「サーンジ。こいって」
にっこりと笑ったゾロ。とっても嬉しそうだ。
…むむ。納得はいかない。けど。
ゾロが嬉しいと、オレも嬉しい。
ポリポリ、と鼻の頭を掻いて。よし、と心を決めた。
とたとたと歩いて行って。示されたゾロの膝の上。
のっしりと乗っかってやった。…うん。居心地イイや。
すい、と腕が前に回された。肩越しに、首筋に顔を埋められる。
ぽんぽん、とゾロの腕を叩いた。

目の端で、師匠が笑ってるのが見えた。
にゃー。
オレ一人、拗ねてたってしょうがないか。
ゾロの腹に、背中を預けた。
「ぞぉろ?」
はむ、と首を齧られた。
うは、くすぐったいよう。おい、こら、ゾロ!
おなかすいたのは解るけど、ランチすぐなんだから、オレでガマンするな!
「―――ん?」

…というか、兄弟子に支度してもらうのは、心苦しいぞ?
「…手伝ってくる」
キッチンを示した。
きゅ、と肌を吸われた。
「ダメだね」
んん、と勝手に甘い声が漏れた。
「…なんで?」
きゅう、と背中から抱きしめられた。
にゃあ。ハグだったら、あとでいっぱいできるじゃん。
いや。それより。オレからだって、ハグしたいの!

「ゾォロ、はぁなぁせぇ」
する、と耳元に、吐息を感じて。びびん、と神経が反応した。
ナンデ???
ぺろり。
濡れた感触が音と共に伝わった。
「ひゃあ!」
うわ、驚いた。
ゾロが背後でクスクス笑っている。
師匠はさっさとキッチンに消えている。
勝手にやってろ、って、手を振られた。
ゾロの牙、耳朶をやわらかくピアスした。
んん、この体勢ヤだ。オレだって、ゾロに触りたいのに。

「ゾロォ…」
うあ。今の、誰の声?
甘ったるい。
…オレ?オレか!うわー…なんでだろう???
やんわりと噛まれた後、濡れた舌先が、耳の穴に潜り込んできた。

「…ぅン」
ゾワゾワする。
耳から、背骨を伝って、腰まで。電流が走った。
もっと奥を探られる。
や、こら、ダメだってば!!
ゾロの大きな手、腰に滑ってきた。
身を捩る。

「…ぁ…」
てか、耳。
濡れた感触、…変だよう。

「…ぁ…ア」
手が更に滑って、内腿まで落ちていった。
耳元で、ぴちゃり、と濡れた音がして、身体が勝手に跳ねた。
爪が、デニムの縫い目に沿って撫でながら、ゆっくりと上ってくる。
ふるり、と足が震えた。

「あ…ぞ、ろ…ッ」
低い甘い声。オレの名前を呼んだ。
身体の中心部、熱くなっていく。
腹膜の上、ぞわぞわし続けている。
ダメだよ、オレ、溶けちゃうよ。

「あ…ァ…」
ゾワゾワゾワ。
「こうやってもっと溶かして、直に触れて、」
「は…」
だめ、直に触れられたら、オレはきっと。
どうにかなってしまう。
ふわ、と。ゾロの手が、息づき始めた中心に、微かに触れた。

「んン…ッ」
ぞくり。
音を立てて、感覚が反応した。
く、と首に歯を立てられて。
びくん、と肌が波打つ。

「…や…ッ」
どうにか、なってしまう。身体が溶けちゃいそうだ。
ゾロの手を掴んだ。
もう触らないで。
ぞわぞわが収まらなくなる。

くるん、と。身体を回されて。
横を向いた下半身。ゾロに向き直った上半身。
血が昇った目許に、口付けられた。

ゾロ。
オレを助けろ。ゾワゾワが止まんない。
体温が、2度上がっちゃった気がする。
「このまま、溶かしておまえの中に入りてぇな、」

ぞくり。
ゾロの言葉に、腹の中心がズキンとした。
ちゅ、と音を立てて、唇にキスされた。
一瞬、息が止まるかと思った。
それぐらい、強い感覚。

少し開いた唇。
ゾロが啄んで、吸い上げて。
…力が抜けそう。
こんな感覚、初めて知る。
舌が潜り込んできて、しきりに催促してくる。
そうっと差し出した。

頭がぼうっとしてきた。
なんで?どうして?
オレ、熱でもあるのかなぁ…?
背中を、大きな手がそうっと撫でていった。
触れられた場所から、波紋が広がるみたいに。
感覚が、目覚める。
きゅう、と眼を閉じた。
差し出した舌先。
やんわりと絡め取られ、ゾロの口の中に引き入れられた。
ちゅう、と吸い上げられて、指先まで震えた。

