Wednesday, June 12
次に眼をあけたときには。
抱き込んでいたはずのアタマは、おれのカオのすぐそばにあった。
だから、サンジ。
あンた、足をおれに掛けて寝るのはどうにかしてくれ。
復讐心が溜め息とともに消えていきかける。
どうやって起こしてやろうか。
閉じられた睫の落とす影や、描くカーブ。
うっすらと開きかけた口もとや、頤から頬へのつるんとした線が、まだ薄暗い光にぼんやりと見て取れる。
そういえば、ゆうべ。身体が反応した箇所はいくつかあったな。
サンジ本人はそれよりも眠りに意識を取られかけていても。
耳もと、声を落としてみた。どれくらいの深さにおまえはいまいる?
反応ナシ。
ああ、悪いな?もう朝だけど暖めてやろうか?
前髪を梳き上げて、額にかるく唇で触れた。瞼、頬。
ぴくっと睫が動いた。息を詰めて見守れば、まだ起きる気配はなかった。
掌をゆっくりと滑らせて言った。肩口から、手首の方まで。
瞼が少し震えた。もう一度唇で触れる。
「…ン…」
背中、背骨のラインに沿って撫で下ろしてみる。
僅かに、腕の中で身体が動いた。
触れるだけの口付けを落としながら、腰から腰骨へと掌を這わせた。
「…んン…」
握り込まれるようだった指が、ぴくん、と跳ねていた。
―――まだ起きないのか。
ふい、と気紛れが起きた。
Tシャツの中に手を差し入れる。
おれの手は、大抵温度が低い、今朝もそれは同じことで。
いくらなんでも起きるだろう。
掌に直に伝わる熱に、しらずに笑みが零れた。
「…んぁ…」
眉根が寄せられた、表情は。予想以上に視覚に訴えた。
ゆうべ、身体が一番跳ねたラインを辿る。滑らかな肌が掌に気持ち良い。
そして、もう一度名前を呼んでみた。
「…ぁ…ん」
「起きろよ。」
ぱちん、と。機械仕掛けの人形じみた反応。目が開いた。藍のそれ。
手を差し入れたままで抱き寄せてみた。
瞬きを繰り返し、やがて。眼をあわせてやわらかに笑みを浮かべた。
オハヨウ、ゾロ。
小さな声が届いた。
「オハヨウ、」
「ン…」
肩甲骨まで、手を伸ばす。
「暖めさせてもらってる」
「…ふ…ぁ…?」
「あンたのこと」
とろりと笑って、にゃあ、って言いやがった。わらって。
ぽやん、とひらいた唇に、口付けた。
「…ン…」
さて、どうする?
甘い声だ、耳に響く。
髪に手を差し入れて引き寄せてみた。
腕が伸ばされて。背中に回された。
フン?
少し冷たい唇を舌先で辿った。
「…ン」
笑い声に紛れた吐息。熱い中に差し入れた。
「…ンん…ッ」
頬を撫で、少し開かれた唇を味わう。
ゆっくりと。
「…ッ…」
指が、シャツの背を掴んでいるのが伝わった。
上顎をなぞる、竦んだ舌を引き寄せる前に。
くすぐったいのか、僅かに身体がよじれて。
そうと気付けば口付けたままで笑みが勝手に浮かんだ。
「…ぞ、ろ…?」
もういちど、口付けた。
「なんだ、」
答えれば。こそり、と身体を動かして、抱きついてこられた。
蕩けそうな笑顔、というのはまさにいまおれが目にしている表情をいうのだろう。
髪を撫でた。金糸が指を流れる。ふわり、とまた目許が笑みに揺れた。
めもと、唇を落として。
耳もと、声を落として。
深く口付けた。
温かくて。
とても気持ちのいい水に、浮かんでいるみたいだった。
ぷかりぷかり、たゆたう。
けれど。
そろり、と何かが触れて。
身体が容を思い出した。身体が重みを思い出した。
眠っていた奥深いところから、するり、と連れ出される意識。
たゆたっていたみたいだったのに、ぐん、と意識が覚醒した。
目覚め。
名前、呼ばれて。
ぞろ、だ。
目を開けたら、飛び込んできたグリーン。
優しい瞳の色。何かを面白がっているような。
けれど。
うん、優しい目。とても、嬉しい。
そうか、オレ、アナタに起こされたのかな?
