開かれた蒼から、涙が零れ落ちていっていた。葉から零れ落ちる雫めいて、色を乗せた頬を滑り落ち。
 瞬きをしても、なお。それを知覚することは無かったのだろう。
 
 あまい鳴き声、それを唇で覆う。
 閉じ込めさせ、上がる体温を慈しみ。溶け入りそうに熱いうちを穿った。
 絡みつく熱、また鼓動がひとつ競りあがり。
 肩口にキバを埋める。
 舌先で擽り。
 跳ね上がる身体をまた押し抱く。
 
 掠れた嬌声は、天上の音色じみているかと思う。けど、あのタイクツな場所にはある筈もナイか―――
 浮く思考に。絡みつき締め付ける熱が拍車をかける。
 
 名を呼ぶ。
 甘く、肌を震わせ。零れ落ちる声がもう何も模れないサンジの。
 肌に口付けるように、オマエの意識に。記憶の中に。
 刻み込まれていくように、と。おれの愛するものの全てはこの名の模るものだ、と。
 
 縋れ、と告げたように。
 名を呼び、熱を引き起こすたびに「あいするもの」が縋る。
 イトオシイ、果てしなく。
 
 ―――オマエを見つけ出したことが間違いなのだとしても。
 常の輪の中に、返してやることが摂理なのだとしても。
 攫って、閉じ込めて。
 けれど、おれは人形が欲しいわけじゃあない、オマエだからこそ。そうまでして欲する。
 
 「―――サンジ、」
 想いの丈、抱きしめる腕が答えだ。
 開かせた身体の奥深くに、落とし込み。注ぎいれ。
 途切れかける息の合い間。
 「―――ぅ、っ」
 コトバ。
 許諾―――?
 
 抱きしめ、ふわりと意識を飛ばして瞼が柔らかく閉ざされる様を。
 見詰め、その瞼に唇で触れた。
 「―――受け止めた、」
 コトバを封じ込める。
 オマエのほかは、いらない、と。
 ――――望みの他は。
 
 くたり、と弛緩し。緊張と解放、それを繰り返した身体が訴える疲労が表情に乗せられていた。
 シーヴァ、あのエサを惜しみなく注いでも意識がふつりと途切れさせられている。
 薄く微笑むサンジの髪に口付ける。
 
 「ハンストしてるんじゃねェぞ……?」
 落とし込む囁き。
 不在の間に。
 輪郭の線が僅かにオトナびていたのだろうに。
 「結果が微妙でつまらねェだろうが」
 
 頬に口付ける。
 ―――バカネコ。
 あぁ、それからな。
 オマエ、おれが前に言ったろ?髪は伸ばせって。
 ―――まったく、ヒトがいねぇと好き勝手しやがって。
 「クマちゃんに借りがまた出来たろうが」
 どうせ、整える程度に抑えて鋏を入れたのはあのリトル・ベアに違いない。
 
 髪にハナサキを潜り込ませ。
 抱きしめてから身体を起こす。
 一眠りする前に、「水浴び」が必要だ。
 離れても、目覚める様子がないのに薄く笑みが勝手に浮かんでいくのがわかった。
 そう、寝てろ。まだ、起きなくていいから。せいぜい――――
 「夢でもおれに抱かれてな?」
 
 
 
 
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