「…ッ…」
あ、ア。
クラクラする。
意識が、クラクラする。
もう、ダメだよ、ゾロ。

ゾロのシャツに、しがみ付いた。
なんだか、頭がぽうっとしている。指先まで、熱くなってて。
ヘンだ、オレ、どこかおかしいかもしんない。
ゾロの舌は、くちゅくちゅと口内を探りまわっている。
ぞくり、と背骨に沿って、何かがスパークした。

ゾロ…ダメ…ダメだよ…。
あ、涙出そう。
あ、あ…熱いよ。

力、ダメだ、もう入らない。
熱くて、熱くて、おかしくなりそうだ。
身体の力が、勝手に全部抜けていった。
クラクラ、意識が浮いている気がする。
感覚が、ゾロがくれるものだけを追っていく。

「…んんッ」
舌先、ゾロの口から引き抜いた。
苦しい。
いっぱいになってる。
口の中。

どうにかこうにか、溢れそうな唾液を飲み込んだ。
ゾロの掌、項に添えられて。少し、頭を持ち上げられた。
追って来たゾロの舌先が、引き抜いたばかりの舌を拾い上げて。
きゅ、と強く吸われてから、ようやく離れていった。

「…ァ…」
息。
息、できない。
意識して、空気を吸う。
吐いて。
ゾロの指が、髪をそうっと撫でているのを、感じた。
時折、指先がからかうように、耳朶に触れていく。

キス。
たくさんのキス。
額とか、鼻先とか、頬とか、瞼とか。
顔中に、やさしく振ってきて。また涙が出そうになった。

「サンジ」
低い、甘い、ゾロの声。
だめ。
まだ瞼、持ち上げられない。指に力、入らない。
ぐ、と強く抱きしめられた。

「…ロ」
ゾロ。
名前を呼びたくても、声が出ないよ。
助けてよ。
オレ、だめだ、溶けちゃったよ。

背中、手が宥めるように撫でていった。
頬に音を立てて、口付けられる。
は、…あ…。
どうにか深呼吸を繰り返して。
やたら重たい瞼を持ち上げた。
感覚は、ゾロの息すら感じるぐらいに鋭くなってるのに。
意識は重く、蕩けきっている。
眦に唇が落とされた。
指、やたら重い。
ぐ、と力を入れて。漸く、身体の容を思い出した。

ゾロの肩に、頭を引き寄せられた。
ゾロの肩に、頭を預けきって、呼吸が収まるのを待つ。
心臓。
トクトクトクと、走っている。
血が、身体中を駆け巡ってる。
トリップした時の方が、まだセルフコントロールできてた気がする。
まるで、自分の身体が自分のものみたいじゃないみたいだ。

全身が、信じられないくらい、鋭敏になって。
それなのに、意識が保てない。
頭の中、真っ白になった。
宥めるリズムで、ゾロが背中を撫でてくれているけど。
混乱は、収まらない。
困惑。
オレ、どうしちゃったんだろう?


「…そこまでにしときなさい」
リトル・ベアの声が落ちてきた。
ゾロの身体を、何らかのショウゲキが伝わったみたいだ。
「ってぇ、」
それがオレの方まで波紋のように伝わってきた。
ゾロが少しばかり上を向いた。
「時と場所を選ぶことを学びなさい、狼」
…苦笑交じりの、リトル・ベアの声。

「だから止めただろうが。けどな?」
「なんだ」
「すこしは近づいたと思わないか?あんたも」
びし。
あ、今度は音まで聴こえた。
「ッてぇな、」
「懲りないな」
ぎゅう、と抱きしめられた。
…ええと?

「―――ムリだ。」
リトル・ベアは、オレは殴らないよ?そんなことを思っていたら。
拗ねたようなゾロの声。…甘えてる、みたいな。
リトル・ベアが、特大の溜め息を吐いた。
「もう少ししたら、シンギン・キャットを離しなさい。ランチにする」
さらり。
大きな手が、髪を一度だけ撫でた。
「聴こえたな?」
あ、コレはオレに対しての言葉だ。
うん、ガンバル。

今度は、ゾロが盛大な溜め息を吐いた。
みゃあ。
なんか、オレ、自分の身体、持て余してる気がする。
こんな感覚は、始めてだ。自分で自分の身体がコントロールできないなんて。
オレはどうしちゃったんだろう?

ゾロが、髪に顔を埋めて。また溜め息を吐いた。
そうっと身体を起こされて、腕が緩められる。
ふう。やっと、身体に力が戻った。
ずくずくと身体の奥で熱っていたものが、ゆっくりと収まっていく。
瞬きを繰り返すと、視界もなんとか正常に戻った。
頬を撫でられて、ゾロの顔を見上げると。
ちょっと困り気味な表情を浮べたゾロが、笑いながら見下ろしてきた。

ゾロは、今。
いったいどんな魔法を、オレにかけたの?




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