でも…間近でアナタに見られているのは…なんだろう、嬉しい。
心のどこかが、リンクしたような、そんな気持ちが沸き起こるから。
お腹あたり、少し冷たい手。じかに感じた。
柔らかい、感触。
抱き寄せられて。
おはよう、って言ったら。おはよう、って返ってきた。
なんだか嬉しい。
背中、掌が滑って。
自分のものではない体温に触れられることに。身体がふるりと震えた。
優しいタッチ。そこから、とろけちゃうような気がする。
笑った。
もっと引き寄せられたから。嬉しくなって、抱きついてみた。
すると、ゆっくりとゾロの舌先が、唇を舐めていって。
なんだか、とても親しい表現に、嬉しくなった。
笑ったら、頬を指が触れていって。
ゆっくりと口付けられた。
いきなり、寝起きの身体、かぁって熱くなって。
行き場の無い熱、どうしたらいいか、解らなくなって。
ゾロのシャツを、掴んでみた。
舌先が、口の中を、つるりと撫でていって。
背中あたりに、その熱がたまっていって。
身じろいだら、ゾロが笑った。
何をゾロがしたいのか、解らなくて。
名前を呼んだら。
なんだ、って低い声が応えた。
甘い声。
それだけで、…いいや、って思った。
どうしてオレに口付けるのか、とか。
それからどうしたいのか、とか。
よくわからないけど、気持ちいいし。
ゾロは解ってしているみたいだったから。
いいや、オレはアナタのゴハンになるのなら。
それも悪くないな、なんて思って。
だから、身体を預けてみた。
抱きついたら、なんだかそれがすごく幸せで。
うん、そうか、キスって気持ちいいね。ジョーンの言ってたとおりだ、なんて思ったら。
とろりと甘い気持ちになった。
勝手に笑みが洩れていった。
髪を撫でるゾロの指。
口付けが目許に落とされて。耳元、声が落とされて。
それからまた、口付けられた。
熱い舌先が、潜り込んできて。何をしていいのか解らず、ただ休めていたオレのソレを、
巻き取っていった。
食べられる、ってこんな気持ちなのかなぁ?
吸い上げられて。
甘く噛まれて。
撫でられて。
擽られて。
なんだか、頭がぽうってしてきて。
それでも、やめてもらいたくなくて。
ゾロの首に手を寄せて、ゾロの舌先を舐めてみた。
舌って、思ったより力が強い器官だ。
とろりとしているのに、柔らかく押し返す。
滑らかで、なんだか甘くて。
夢中になって、ゾロの舌を味わってみた。
ゾロの腕。ぎゅうって抱きしめてくれて。
ああ、キスって、こうするとキモチがイイんだなぁ、なんて、うっとりとした。
息は止めなくても、ダイジョウブで。
その代わり、何度も首の角度を変えるのがコツみたいだ。
だけど、だんだん、口のなか、いっぱいになってきて。
熱い液が、溢れそうになってきて。
なぜか白く霞み始めた頭。
ゆっくりとゾロの舌先から逃げ出して。
こくり、と飲み込んでみた。
とても甘い。
すると、入り込んできていた舌先は、戻ってこなくて。
そのかわり、何度も何度も、唇を吸い上げられるように啄まれた。
んん、身体が熱くなってる。
下腹部、ぞわぞわしてる。
それでも、ゾロから逃げ出したくなくて。
ぎゅう、って抱きついてみた。
あんまり、力入ってなかった気もするけど。
するり、って腰骨のところまで、ゾロの手が滑った。
ぞくぞくぞく。
身体が勝手に跳ねていく。
そこから、熱い何かが広がっていく。
押さえるみたいに、ぐって指先に力が込められた。
は、ぁ。
なんだろう、この感覚?
そこから、痺れていくみたいな。
そこから、溶けていくみたいな。
「…あ、…は…ァ」
息苦しくて、息をしたら。
ゾロの足、下腹に押し当てられるみたいに摺り寄せられた。
いつのまにか移動していた唇は、首筋をきゅう、って噛んで。
あ、あ、あ。
オレ、食われる。
なんとなく、そんな気がして。
さらに身体がふるりと震えた。
…どうなってるんだろう?
薄めを開けて、ゾロを見てみた。
ゾロ、どんな顔してるんだろう?
ゾロ、どこか余裕のない顔をしてた。なにかをガマンしているみたいな。
何に飢えてるんだろう?おなか、空いたのかな?
もうちょっと待って。ドキドキが収まらないと。
立つことも、出来ない気がする。
身体、蕩けちゃってて。
まるで、自分のものじゃないみたいだ。
「サンジ」
低く呟くゾロの声。
ぎゅう、って抱きしめられた。
嬉しい。
どうしてアナタに名前を呼ばれるだけで。
オレはこんなに嬉しくなれるんだろう?
「おまえを、」
ゾロが何かを言ってる。
なぁに?オレはアナタになにをあげられる?
微笑んでみた。
耳。キレイな形。ゾロの。ピアスを指先で遊んで。
抱いちまいてぇよ、と擦れた低い声が囁いて。
いいよ、って答える前に、また口付けられた。
噛み付くみたいな勢い。とても激しい。
焦ることはないのに。
オレはいつでも、アナタを受け入れるのに。
どうしてそんなに必死なんだろう?
抱くって、…どういうことかなぁ?
追いつけないキス。
思考すら掻き混ぜていく。
それから、溜め息のようなものを漏らして、ゾロが離れていった。
急速に遠のく重み。
熱くなった身体。それでもゾロの熱を失って、寂しい。
だけど、指を伸ばすことが出来なくて。
そうっと息を呑んだ。
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